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2010年12月4日土曜日

clopidogrelとPPI:学会の声明

clopidogrelとプロトンポンプ阻害剤(PPI)の相互作用については未だ未だ分からないことが多いのですが、11月に循環器系や消化器系の学会が共同でエキスパート・オピニオンを出したので簡単に紹介しましょう。


ACCF/ACG/AHA 2010 Expert Consensus Document on the Concomitant Use of Proton Pump Inhibitors and Thienopyridines: A Focused Update of the ACCF/ACG/AHA 2008 Expert Consensus Document on Reducing the Gastrointestinal Risks of Antiplatelet Therapy and NSAID Use

Circulation, Nov 2010; doi:10.1161/CIR.0b013e318202f701

リンク(PDFファイル、オープンアクセスです)


この声明では、過去の様々なエビデンスを回顧した後に、以下のような結論を出しています。


プロトンポンプ阻害剤とチエノピリジンの疫学的エビデンスの評価


関連性は強固か?


疫学的研究は患者背景の違いなどが影響する可能性があるのでリスクが小さい場合は注意が必要だ。臨床的な転帰とPPIの同時使用の関連性が示された研究でもはハザードレシオやオドレシオが2未満と小さい。唯一の無作為化割付試験(COGENT試験)では同時使用と心血管イベントの顕著な関連性は見られなかったが、小規模な試験なので信頼区間が広く、リスクが44%上昇する可能性を否定できていない。


関連性はコンスタントか?


PPIの同時使用と心血管イベントの増加に関する観察的研究の結果は区々であり、過半は何の関連性もなかった。


生物学的尤もらしさはあるか?


ある。CYP2C19の機能喪失多型を持つclopdigrel服用者では心血管イベント発生率が高まる。また、in vitro試験ではPPIがCYP2C19による代謝を阻害することが示唆された。


実験的エビデンスはどうか?


薬力学的試験ではomeprazoleがclopidogrelの血小板凝集抑制力を低下させることがコンスタントに示されている。他のPPIは顕著な影響がなかった。大規模な無作為化割付試験が行われていないので、エビデンスは弱い。進行中のSPICE試験が答えを出す可能性がある。


リスクとベネフィットのバランス


急性冠症候群の治療でステント留置術を受けた患者では、抗血小板薬の心血管ベネフィットは明確だ。抗血小板薬が胃腸出血のリスクを高めることも明らかである。個々の患者についてこのリスクとベネフィットのバランスを評価することが医療提供者の課題だ。


抗血小板薬にPPIを追加するのは胃腸合併症を防ぐことが目的だ。深刻な出血のリスクは様々な因子に影響されるが、一番大きいのは過去の上部胃腸出血歴だ。急性冠症候群で上部胃腸出血歴を持つ患者では二種類の抗血小板薬とPPIを処方することがリスクとベネフィットのバランスを最適にするだろう。冠再建術を受ける安定期の患者は、胃腸出血歴を考慮して再建方法を選択すべきである。冠ステント留置術を選択する場合、この三剤を併用する方がリスクとベネフィットのバランスを好ましくするだろう。


高齢、ワーファリン同時使用、ステロイド、非ステロイド抗炎症薬、ピロリ菌感染などに該当する患者は何れも抗血小板薬併用療法による胃腸出血リスクが高くなる。このような患者におけるPPIの効用は顕著であり、もし心血管イベント削減効果が低下するリスクがあったとしても、効用のほうが上回る可能性がある。一方、胃腸出血リスク因子を持たない患者ではPPIの効用は小さく、抗血小板薬併用だけのほうが好ましい。


消化不良を治療する目的でPPIを処方する場合でも、抗血小板薬の服用を中止するのは好ましくない。胃腸出血の患者が抗血小板薬を中止すると心血管イベントのリスクが高まる。


H2ブロッカーは代替手段として合理的か?


PPIはアスピリンやチエノピリジンを服用している患者の胃腸出血リスクを削減する。これまでのデータはH2ブロッカーより効果が高いことを示唆している。それでも、胃腸出血リスクが小さい患者は、難治性逆流性食道炎でPPIを必要とする場合を除いて、H2ブロッカーが合理的な代替薬になる可能性がある。CimetidineはCYP2C19を競合的に阻害するので、clopidogrel服用者には他のH2ブロッカーのほうが良い選択だろう。


この問題に答えを出すには1万人以上を組み入れた1年以上の試験が必要です。数百億円の費用が掛かるでしょうが、clopidogrelは特許切れが始まっているので、製薬会社がスポンサーになってくれるとは思えません。欧米ではprasugrelという第一三共が開発した薬が販売されているので代替的な選択肢になりますが、もう一つの重要なテーマである、CYP2C19機能喪失多型を持つ患者における有効性はエビデンスが不十分です。ticagrelorという新薬も承認審査中で、発売されれば有力な選択肢になるでしょう。


この問題は、急性冠症候群やステント留置術を受けた患者に関する議論が現状では中心になっています。しかし、clopidogrelは脳梗塞後の再発予防や末梢動脈疾患の心血管イベント予防にもモノセラピーでも使用されています。もしCYP2C19問題が決定的に重要なら、この用途ではアスピリンなど他の薬を使ったほうが良いのかもしれません。もっと議論してほしいと思います。



2010年9月4日土曜日

PLATOゲノムサブスタディ

ESC学会でPLATO試験のゲノムサブスタディが発表されました。無作為化割付前向き試験に参加した患者のうち1万人以上を対象とした、トップクラスのエビデンスです。偽薬対象ではなくclopidogrelとticagrelor(アストラゼネカが開発しているP2Y12拮抗剤)の直接比較試験であることが難ですが、ticagrelorは2C19の影響を受けないので、間接的にclopidogrelの特徴を知ることができます。

発表者の結論は以下の通りです。


  • ticagrelorは急性冠症候群後の主要心血管イベントを防ぐ効果がclopidogrelより高いことがPLATO試験で示された。ゲノムサブスタディでは、ticagrelorの優越性はCYP2C19の機能喪失多型やABCB1トランスポーターの発現低下多型を問わないことが示された。

  • ticagrelor群では2C19機能喪失多型を持つサブグループの主要心血管イベントが持たないサブグループと同程度だったが、clopidogrel群では数値上高く(p=0.25)、治験開始当初の30日間だけの解析では有意水準に達した(p=0.028)。

  • clopidogrel群では機能亢進多型を一つ以上持つ患者は主要出血リスクが数値上高かった。

  • ABCB1の多型はclopidogrelやticagrelorの効果や出血リスクに影響しなかった。


外部リンク:PLATOゲノムサブスタディ(ESCのウェブサイトの学会レポート)


2C19機能喪失多型の有無と
主要心血管イベント発生率
ticagrelorclopidogrelHR95%CI交絡p値
(%)(%)
あり8.611.20.770.60-0.990.46
なし8.810.00.860.74-1.01

注:主要心血管イベントは心血管死・心筋梗塞・脳卒中で1年時点のカプラン・マイヤー推定値。2C19機能喪失多型の有無は2型などの多型を一つでも持っていれば「あり」。


clopidogrelやprasugrelとは異なり、ticagrelorはそれ自体がP2Y12阻害活性を持っているので2C19機能が低下していても効果をフルに発揮できます。2C19による不活性化も受けません。このため、ticagrelorを尺度にしてclopidogrelの2C19影響を推測することが可能です。データを見ると、clopidogrel群の機能喪失多型を持つ患者の主要心血管イベント発生率はticagrelor群の同様な患者、あるいは、clopidogrel群の機能喪失多型のない患者と比べて高く見えますが、交絡p値は有意ではないので、決定的な差ではないことになります。

ここで注意すべきなのは、治験当初の30日間だけの解析では、clopidogrel群の機能喪失多型を持つ患者と持たない患者の主要心血管イベント発生率に2ポイント程度の差が出ていることです。カプラン・マイヤー・カーブからの読み取りですが、「あり」のイベント発生率は6%弱、「無し」は4%弱位です。その後、80日経った辺りから差が縮小し、360日時点では1.2ポイントの差に留まっています(p=0.25)。このため、発表者は「2C19機能喪失多型の影響は急性冠症候群を発症してから1ヵ月程度は大きい」可能性を指摘しています。

PLATO試験は薬物療法による治療を受ける患者も許可されていて、PCIを受ける患者に限定したprasugurelのTRITON試験とは異なっています。PCIを受けた患者だけに限定すればもっと大きな差が出たかも知れません。

発表者の見解がもし正しいとしたら、この問題に関するエビデンスが区々である理由の一部を説明できるかもしれません。例えば、ESCではclopidogrelのCURE試験とACTIVE A試験のゲノムサブアナリシスも発表されました。ACTIVE A試験は心房細動患者の脳梗塞予防試験なので趣がだいぶ違うのですが、どちらも偽薬対照試験であることが長所です。発表者の結論はclopidogrelは2C19多型を問わずに効果があるというものでした。

ACTIVE A試験は急性期の患者を組み入れた試験ではないため影響が表面化し難かったのかもしれません。そう言えば以前書いたCHARISMA試験のゲノムスタディも急性期試験ではありませんでした。

この研究のもう一つの論点は、clopidogrelの効果はABCB1多型の影響を受けない、というprasugrelのTRITON試験とは異なった結果になったことです。理由は良く分かりません。分類方法の違いが影響した可能性もあるのかもしれません。TRITON試験では被験者をT/T型とそれ以外に分けましたが、こちらは三種類に分けています。また、ticagrelorとclopidogrelの効果の差は「高発現型」のほうが大きいように見えますので、ticagrelorも影響を受けるのかもしれません。

依然として分かったような分からないような状態ですが、急性期の患者は2C19影響に注意する必要があるものの、それ以外はそれほど大きな影響はない、というのが現時点の印象です。


2C19と代謝能力の関係の整理

clopidogrelの効果と2C19やABCB1の多型に関する自分の記述を読んでいて、ミスを見付けました。*2と*17をS型と呼ぶとか、ABCB1のT/T型にはprasugrelよりclopidogrelのほうが良さそうとか、正反対のことを書いてしまいました。読んで下さった方に謹んでお詫びいたします。記述は訂正しましたが、正解は*2と非*17がS型、T/T型にはclopidogrelよりprasugrelのほうが良さそう、でした。

2C19多型の話は機能低下変異である*2や*3と、アミノ酸配列の別の箇所の機能亢進型変異である*17があって複雑なのですが、頭にしっかり入っていなかったばかりに混乱してしまいました。復習を兼ねて整理しておきましょう。また、代謝能力との関連性の分類法は複数あることが分かったので、比較表を作ることにしました。出典はticagrelorという第4のADP受容体拮抗剤のPLATO試験のゲノムサブスタディです。被験者(ほとんどがカフカス大人種)のタイプ別の構成比も出ていたので併記します。

clopidogrelは体内で代謝を受けて活性化するプロドラッグです。様々な酵素が関与するのですが、近年の研究でCYP 2C19が特に重要であることが判りました。ところが、この2C19には機能喪失多型があり日本人など中国系は二組の遺伝子の片方又は両方が該当する人が過半を占めるようです。野生型は2C19*1と呼ばれ、機能喪失多型は*2、*3など数種類ありますが*2が一番多いようです。2C19には機能亢進多型もあり、*17と呼ばれています。この二つは異なった箇所の多型なので組み合わせが沢山ありそうに見えますが、実際には、*17があるのは*1だけです。そこで、話を短くするため、ここから先は単に17型(*1且つ*17)、1型(*1且つ非*17)、2型など(*2、*3、... *8)と呼びましょう。

遺伝子は二組あるので組み合わせは6種類になり、それぞれ、代謝能力との関連付けが行われていますが、GuebelとWallentinは少し異なった分類をしています。前置きが長くなりましたが、後は表をご覧ください。白人でもこれだけ代謝能力が違うことに驚かされます。このデータについては改めて書く積りです。

2C19多型と代謝能力
組み合わせGurbel分類Wallentin分類構成比
17型と17型EMURM5%
17型と1型EMRHM28%
17型と2型等NMP/RHM7%
1型と1型NMEM36%
1型と2型等PMIM17%
2型等と2型等PMPM2%



略語

  • EM:Extensive Metaboliser

  • URM:Ultra Rapid Metaboliser

  • RHM:Rapid heterozygote Metaboliser

  • P/RHM:Poor Rapid heterozygote Metaboliser

  • NM:Normal Metaboliser

  • IM:Intermediate Metaboliser

  • PM:Poor Metaboliser


外部リンク:

P. Guebel, JACC 2010年)

PLATOゲノムサブスタディ(ESCのウェブサイトの学会レポート)


2010年9月3日金曜日

clopidogrelと2C19機能亢進多型

clopidogrelの効果に与える影響が注目されている2C19代謝酵素には、機能喪失多型だけでなく、機能亢進多型もあるようです。文献が少なかったのですが、今年に入って幾つかの論文・学会発表スライドを見ることができたので、纏めておきましょう。


clopidogrelのノンレスポンダー問題は色々な要素が影響しているようですが、夫々の要素に関するエビデンスは区々で、まだ決定的な答えは出ていません。血小板凝集試験は比較的クリアな結果になっていますが、虚血性心疾患を防ぐ効果がどの程度左右されるのかが分からないのです。2C19*17という機能亢進多型についても同じことが言えそうです。


clopidogrelはそれ自体には活性がなく、服用後に体内で何回かの代謝を受けて血小板凝集阻害能を持つ活性代謝物に変わります。工程が複雑すぎて発売当初は良く分からなかったのですが、近年の研究で、2C19が特に重要であることが明らかになりました。2C19には*2と呼ばれる有名な機能喪失変異があります。681番目の核酸がグアニンからアデニンに置換されていることが特徴で、正常な蛋白が作られず、酵素として機能しません。白人は少ないのですが、日本人など中国系は、二組の遺伝子のうち一つ以上に2C19*2多型を持つ人が6割程度を占めるので、重要な問題です。


一方、機能亢進多型である2C19*17は806番目がシトシンからチミンに置換されていることが特徴です。ドイツの医療施設で実施されたSibbing等の試験の症例数を見ると、一つだけ持っている人が36%、両方が5%でした。白人にとってはこちらのほうが該当者が多いことになります。置換箇所は制御情報を記述している部位なので、蛋白のアミノ酸配列を記述している部位の置換である2C19*2、*3、*4などとは影響の仕方が違うかもしれませんが、良く分かりません(*3、*4は稀な多型です)。


遺伝子の一箇所の多型が他の箇所の多型と関連していることがあります。P. Gurbelによると、2C19*1(一番多いタイプ)遺伝子は*17を持つ場合も持たない場合もありますが、*2と*17を両方持つ遺伝子はありません。*1と*17を両方持つハプロタイプ(特定の多型の組み合わせ)をF、*1で非*17をN、*2で非*17をSと呼びます(fast, normal, slowの頭文字なのでしょう)。人間は二組の遺伝子を持っているのでディプロタイプは6種類になります。このうち、F/FとF/Nの組み合わせを持つ人がextensive metabolizer(EM:代謝力が高い)、N/NとF/Sがnormal metabolizer(NM:正常)、N/SとS/Sがpoor metabolizer(PM:低い)と分類されています。


リンク:P. Guebel, JACC 2010年)


この分類がどのような根拠に基づくものなのかは分かりませんでした。また、EMとNM、PMの構成比も記されていなかったのでSibbingのデータで試算したところ、夫々3割、5割、2割となりました。EMが結構多いことになります。


さて、clopidogrelと2C19*17に関する代表的な研究が、このSibbing等の試験です。




  • PCIを受ける、clopidogrel 600mgでプリトリートされた1524人を対象に、2C19*17の遺伝子型と30日出血リスク、そして30日ステント血栓リスクの関連性を検討。

  • 野生型が904人、ヘテロ接合型(片方が*17、もう片方は野生)が546人、ホモ接合型(両方*17)は76人だった。

  • ADP惹起血小板凝集のメジアン値(単位:AU x 分)は、夫々、238、215、186で関連性が顕著だった。ヘテロ接合型は野生型比でp=0.039、同じくホモ接合型はp=0.008。

  • 30日出血発生率は2.5%、4.0%、7.9%でホモ接合型は野生型より有意に高かった(オドレシオ3.27、95%信頼区間1.33、8.10)。

  • 30日ステント血栓発生率は0.9%、0.9%、1.3%で関連性のトレンドはなかった。

  • 主要心血管イベントの30日発生率は3.7%、3.2%、5.3%で有意差はなかった。


リンク:D. Sibbingら、Circulation、2010;121:512-518





ホモ接合型は出血リスクがかなり高く、一方、主要心血管イベントは多いので、あまりスッキリしたデータではありません。この試験の数倍の患者を組み入れた研究が待望されます。


2C19に関する先駆的な研究のひとつはShuldinerの試験です。アーミッシュという近代的な医療や生活に背を向けて質素な電化されていない生活をしている人たちを対象とした健常者の試験で、clopidogrelの応答性に2C19*2多型が関連している、しかし、応答性の変動の12%しか説明できないことを発見しました。米国の病院で待機的PCIを受ける人達の試験でも同様な結果になりました。ところが、この研究では2C19*17多型との関連性は見られませんでした。


2C19*17が本当に影響するのかどうか、今のところはハッキリしないと考えておいたほうが良さそうです。







clopidogrelとABCB1多型

(10年9月3日:記述に誤りを見つけたため訂正しました。第5パラグラフに「T/T型にはclopidogrel、それ以外にはprasugrelのほうが良いように見えます」と書きましたが逆でした。ご迷惑を掛けました。)


ACC学会の抄録に、clopidogrelとABCB1トランスポータの多型との関係を論じた研究が出ていました。prasugrelという新薬の大規模な試験のサブスタディで、両方の遺伝子共にC3435T多型である場合は効果が減弱する可能性を示唆しています。3割程度の患者が該当するようなので、白人にとってはCYP2C19多型より重要かもしれません。


clopidogrelの活性化を阻害する要素が、こう次々と出て来ると、組み合わせ毎に検討しなければならないので話がどんどん複雑になります。欧米では『VerifyNow P2Y12』という普通の医療施設でも使える検査装置が実用化されていますが、この検査でclopidogrel応答性を診断して用量や薬剤を調整する手法を検討する数千人規模の試験が三本進行中で今年から12年にかけて結果が発表される見込みです。多型研究は他の薬剤にも応用が利くので重要ですが、現実的な対応策を探る点では、この三本の試験の結果が待ち望まれます。



このABCB1試験は、急性冠症候群の13608人を組み入れてclopidogrelとprasugrelの心血管イベント防止効果を1年以上比較したTRITON試験のゲノム・サブスタディです。2C19多型に関する検討は発表済みで、このブログでも取り上げたことがあります。今回は、薬剤が細胞壁を通過するのを助けるABCB1トランスポータの多型の影響を検討しました。C3435Tという多型を二つ持つ人(T/T型:n=804)とそれ以外(C/T型とC/C型:n=2128)に分けて心血管イベント発生リスクを比較しました。


結果は、まず、clopidogrel群ではT/T型が12.9%、それ以外は8.2%、ハザードレシオ1.66でp値は0.033とボーダーライン周辺ですが有意性が見られました。一方、prasugrel群は各11.0%と9.7%、1.12、0.64で大差ありませんでした。被験者の27%を占めるT/T型ではclopidogrelの効果が減弱することを示唆しています。


2C19多型スタディと同様に群間比較は行われていません。検出力が足りないのは明らかだからでしょう。数字を見比べるとT/T型にはprasugrel、それ以外にはclopidogrelのほうが良いように見えます。試算すると、もしサンプル数が3倍で発生率が同じだったら、T/T型における群間差は有意ではありませんが、それ以外の型では有意水準に達します。第一三共が開発した新薬の長所をアピールするための試験だったのですが、ゲノム・サブスタディはprasugrel群の成績がTRITON試験全体ほど良くなかったので、販促には善し悪しの結果です。


VerifyNowを使う三本の試験は何れもDES留置を受ける2000人以上の患者を対象に、以下の手法を検討します。



  • GRAVITAS試験:ノンレスポンダーを組み入れて負荷用量追加(450mg)・維持用量150mgの群と標準用量(維持用量75mg)を比較。

  • ARCTIC試験:clopidogrelとアスピリンの応答性を検査して両剤の用量を調節する群と検査しないで標準用量を使う群を比較。

  • TRIGGER-PCI試験:ノンレスポンダーを組み入れてclopidogrel標準用量とprasugrelを比較。


日本でもclopidogrelと2C19多型に関する臨床研究が始まったようですが、症例数は数百に留まるようです。多施設共同研究にできないものなのでしょうか?ACCで韓国の研究者が『DES留置後にclopidogrelを1年以上投与すべきか』というホットなテーマを検討した試験の結果を発表しましたが、検出力不足が歴然であったため、論評者らの評価は散々でした。不適切な研究に基づいて結論を出すことは何もしないより悪い、ということなのでしょう。







2010年3月21日日曜日

clopidogrelとPPIの相互作用~EUが添付文書改定へ

EUの医薬品評価委員会であるCHMPがclopidogrelとプロトンポンプ阻害剤の相互作用に関する添付文書の記述変更を勧告しました。これまでは原則として同時服用を推奨しないという内容だったのですが、omeprazoleとそのS異性体であるesomeprazoleだけに限定するというものです。今後、EUの手続きを経て添付文書が変更される予定です。


変更の理由は、omeprazoleと同時投与した試験でclopidogrelの活性代謝物の減少と、血小板阻害活性の低下が確認されたこと。データは添付文書に記載される見込みですが、現時点では公表されていません。他の薬が外された理由はあいまいで、CHMPの発表によると、様々な研究や試験の結果を総合的に評価した上での結論ということです。


clopidogrelを単剤またはアスピリン併用で服用している人は胃腸副作用を被る可能性があるのでリスクが高い患者はプロトンポンプ阻害剤などを服用する必要があります。H2ブロッカーならcimetidineを除いて心配はないのですが、オピニオン・リーダーの中には薬効のエビデンスが不十分であることに難色を示す人もいます。


CHMPがomeprazoleなどに限定したのは、医師や患者の選択肢を奪いたくないという考えもあったのではないでしょうか。玉虫色の判断であるように見えますが、それだけ、この問題の完全解決は難しいのでしょう。







2010年3月14日日曜日

clopidogrelの2C19問題が警告強化に

Clopidogrelのアメリカの添付文書が改定され、2C19薬物代謝酵素の機能が弱い人は用量を見直すか他の薬を使うことを検討するよう推奨する、という内容の枠付き警告(BW)が導入されました。BWは薬を処方する時に注意しなければならない最も重要な事項を大文字・ゴシックで記載し枠で囲ったものです。製薬会社はTVやジャーナルに広告を載せる場合、枠付き警告の内容を明示する必要があります。医療従事者は、アメリカは医療過誤訴訟が多いので、自衛のために事前に患者に伝えて承諾を得ておいたほうが良いかもしれません。BWは通常の警告事項とは全然違う、重大な警告なのです。

但し、影響を受ける人はあまり多くないようです。薬物代謝能力はUM(ultrarapid metabolizer)、EM(extensive metabolizer)、IM(intermediate metabolizer)、PM(poor metabolizer)の4種類に分類されることが多いようですが、添付文書で問題になっているのはPMだけで、白人の2%、黒人の4%、中国系の14%が該当するだけのようです。日本人の場合は1-3割程度と多いようなので、FDAの問題というよりは厚生労働省が検討すべき問題なのでしょう。

clopidogrelはプロドラッグで、体内で様々な酵素に代謝されて活性代謝物に変わり、血小板に不可逆的に結合して阻害します。工程は複雑で、永遠に活性化されないような代謝を受けることが一番多いようですが、活性化プロセスを進んでも様々な酵素が関与する多段階なプロセスを歩みます。欧米では10年以上の使用歴がありますが、2C19の重要性が明らかになったのは数年前のことです。

2C19の遺伝子には様々な多型がありますが、比較的多いのは1型(2C19*1)、2型、3型で、このうち2型と3型は機能喪失多型です。二つの遺伝子のうち、両方が1型の人はEM、片方が2型又は3型の人はIM、両方が2型又は3型の人がPMになります。UMの定義は知りませんが、09年のAHA学会発表の時に書いた17型のことかもしれません。

今回の添付文書変更はメーカー側が実施した健常者クロスオーバー試験が契機のようです。UM、EM、IM、PMの各10人を組み入れて、clopidogrelの活性代謝物の血中濃度や血小板凝集阻害力を調べたところ、UM、EM、IMはそれほど変わりませんでしたが、PMは明らかに成績が悪かったのです。


代謝能力と薬物動態・血小板凝集阻害作用
用量UMEMIMPM
活性代謝物Cmax(ng/mL):
300mg(24h)24(10)32(21)23(11)11( 4)
600mg(24h)36(13)44(27)39(23)17( 6)
75mg(5日目)12( 6)13( 7)12( 5)4( 1)
150mg(5日目)16( 9)19( 5)18( 7)7( 2)
IPA(%、高いほうが良い):
300mg(24h)40(21)39(28)37(21)24(26)
600mg(24h)51(28)49(23)56(22)32(25)
75mg(5日目)56(13)58(19)60(18)37(23)
150mg(5日目)68(18)73( 9)74(14)61(14)
VASP-PRI(%、低いほうが良い):
300mg(24h)73(12)68(16)77(12)91(12)
600mg(24h)51(20)48(20)56(26)85(14)
75mg(5日目)40( 9)39(14)50(16)83(13)
150mg(5日目)20(10)24(10)29(11)61(18)

注:数値は平均値(カッコ内は標準偏差)。

出所:アメリカのレーベル。



この試験には制約があるでしょう。Clopidogrelを服用する人は健常者より血小板活性が高いかもしれませんので、数値が変わってくるかもしれません。また、日本で行われた同様な研究ではIMも数値が悪かったことと食い違った結果になっています。日本試験では活性代謝物のCmaxがIMはEMの0.67倍、PMはEMの0.61倍でした。AUCも各0.71倍と0.57倍で、PMほどではありませんが、IMも影響がありそうに見えます。(Umemura et al. J Thromb Haemost 2008; 6: 1439-1441)

更に、臨床的な転帰に与える影響を調べていません。PMにclopidogrelを倍量投与する手法の有効性も、新薬であるprasugrelにスイッチする方法の功罪も、エビデンスは十分ではありません。

尚、2C19検査は500ドル程度でできるようです。プロトンポンプ阻害剤など関係する薬は少なくないので、一度調べれば何度も役立つかもしれません。

さて、日本は2C19多型に熱心に取り組んでいて、3年前にはH.ピロリ菌除菌療法の先端医療として検査に保険適用が認められたようです。2C19機能低下多型を持っていない人はプロトンポンプ阻害剤の不活性化が早く、奏効率が低下するので、遺伝子検査を行って必要に応じてH2ブロッカーを併用する、という方法です。

その割には、clopidogrelに関するアクションが遅いような気がしませんか?Clopidogrelの日本のticlodipine対照試験のデータを見てみると、脳梗塞試験は血管性イベントのハザード比が0.977、95%信頼区間は0.488、1.957となりました。大体同じですが、非劣性とはいえません。clopidogrel群の真のイベントリスクが倍近い可能性が否定されていないからです。急性冠症候群試験では有効性イベントの発現率が10.25対9.52でやや高く、群間差は-0.73、95%信頼区間は-4.87、3.41なので、この試験も同等性はあったのですが非劣性とはいえません。clopidogrel群のイベントリスクが1.5倍である可能性が否定されていないからです。日本はJ-CHF試験のように検出力の足りない試験を実施して安易に同等と太鼓判を押してしまう癖がありますが、確かめるべきことをきちんと確かめておかないと、後で困ります。clopidogrelは一例でしょう。




2009年11月28日土曜日

clopidogrelの2C19問題:AHAの抄録から(加筆訂正版)

(11月28日付の記事の加筆訂正版です。誤字や括弧の閉め忘れが目立つので直し、メタアナリシスに関するコメントを斜字で加筆して、以前書いたCHARISMA試験のデータが参考になるので再掲しました。)

今年のAHAでもclopidogrelとプロトンポンプ阻害剤(PPI)の相互作用、そしてCYP 2C19機能低下多型との関連性に関する研究結果がたくさん発表されたようです。幾つか興味深いものを紹介しましょう。

その前に、これまでの論点をまとめて起きます。抗血小板薬clopidogrelは経皮的冠介入術(PCI)を受けた患者や脳梗塞経験者などが再発を予防するために大変重要な薬です。特にPCI患者にとっては、アスピリンとclopidogrelを併用して強力に血小板凝集を阻害する、dual anti-platelet therapy(DAT)は欠かせません。PCI後の再狭窄を防ぐために薬物溶出ステント(DES)を留置するケースが増えていますが、ステント血栓のリスクが一年以上続きますので、支障がなければDATを一年以上続けよというのが米国のガイドラインの推奨です。

貴重な薬なのですが、二つの弱点があります。第一に、服用後に体内で数段階の代謝を経てから初めて活性を発揮するプロドラッグなので、効き始めが遅く、また、肝臓酵素の機能具合や薬物相互作用に影響されることです。関与する酵素が多いことや多段階であるため発売当初は仕組みが良く分からなかったのですが、近年になって2C19酵素が特に重要であることが判明しました。問題は二種類あり、第一に、2C19酵素の機能低下多型(2C19*2型が多い)のキャリアはclopidogrelの活性化が中々進まず、血小板凝集抑制作用を通じた心筋梗塞リスク削減効果を十分に享受できない可能性があります。遺伝子は二組あるので片方だけなら何とかなるものですが、clopidogrelの場合は両方の場合(ホモ接合型)だけでなく片方(ヘテロ接合型)でも影響があるようです。ヘテロ接合型を持つ人はホモ接合型よりはるかに多いので重要です。

第二は2C19を阻害する薬との相互作用です。clopidogrelのもう一つの弱点である胃腸出血リスクはアスピリンにもありますからDATはリスクがダブルで高まります。そこで、胃酸の分泌を抑制する薬を併用して予防することがしばしばあるのですが、最も効果の高いPPIは2C19を阻害するので、clopidogrelの活性化を邪魔するかもしれません。これも発売当初は良く分からなかったのですが、様々なエビデンスが積み重なったため疑惑が高まっています。

私の形勢判断は、2C19機能低下多型は大いに疑わしい。薬物相互作用試験、血小板凝集試験、疫学的試験、前向き無作為化対照試験の全てで、懸念が浮上しています。但し、否定的なエビデンスもありますし、影響するのはホモ接合型の時だけ、というデータもあります。無作為化対照試験のエビデンスといっても、サブポピュレーション分析なので各群の該当患者の患者背景(年齢など)に偏りがないとは限らず、完全なエビデンスではありません。

この問題に答えが出るとしたら、アストラゼネカが開発した新薬であるticagrelorの第三相試験、PLATOのゲノムサブスタディでしょう。PLATO試験はticagrelor の心筋梗塞再発リスク削減効果がclopidogrelより高いことを明らかにしました。ticagrelor は2C19の影響を受けないはずですので、2C19機能低下変異のある患者ではもっと大きな差が出るでしょう。過去の研究と比べて症例数が多く検出力が高いので、どのような結果になったとしても、説得力が高いでしょう。

PPIはよく分かりません。薬物相互作用試験や血小板凝集試験では影響が見られますが、このような試験では心筋梗塞削減効果がどの程度低下するかということまでは知ることはできません。疫学的試験では心筋梗塞リスクが高いという結論が出ていますが、PPIを服用している人としていない人では患者背景が違います。疫学的試験では患者背景の違いを修正した上でリスク倍率を推定していますが、修正方法が正しいとは限りません。

前向き無作為化試験ではticagrelorの第三相試験でも、第一三共が開発したprasugrelの第三相試験でも、これらの薬のclopidogrel対比のリスク削減効果はPPIを服用していてもいなくても同程度でした。もっと明確はエビデンスはclopidogrelとomeprazoleの合剤の第三相試験COGENTで、心血管イベントのリスクはclopidogrelだけを投与した群と殆ど同じでした。この試験は開発会社の資金繰りが行き詰まり途中で打ち切りになってしまったのですが、試験のデザインがしっかりしていて、心血管イベント数が当初の計画よりは少ないにしてもかなり多いので、信頼性は高そうです。

clopidogrelの効果が高いといっても、臨床試験期間中に心筋梗塞を再発するのは偽薬群でも一部の患者だけなのですから、恩恵を受けるのは更にその一部の患者だけであり、2C19影響で恩恵を受けられないのは更にその一部に過ぎません。。clopidogrelノンレスポンダー問題が中々解決しない理由は、問題提起する人は沢山いるのですが、多額の資金を投じて確認試験を実施してくれる人が殆どいないからです。その意味で、clopidogrelを倒して天下を取ろうとする新薬が二種類も登場したことはラッキーです。アストラゼネカや第一三共がこの問題を探求する上で重要な役割を果たすでしょう。


前置きが長くなりました。AHAの抄録から、最初に夫々の問題のメタアナリシス、そして2C19多型問題とPPI問題を統合的に分析した研究、日本で実施された2C19多型及びrabeprazoleの影響を調べた血小板凝集試験、そして最後に、詳しいことは良く分からないのですが、機能増強多型の存在を示唆する研究を紹介します。




2C19機能喪失多型の影響に関するメタアナリシス

著者:J. Mega(Brigham and Women's Hospital)等

デザイン:2C19機能低下多型(殆どが*2型)と臨床的な転帰の関連性を調べた9本の試験のメタアナリシス(random-effects model)。被験者の91%はPCIを受け、65%は急性冠症候群症例。MACE(主要有害心血管イベント)解析対象は9684人、ステント血栓解析対象は5772人。

結果:9684人のうち機能低下多型キャリアは28.5%で、ヘテロ(片方だけ)が26.3%、ホモ(両方)は2.2%だった。MACEの相対リスクは1.61で統計的に有意だった(次表)。ヘテロもホモもリスクが高かった。ステント血栓の相対リスクは2.76でこれも有意に高かった。

結論:2C19機能低下多型キャリアは有害心血管イベントやステント血栓のリスクがヘテロ・ホモを問わず高かった。遺伝子検査をすればclopidogrelの恩恵を受けにくい、30%近い患者を特定することができる。


相対リスク95%信頼区間p値
MACE:
キャリア対ノンキャリア1.611.28-2.02<0.001
ヘテロ対野性1.501.08-2.080.016
ホモ対野生1.811.21-2.710.004
ステント血栓:
キャリア対ノンキャリア2.761.77-4.30<0.001
ヘテロ対野性2.511.59-3.98<0.001
ホモ対野生4.782.01-11.39<0.001


これだけ研究の数が増えると一々取り上げるのは大変なので、メタアナリシスがあると助かります。それにしても1.6倍ですか。CURE試験ではclopidogrel併用群の心血管イベント相対リスクは偽薬群の0.8倍でしたので、clopidogrel群から偽薬群を見ると1.25倍となります。CREDO試験では、同様に、1.36倍でした。clopidogrelは急性冠症候群では純粋な偽薬対照試験が殆ど実施されていないので、実際はもっと効果が高いのかもしれませんが、それにしても1.6倍というのは大きすぎる印象です。


尤も、CURE試験でもCREDO試験でも、2C19機能喪失多型を持たない人だけが対象だったらもっと良い結果が出ていたかもしれません。この問題は堂々巡りです。

疫学的試験の弱点は、2C19機能喪失多型を持つこと自体が心血管リスクを高める可能性を考慮していないことです。本来なら、clopidogrelを服用していない人の研究を行って、2C19機能喪失多型自体がリスク因子なのか、もしそうだとしたらリスク倍率はどの程度なのか、検証しなければなりません。

その意味で面白いのは、以前取り上げた、CHARISMA試験のゲノムサブスタディです。偽薬群(アスピリンのみ)のデータを見ると、*2/*2型は8.8%とWT(野生)/WT型の5.1%より高くなっています。残念なことにイベント数が少ないので説得力は今一つですし、リスクが本当に高いとしても現時点では理由が明らかではないので、生物学的もっともらしさに欠けています。




CHARISMA試験のゲノムサブスタディ

D. Bhatta(Brigham and Women's Hospital)等。2009年のTCTで発表

デザイン:CHARISMAは冠動脈疾患などを持つ患者を対象とした心血管イベント初発・再発予防試験で、15603人をDATとアスピリンだけの群に無作為化割付し、メジアン28ヶ月間追跡。数値上はDATのほうが若干良かったが有意差は出ず。ゲノムサブスタディは4862人を対象に2C19酵素の遺伝子を調べ、各ハプロタイプの心血管死・心筋梗塞・脳卒中リスクを野生(WT)遺伝子だけしか持っていない人と比較。



CHARISMA試験全体の成績
主評価イベントの相対リスクN相対リスク95%CI
治験全体15,6030.930.83-1.05
うち、再発予防グループ12,1530.880.77-0.998
初発予防グループ3,2841.20.91-1.59


ハプロタイプ毎の主評価項目発生率
偽薬群n/Nclopidogreln/N
全ユニバース:

7.30%573/78016.80%534/7802
ゲノムサブスタディ:
WT/WT5.10%49/9716.00%57/950
*2/WT4.30%21/4896.70%33/490
*2/*28.80%5/5713.80%8/58
*2/*176.30%10/1597.70%13/170
*17/WT7.50%48/6425.80%37/643
注:主評価イベントは心筋梗塞、脳卒中、心血管死。再発予防グループは冠動脈疾患、心血管疾患、末梢動脈疾患の既往歴あり。





PPI相互作用に関するメタアナリシス

M Singh(Rosalind Franklin Univ of Med and Science)等

デザイン:clopidogrelとPPIの関連性を調べた5本の試験のメタアナリシス(Mantel-Haenszel fixed-effect model、n=29749)。主評価項目はMACE(急性心筋梗塞、再血行再建術、心臓死)。

結果:PPI服用者と非服用者の患者背景には顕著な差はなかった。服用者は非服用者と比べてMACEリスクが有意に高かった(オドレシオ1.65、95%CI:1.55-1.76、p=0.000)。

結論:PPIとclopidogrelを同時使用するとMACEリスクが顕著に高まる。


こちらも1.65倍で2C19多型と同じくらいのマグニチュードを持つリスク因子ということになります。



2C19機能低下多型及びPPI相互作用のメタアナリシス

Jean-sebastien Hulot(UPMC、フランス)等

デザイン:clopidogrelと2C19*2多型の関係を検討した8本9427人の試験とPPIとの関係を検討した8本35108人の試験のメタアナリシス(fixed-effect model)。虚血性イベント(死、再発性心筋梗塞、緊急血行再建術)の発生例を抽出した。

結果:2C19*2多型キャリア(n=2674、28%)は虚血性イベントの発生率がノンキャリアより高かった(10.4%対8.3%、オドレシオ1.31、95%CI:1.12-1.53、p<0.001)。心血管死の増加にも関連していた(各1.8%対1.0%、1.79、1.10-2.91、p<0.019。PPIユーザー(n=15197、43%)は非ユーザーより虚血性イベントのリスクが高かった(25.5%対19.4%、1.48、1.40-1.57、p<0.001)。全データを統合すると、機能低下多型や薬物相互作用によって2C19機能が改変されているclopidogrel服用者は虚血性イベントが50%高い(オドレシオ1.49、95%CI:1.42-1.57、p<0.001)。



こちらのメタアナリシスでは1.3倍と1.5倍で、同じメタアナリシスでも少し違った結果になっています。



2C19機能低下多型とPPI相互作用に関するレジストリーデータ分析

J. Carlquist(Univ of Utah)等

デザイン:IHCS症例登録に組入れられた、DES留置術を受けて退院時にclopidogrelを服用していた患者938人(*2型キャリアは27.1%)のデータを用いて、2C19*2多型やPPI服用の有無と一年間の心筋梗塞・死亡リスクとの関連性を研究。

結果:PPI服用者は2C19*2ノンキャリアでもキャリアでもリスクが高かった。Cox回帰分析ではPPI服用のハザードレシオは2.37で有意、2C19*2キャリアは1.35で有意ではなかった。この二つの要素の間の相互作用は統計学的に有意ではなかった(交互作用p=0.57)。

結論:PPI服用に関連するリスクのマグニチュードは2C19*2キャリアのそれを上回る。PPIのリスクはキャリア、ノンキャリアを問わないので、遺伝子検査するだけでは回避出来ない。この研究は、選択バイアスやPPI自体の直接的な毒性の可能性を除外できていないなどの限界があり、無作為化臨床試験で因果関係の有無を明らかにすべきである。それまでは、DES留置術を受けた患者にclopidogrelとPPIをルーチンに投与することは思いとどまったほうがよい。


1年心筋梗塞・死亡率PPI服用非服用p値
ノンキャリア14.4%5.8%<0.001
キャリア17.6%9.3%0.05
Cox回帰分析によるハザードレシオHR95%CIp値
PPI服用2.371.56-3.61<0.001
2C19*2キャリア1.350.90-2.030.15




この試験で印象的なのは、2C19が機能しているノンキャリアのほうがPPI服用の影響が大きく、PPI服用者のほうがキャリア対ノンキャリアの倍率が小さいという、理屈通りのデータになっていることです。



rabeprazoleとclopidogrelの相互作用

S. Hokimoto(Kumamoto Univ)等

デザイン:冠動脈疾患の127人を対象に、2C19多型やrabeprazoleがclopidogrelの血小板凝集阻害作用にどう影響するかを検討。


結果:extensive metabolizer(2C19*1/*1)が46例、hetero extensive metabolizer(*1/*2、*1/*3)が52例、poor metabolizer(*2/*2、*2/*3、*3/*3)が29例を占めた。血小板凝集活性はこの順に高かった。rabeprazoleを服用(29例)しても服用しなくても(98例)血小板凝集活性に有意な差はなかった。


この抄録は被験者の組入れ条件や統計的な有意性に言及していないこと、rabeprazole投与例が少ないことなど、よく分からないことが多いのですが、興味深いのは2C19機能喪失多型キャリアが欧米の試験と比べてはるかに多いことです。この問題が日本人(と中国人)にとって特に重要であることを示しています。同時に、これだけキャリアが多いのなら日本のほうが研究しやすいかもしれません。

clopidogrelは中国で実施されたST上昇型心筋梗塞のCOMMIT試験で、平均2週間の死・心筋梗塞・脳卒中イベントを偽薬比9%減らすことに成功しました。他の試験と比べると効果が小さいですが、負荷用量を投与しなかったことや期間が短いことが響いたのかもしれません。同時に、今日の視点から見ると、中国人に2C19機能喪失多型が多いことが響いたのかもしれません。



clopidogrelの効果を増強する2C19多型

K. Tiroch(Deutsches Herzzentrum、ドイツ)等

デザイン:急性心筋梗塞の925人を対象に、clopidogrel服用者の2C19*17(C/T)Tアレルと心血管イベントの関連性を検討。

結果:Tアレルのキャリアはノンキャリアと比べてMACE(心血管死、心筋梗塞、ステント血栓確定例、標的血管血行再建術)が18%少なかった(33.6%対40.9%、p=0.047)。

結論:この試験は、機能増強的2C19*17 Tアレルがclopidogrel服用者の心血管イベントを顕著に低下させることを初めて明らかにした。



大変面白い抄録なのですが、ここでいうTアレルがホモ接合だけなのか、ヘテロも含んでいるのか、該当症例数がどの程度あったのかなどが分かりません。ノルウェイのI. Rudberg等(Clin Pharmacol Ther. 2008 Feb;83(2):322-7)がescitalopramという抗鬱剤の服用者を対象に実施した試験では、166人中*17/*17が7人(4%)、ヘテロが59人(35%)でした。結構いるようですが、地域によってかなり異なるようです。因みに日本は少ないようで、、K. Sugimoto等(Br J Clin Pharmacol. 2008 March; 65(3): 437?439.)が弘前大学大学院医学研究科の学生を対象に実施した試験によれば、2C19*17ヘテロ接合型は265人中7人(3%)、ホモはゼロ。*2または*3だけを持っていた人は48人(19%)、*2または*3と*1のヘテロは116人(44%)、*2または*3と*17のヘテロは4人でした。


今日では日本の製薬会社ですら海外での開発を先行させています。日本は海外の大規模な試験のデータと日本の小規模なデータを使って承認申請する戦略です。このような時代だからこそ、人種によって異なる機能喪失多型の影響について、よく調べておく必要があるでしょう。


2009年11月21日土曜日

米国がclopidogrelの警告を強化:日本はどうする?

Plavix(clopidogrel)の米国のレーベルが変更され、2C19問題がセットで警告されました。話自体は前からありますが、注意事項ではなく警告事項に格上げされたことは、FDAの強い問題意識を示しています。


この種の薬は血栓性血小板減少性紫斑症のリスクがあり、従来から警告事項になっています。追加事項の概要を訳すと、


CYP2C19の機能低下に伴う薬効の低下


clopidogrelの血小板凝集阻害作用は全て活性代謝物によるものだ。この代謝の一部はCYP2C19が担っているので、CYP2C19の遺伝子の多型やCYP2C19を阻害する薬の同時使用は妨げになる。CYP2C19の機能が低下している患者やCYP2C19を阻害する薬を服用している患者にPlavixを使うのは避けよ。


遺伝子多型


CYP2C19機能が遺伝子的に低下している患者は抗血小板反応が弱く、全般的に、通常の機能を持つ患者よりも心筋梗塞後の心血管イベント発生率が高い(臨床薬理:遺伝薬理の項を参照のこと)。



(遺伝薬理の項は以前書いたのと変わっていません。この問題に関する研究成果をまとめて、2C19*2や2C19*3多型を一つ又は両方の遺伝子に持つ人は活性代謝物のCmaxやAUCが30-50%低く、血小板凝集阻害検査値が30%以上悪く、心血管イベントのリスクが高いと述べています。)


薬物相互作用


プロトンポンプ阻害剤の一つでCYP2C19を阻害するomeprazoleをPlavixと服用すると、同時に服用しても12時間後に服用しても、Plavixの薬理学的活性が低下する。胃酸を抑制する他の薬、例えば多くのH2ブロッカー(CYP2C19阻害作用を持つcimetidineを除く)や制酸剤がclopidogrelの抗血小板活性に影響することを示すエビデンスはない(事前注意:薬物相互作用の項を参照のこと)。


何が理由で警告強化されたのでしょうか?ヒントになるのがこの事前注意:薬物相互作用のところに記されている相互作用試験です。


omeprazole


クロスオーバー試験で72人の健常者にPlavix(負荷用量300mgに続いて一日75mg)を単独またはomeprazole(80mg)と同時に5日間投与した。同時服用時はclopidogrelの活性代謝物の曝露が46%(第一日)と42%(第5日)低下し、平均血小板凝集阻害(IPA)は47%(24時間)と30%悪化した。別の試験では72人の健常者にこの二つの薬の同じ用量を、12時間離して投与した。結果は同様であり、時間をずらしても相互作用を防ぐことはできないことが示唆された。


omeprazoleは逆流性食道炎やびらん性食道炎、ピロリ菌除菌療法などに用いられていますが、一日用量は20mgまたは40mdです。ゾリンジャー・エリソン症候群のように胃酸分泌が著しく多い患者の治療は60mg-360mgと大変な高用量を使いますが、それにしても、80mgではありません。おそらく、2C19機能低下患者でomeprazoleの代謝が遅れて血中濃度が高くなる事態を想定したのでしょう。


薬物動態試験とex vivoの血小板凝集阻害試験だけで結論を出してよいのか、釈然としません。AHAとACC学会が出した声明も、FDAの警告内容を列記するだけで独自のコメントや、このようなケースで必ず付記される「現在服用している人は勝手に服用を止めず、心配なら医師に相談してください」という一文すらありません。FDAがここまで強く言っているからには他にも何か根拠があるのでしょう。この試験の論文刊行・学会発表が望まれます。最終的に薬を決めるのは医師なのですから、判断の手助けになる納得の行くデータを出さなかったら、警告を出しても無意味です。


さて、以前書きましたように、日本人は2C19機能低下多型を持っている人が過半を占めるようなので、私たちにとっては大変重要な問題です。考えてみれば、cimetidineと同時使用すると排泄が半減するticlopidineは日本では海外の半分の用量しか承認されていません。よくあることなので不思議に思いませんでしたが、ticlopidineが半分ならclopidogrelは海外より高用量を使うなり、それこそ2C19多型を検査して量を加減したほうが良いのかもしれません。


PCIとステント留置術に伴う心筋梗塞やステント血栓を防ぐ上で大変重要な薬ですから、日本人の過半がノンレスポンダーだとしたら大変なことです。厚生労働省や機構の皆さん、学会の先生方、この問題を放置して良いのですか?FDAのアクションを傍観して感染症の被害者を増やした、ドラッグラグならぬインフォメーションラグを繰り返してはいけません。



2009年11月1日日曜日

clopidogrelと2C19多型 Medcoの戦略

Plavix(clopidogrel)と2C19機能低下多型との関連は現在も議論の対象になっています。エビデンスを増やす必要がありますが、アメリカのPBM(薬剤費給付管理組織)Medco Health Solutions社が、新たな観察的試験、GeCCO試験を立ち上げました。急性冠症候群でPCIを受ける14600人を組入れ、09年10月開始、11年10月に完了する計画です。


リンク:ClinicalTrials.gov


PBMは医療保険の薬剤費管理を代行する組織です。購買力を生かして製薬会社から大口割引を引き出すと共に、ジェネリック薬の普及推進などを通じて医療費を抑制します。今回の試験の狙いを一言で言うと、2012年にclopidogrelのジェネリック薬が発売されることを睨んで、「2C19が正常に機能している患者には高価なEffient(prasugrel)ではなくclopidogrelのジェネリックで十分」というエビデンスを獲得することです。


アメリカは国民皆保険制ではなく、公的制度は高齢者向けのメディケアや低所得者向けのメディケイドなどだけで、国民の大半は民間の医療保険に加入しています。良し悪し両方ありますが、今回の試験は民業の長所を表しています。コスト削減策を正当化するためにきちんとしたエビデンスを作ろうとしていること、ジェネリック化の前に完了することでエビデンスを直ぐに活用できるようにしていること、などです。


この試験は前向きコフォート試験で、clopidogrelを服用する患者に2C19多型検査を行って、extensive metabolizers(機能喪失多型を持っていない)と判定された人の心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中のリスクを、prasugrelを服用する患者と比較します。


残念なのは、prasugrel群の多型検査は行わないことです。これまでの疫学的研究と同様に、もし2C19機能喪失変異自体が心血管リスク因子であった場合、研究の意味がなくなってしまいます。



2009年10月3日土曜日

clopidogrelとPPIの新エビデンス

TCTでは、clopidogrelとプロトンポンプ阻害剤の相互作用に関する新エビデンスも発表されました。こちらも厳格な論者を満足させることはできないかもしれませんが、ファイナル・アンサー?と訊かれたら迫力に押されて思わずハイと答えてしまうかもしれません。



COGENT試験の概要(学会発表者:Dr. D. Bhatta)

  • clopidogrel(75mg)とomeprazole(20mg)の配合剤CGT-2168の胃腸有害事象削減効果を確認するために実施された無作為化二重盲検二重ダミー偽薬対照試験。

  • 対象は急性冠症候群やステント留置術の経験者でclopidogrelとアスピリンの併用療法を受ける患者。腸溶性アスピリン(75-325mg)を使用。プロトンポンプ阻害剤などを必要とする患者は除外。

  • 主評価項目は上部胃腸出血、内視鏡などによって確認された症候性胃腸十二指腸潰瘍、胃腸閉塞・穿孔などの複合評価項目。二次的評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、CABG、PCI、虚血性脳卒中の複合評価項目。独立委員会がアジュディケーションを実施。解析はピロリ菌感染の有無と非ステロイド抗炎症薬の同時使用の有無で階層化。組入れ目標は胃腸イベント数が予想を下回って推移したため、途中で5000人(143イベント)に引き上げられた。

  • 完了前にCGT-2168を開発していた会社の経営が破綻し、治験が打ち切りに。胃腸イベントは105例、心血管イベントは136例で解析。

  • 解析対象は3627人。追跡期間は中央値で133日、最長362日。患者背景は平均年齢67歳、男が68%、急性冠症候群歴36%、ピロリ菌陽性49%。

  • 修正Cox比例ハザードモデルによる心血管イベントのハザードレシオは1.02(95%信頼区間0.70-1.51)。 対照群は1821人中67人、試験薬群は1806人中69人で発生。両群のカプラン・マイヤー・カーブは見事に重なり合っていた。心筋梗塞だけ、あるいは血管再建術だけの解析でも有意差は無かった。サブグループ分析はBMI、年齢、人種、性別、非ステロイド抗炎症剤の服用の有無、ピロリ菌陽性・陰性、病歴の何れでも異質性は無かった。

  • 胃腸イベントのハザードレシオは0.55(0.36-0.85)、p=0.007。



この試験の強みは、私達の関心であるclopidogrelとomeprazoleの併用法の適否を調べることを目的に実施された、前向き無作為化対照試験であることです。あの厳しいFDAから承認を得るための試験なので、厳格なプロトコルが採用されていたでしょう。エビデンスとしては一級品なのではないでしょうか。


弱点もあります。最後まで完遂されなかったことは返す返すも残念です。また、心血管イベントは二次的評価項目ですので、元々、十分な検出力があったのか疑問です。clopidogrelの相対リスク削減率は20-30%なので、相互作用で効果が喪失するという仮説を棄却するためには95%上限が1.25あるいは1.42を下回る必要がありますが、この試験は1.51なので棄却できていません。更に細かいことを言えば、特殊な配合剤なので夫々の薬を併用するのと同じではないかもしれません。


研究者は、心血管イベントは当初の一ヶ月が多いので追跡期間が3-4ヵ月であったことは大きなネックではないと言っています。また、配合剤との違いが気になるならclopidogrelを朝に服用、omeprazoleは夜に服用すればよいと言っています。95%上限については特にコメントしていないようです。途中で打ち切られた試験なので贅沢は言えないのでしょう。


スポンサーの経営が破綻したのに今回の学会発表に漕ぎ着けたのは、この試験を重んじた研究者達が奔走し、資金を集めてデータを救い出したという経緯のようです。胸が熱くなりますね。



clopidogrelの2C19問題:新エビデンス

clopidogrelとプロトンポンプ阻害剤や2C19変異の話は盛り上がってますね。先日のTCT学会でも二つの重要なエビデンスが発表されました。theheart.orgの報道やTCTのウェブサイトにアップされているスライドを元に、まとめて見ましょう。最初は、clopidogrelと2C19多型の話です。CHARISMA試験のゲノム・サブスタディで、2C19機能損失多型はそれ自体が心血管リスク因子である可能性が浮上しました。clopidogrel群だけでなく偽薬群でも心血管イベント発生率が高かったからです。

CHARISMA試験は安定期の心血管疾患経験者や初発予防患者などを対象に、アスピリンとclopidogrelを併用するDAT(dual anti-platelet therapy)とアスピリン単独療法を比較した試験です。需要を更に増やそうという意欲的な試験でしたが、主評価項目(心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合評価項目のリスク)は両群大差なく、出血リスクが高まるだけという残念な結果になりました。

学会発表時にマスコミが大きく報道し、DATを服用している患者が心配して主治医や学会に問い合わせるという事態になってしまいました。対応に忙殺されるだけならまだしも、患者が勝手に飲むのを止めたら大変なことになりかねません。この手の試験は組入れ条件が複雑多岐で正確に説明しようとするとそれだけで紙面が埋まってしまうので、大雑把な書き方にならざるを得ません。記事を読んだ患者が自分にも当てはまるのかどうか判断できずに困惑したからといって、記者や患者を責めるのは酷でしょう。大きな学会ではジャーナリスト向けの説明会が開かれます。発表者や学会側の出席者は治験結果を説明するだけでなく、この試験の対象患者・用法と過去に実施され成功した試験のそれ(例えば急性冠症候群でPCIを受けた患者)の違いをよく説明しておくべきだったのではないでしょうか。

アメリカ国民は医療や薬に対する関心が強く、学会発表が一般紙にも大きく報じられます。私は啓蒙は常に正しいと信じていますが、この命題が成立するためには、情報の発信者である学会や研究者と伝え手であるジャーナリストの意思疎通・連携が欠かせません。

記憶に残っている事件なのでつい横道にそれてしまいました。本題に戻ると、TCTでDr. D. Bhatta(Brigham and Women's Hospital)がこの試験のゲノム・サブスタディの結果を発表しました。全15603人のうち4862人を対象に2C19酵素の遺伝子を調べ、各ハプロタイプの心血管死・心筋梗塞・脳卒中リスクを野生(WT)遺伝子だけしか持っていない人と比較しました。

最初にハプロタイプの分布状況を見ると、WT/WT型が40%、*2/WTが20%、*2/*17が7%、*2/*2は2%でした。2C19*2機能喪失多型だけしか持っていない患者が2%、片方は2C19*2だがもう片方は正常という患者が27%、合計30%ですので過去の白人・黒人のデータと大差ありません。

次にclopidogrel群の機能喪失多型保有者のリスクをWT/WT型と比べると、*2/*2型はハザードレシオが2.38(95%信頼区間1.14-5.00)と有意に高かったのですが、*2/WTや*2/*17は1.1-1.3倍で有意ではありませんでした。TRITON試験でヘテロ接合型でも高かったことと異なった結果になっています。

また、*2/*2型は偽薬群でも1.85(0.74-4.65)でした。過去の疫学的試験では偽薬群の*2/*2型に相当するデータは検討していなかった(できなかった)ので、このデータが本研究の白眉といえるでしょう。疫学的試験や血小板凝集抑制試験では『2C19*2保有者はclopidogrelが活性化されにくいので効果を十分に享受できない』という仮説をもたらしましたが、今回のゲノム試験で、『2C19*2は元々心血管リスクが高い』という新しい仮説が浮上したのです。


CHARISMA試験全体の成績
主評価イベントの相対リスクn相対リスク95%CI
治験全体15,6030.930.83-1.05
うち、再発予防グループ12,1530.880.77-0.998
初発予防グループ3,2841.20.91-1.59

注:主評価イベントは心筋梗塞、脳卒中、心血管死。再発予防グループは冠動脈疾患、心血管疾患、末梢動脈疾患の既往歴あり。


ハプロタイプ毎の主評価項目発生率
偽薬イベント数/nclopidogrelイベント数/n
全ユニバース:

7.30%573/78016.80%534/7802
ゲノムサブスタディ:
WT/WT5.10%49/9716.00%57/950
*2/WT4.30%21/4896.70%33/490
*2/*28.80%5/5713.80%8/58
*2/*176.30%10/1597.70%13/170
*17/WT7.50%48/6425.80%37/643

注:保有者が少ない多型は割愛しました。


学会発表は盛り上がったようで、MedPageなどの報道を読むと、だから疫学的試験は当てにならないと言っただろ、と言わんばかりだったようです。片方だけが*2の患者は数か少なくないので、リスクが見られなかったのは一安心です。ただ、幾つか気になる点があります。

第一は検出力の問題。このゲノムスタディのユニバース全体ではclopidogrel群のイベント発生率は偽薬群より高かったのではないかと思われます。有意差はなく、CHARISMA試験全体でも有意差はなかったので矛盾はしていないのですが、データが指し示す方向が逆です。この試験が1万人以上を組み入れたのはclopidogrelの効果を検出するために必要だったからですが、サブグループに効果がないことを調べるためにはもっとたくさんの症例が必要なのではないでしょうか。*2/*2型の心血管イベント発生数はたった13例です。

また、この試験も疫学的試験と同様に、clopidogrelと偽薬を直接比較していません。イベント数が少なく患者背景の違いを生じてしまうので、無意味なのでしょう。試みに*2/*2患者の心血管イベントのオドレシオを計算してみると、1.57(95%信頼区間0.54-4.52)となりますが、clopidogrelが効果を発揮していないなら1倍であるはずです。今回のデータの精度が高くないことを示しています。因みにWT/WT型では1.19(0.82-1.72)です。

ファイナル・アンサー?と訊かれてもまだハイとは答えたくありません。clopidogrelの心血管リスク削減効果は20-30%に過ぎないので、効果が無かったとしても20-30%程度の違いです。薬効を確認するために大規模な試験が必要なら、薬が効かない可能性を検討するにも1万人級の試験が必要なのではないでしょうか。

AZD6140という新しい抗血小板薬のフェーズⅢ試験PLATOでも9000人規模のゲノムサブスタディが予定されていますので、結果発表が楽しみです。


2009年9月6日日曜日

続:clipidogrelとPPIの関係

欧州心臓学会ESCで抗血小板薬とプロトンポンプ阻害剤(PPI)の関係に関する数多くのデータ発表がありました。一つはprasugrelのclopidogrel対照試験のサブスタディ、一つはclopidogrelを倍量投与した試験のサブグループ分析、残りの一つはticagrelorという新クラスのP2Y12拮抗剤のフェーズⅢ試験のサブグループ分析です。何れも、PPIを同時服用してもclopidogrelの心血管リスク削減効果には大きな影響はないことを示唆しました。

血小板凝集抑制試験や疫学的研究では相互作用リスクが示唆されていますが、CREDO試験のポストホック分析も含めて、心血管アウトカム試験のデータを用いた研究は概して否定的ということになります。

とは言え、まだ結論が出たわけではありません。疫学的研究も、アウトカム試験の解析も、三つの弱点を持つことでは共通しているからです。第一には、PPI服用者と非服用者の患者背景の違いが影響している疑いがあります。第二に、アメリカではomeprazoleがOTCスイッチされているので、担当医が知らないところで患者が服用している可能性があります。第三に、2C19変異を調べていないこと。機能喪失変異を持つ患者はclopidogrelの効果を十分に享受できないのですから、PPIを同時服用しても大きな変わりは無いでしょう。2C19遺伝子のどちらかに変異を持つ人は白人や黒人の3割、中国人や日本人の場合は6割以上と推測されていますので、無視できません。もしPPI相互作用があったとしても、このような患者が含まれていたら影響が薄められて検出しにくくなってしまいます。

ESCの話の前に、clopidogrelとPPIの関係を復習しておきましょう。clopidogrelはプロドラッグで、体内で活性代謝物に変わります。プロセスは複雑で良く分からないのですが、近年のin vitro研究によれば、


  • clopidogrelの85%はエステラーゼによって分解され、不活性代謝物になる。

  • 残りは肝臓でCYP酵素による二段階の代謝を経て活性代謝物になる。

  • 2C19はこの二段階の何れにも関与する。

PPIは2C19によって不活性化されます。結合力が強く2C19から中々放れないので、clopidogrelの活性化が妨げられても不思議はありません。clopidogrelはモノセラピーでも承認されていますが、心筋梗塞の再発予防ではアスピリン併用で用いられることが多いです。どちらも胃腸潰瘍・出血のリスクがあるので、胃腸副作用を予防する目的でPPIも処方することが少なくないようです。もしPPIのせいで心筋梗塞リスク削減効果が低下するとしたら、藪蛇になってしまいます。

幸い、ESCで発表された新しいデータはこのような懸念を支持するものではありませんでした。


O'Donoghueの研究



  • PCIを受ける心筋梗塞・不安定狭心症患者を対象に、prasugrelとclopidogrelの心血管イベントリスクを比較したTRITON TIMI-38試験のデータセットを分析。患者背景の違いをプロペンシティ・スコアを用いて調整したうえで、各群のPPI服用者と非服用者のリスクを比較。

  • clopidogrel群では、PPI服用者と非服用者の修正ハザードレシオは主評価項目の心血管死・心筋梗塞・卒中で0.94、心筋梗塞で0.98、ステント血栓1.08、TIMI定義に基づく主要出血で1.2となり、何れも95%信頼区間が1を跨いでいた(有意な差はなかった)。

  • prasugrel群も修正ハザードレシオが0.97から1.03の範囲内で、いずれの項目も有意差は無かった。

  • この試験ではPPI服用者の4割がpantoprazole(本邦未発売)、37%がomeprazoleを服用していた。pantoprazoleはclopidogrelに影響しないという研究があるためpantoprazole服用者を除外した解析も実施されたが、結果は同じだった。

PPI服用者と非服用者の修正ハザードレシオ

PPI服用服用せず修正HR (95% CI)
clopidogrel群:


n2,2574,538
CV死/MI/卒中(%)11.812.20.94(0.80-1.11)
心筋梗塞(%)9.59.80.98(0.82-1.17)
ステント血栓(%)2.42.31.08 (0.75-1.55)
TIMI主要出血(%)2.41.61.20 (0.80-1.79)
prasugrel群:


n2,2724,541
CV死/MI/卒中(%)10.29.71.00 (0.84-1.20)
心筋梗塞(%)7.77.31.02 (0.84-1.25)
ステント血栓(%)1.11.11.03 (0.60-1.76)
TIMI主要出血(%)2.52.40.97 (0.67-1.39)


注:発生率は14ヵ月間。


以前、イーライリリーがFDA諮問委員会で公表した同様なデータを紹介しましたが、今回は3日間ではなく14ヵ月なので、信頼性が高まっています。一方で、患者背景の違いを修正するために疫学的試験でしばしば用いられるプロペンシティ・スコア法は、評価がまちまちのようですので、割り引いて考えたほうが良いでしょう。

この研究についてもっと知りたい人は、ESCのウェブサイトにプレゼンの要旨とスライドのリンクがあります。


PLATO試験のサブグループ分析



  • PLATOはticagrelorという新薬の心血管イベント削減効果がclopidogrelより高いことを確認するために実施された、PCIまたは薬物療法を受ける心筋梗塞・不安定狭心症患者を対象としたフェーズIII試験。被験者の3分の2がベースライン時点でPPIを服用していた。

  • clopidogrelに対するticagrelorの心血管ハザードレシオは0.84と有意に低かった。PPI服用グループではハザードレシオが0.83、非服用者では0.86で、このファクターがハザードレシオに与える相互作用のp値は0.69だった(有意な影響はなかった)。

PPI服用服用せず
n12,2496,375
CV死/MI/卒中(%):

ticagrelor9.211
clopidogrel1112.9
HR0.830.86
95%信頼区間0.74、0.930.75、1.00
相互作用p値0.69


注:発生率は12ヵ月間。


ticagrelorはプロドラッグではありませんし、不活性化代謝は主として3A4のようですので、2C19の影響は受けないでしょう。もしPPI服用者におけるclopidogrelの効果が弱いなら、その分、ticagrelorの効果が高くなるはずですが、非服用者と殆ど変わりませんでした。

この治験は論文がNew England Journal of Medicineのホームページで先行刊行されています。サブグループ分析のデータはsupplementary materialに収載されています。


CURRENT OASIS-7試験のサブグループ分析



  • clopidogrelの投与量を最初の1週間だけ二倍にする(負荷用量600mg、維持用量150mg/日)用法を標準的用法(各300mg、75mg/日)と比較した、PCIを受ける心筋梗塞・不安定狭心症患者を対象とした30日間の試験。

  • 主評価項目の心血管死・心筋梗塞・卒中は有意差なし(ハザードレシオ0.95)。PCIを受けた患者(被験者の3分の2)だけの解析では0.85(95%信頼区間0.74、0.99)、p=0.036で、二次的評価項目でも良好な結果が出た。しかし、PCIを受けなかった患者は冠動脈狭窄が進行していない患者が多かったせいか、1.17(0.95、1.44)と効果が見られなかった。

  • PCIを受けた患者に関するサブグループ分析では、PPI服用の有無と心血管死・心筋梗塞・卒中リスクの相互作用に関するp値は有意ではなかった。

PPI服用服用せず
n5,5577,675
CV死/MI/卒中(%):

標準用量5.73.8
二倍用量4.23.2
相互作用p値0.408
MI/ステント血栓(%):

標準用量4.83.1
二倍用量3.32.3
相互作用p値0.613


注:発生率は30日間。


この試験はアスピリンの二用量(100mg以下と300mg以上)を比較する試験とfactorial designで実施されました。奇妙なことに、アスピリン高用量群に割り付けられた患者では二倍用量群のハザードレシオが0.83でぎりぎり有意だったのですが、低用量の患者では1.07でした。相互作用のp値は0.043でした。

factorial designの試験で相互作用があった場合は、その時点で、全ての解析が無意味になると聞いた覚えがあります。
しかもclopidogrel試験の主評価項目は失敗したのですから、PCIを受けた患者だけの解析やPPIの影響に関する解析も慎重に受け止める必要があります。

それにしても、異なった研究者が異なった目的で実施した超大規模な試験が、何れも肯定的ではない結果になったのですから、PPI相互作用の可能性をこれまで以上に慎重に考えたほうが良いのではないでしょうか。

この試験は治験論文が未刊行なので細かいところが良く分からないのですが、CARDIOSOURCE(ACCの情報提供ウェブサイト)にプレゼンスライドのリンクがあります。


2009年8月22日土曜日

clopidogrelとPPIの関係

Plavix(clopidogrel)を欧米で共同販売しているサノフィ・アベンティスとブリストル・マイヤーズ スクイブは、カナダでもドクターレターを出したようです。カナダの厚生省のホームページで公開されています。clopidogrelを服用している患者は、プロトンポンプ阻害剤(PPI)のような2C19を阻害する薬を同時使用しないほうが良い、という内容です。

リンクPotential interaction of Proton Pump Inhibitors (PPIs) with Plavix (clopidogrel) - For Health Professionals

エビデンスが明確であるようには思えませんが、H2ブロッカーという代替的な治療法があるので、敢えて危ない橋を渡る必要はないということなのでしょう。

FDAなど監督官庁がこの問題をどの程度重視しているのかも良く分かりません。今年1月にアメリカで承認されたKapidex(ランソプラゾールというPPIのR異性体を用いた新薬)のレーベルにはclopidogrelとの関係は一言も出ていません。審査文書を読んでも、製薬会社やFDAが検討した形跡はありません。経皮的冠介入術・薬物溶出ステント留置術を施行した後はアスピリンとclopidogrelのdual antiplatelet therapyを最低でも1年続けますが、アメリカでは胃腸潰瘍・出血を予防するためにPPIも処方するケースが多いようです。それだけに、等閑にすべき話ではありません。

ところで、このドクターレターに文献として掲載されているものの中に前回書かなかったものがあったので、追加しておきます。


D Sibbing(ドイツ)

Thromb Haemost. 2009 Apr;101(4):714-9.



  • デザイン:PCI・ステント留置後にアスピリンとclopidogrelを服用していて冠動脈造影術を受けた連続1000人の横断観察的試験。三種類のプロトンポンプ阻害剤服用者とそれ以外の患者のADP誘導性血小板凝集をDynabyte社のMultiplateポイントオブケア・インピーダンス凝集計で計測、比較した。

  • 結果:PPI服用者は268人で、その内訳はpantoprazole(本邦未発売)162人、omeprazole64人、esomeprazole42人。omeprazole服用者の血小板凝集は295.5 AU*min(四分位範囲193.5-571.2)でPPI非服用者の220.0(143.8-388.8)より有意に高かった(p=0.001)。pantoprazoleは226.0(150.0-401.5)、esomeprazoleは209.0(134.8-384.8)で非服用者と同程度だった(各p=0.69、p=0.88)。

  • 結論:PCI後の有害イベントに与える影響を決定するために無作為化臨床試験を行うべき。


Edmund Pezalla

J Am Coll Cardiol, 2008; 52:1038-1039


  • デザイン:アメリカの薬品給付管理会社Aetnaの会員データベースの解析。clopidogrelを服用した65歳未満のアドヒランスが良い患者を対象に、その後1年間の保険給付請求を調べ、急性心筋梗塞を示唆する症例を検討した。

  • 結果:PPI非服用者(コントロール)は1年心筋梗塞罹患率が1.38%(4800人中66人)、PPI低曝露群は3.08%(712人中22人)、PPI高曝露群は5.03%で、コントロール群と高曝露群の間に有意差があった(p<0.05)。患者背景の偏りを修正するために、虚血性心疾患、鬱血性心不全、高血圧、高脂血症、糖尿病を持つ患者だけを抽出して解析したところ、高曝露群のコントロール群に対する相対リスクは337%で有意差が維持されていた(p<0.05)。

  • 結論:保険給付請求データに基づく分析には限界がある。しかし、clopidogrelとPPIの間の潜在的に顕著な相互作用が急性心筋梗塞抑制作用を低下させることをエビデンスが指し示しているように感じられる。


1年心筋梗塞イベント発生率
コントロールPPI(低暴露)PPI(高曝露)
特定リスク因子を
持つ患者数
38490536
平均年齢58歳58歳57歳
男性(%)66.964.468.1
心筋梗塞発症者10961
比率(%)2.61011.38
95%信頼区間1.01-4.193.81-16.198.69-14.07


2009年7月18日土曜日

日本人は2C19機能喪失多型が多い

prasugrel(Effient)がアメリカで承認されました。添付文書を読んでいて印象的だったのが、clopidogrelより臨床的な効果が高い理由として、抗血小板作用が高いことだけでなく、CYP2C19多型の影響を受けないことにも言及していることです。後者だけが理由である可能性も指摘しています。確かに、TRITON試験のゲノムサブスタディでは、2C19機能喪失多型を持たない患者には効果が見劣りしました。検出力不足が原因かもしれませんが、保有者の方が少なかったのですから、『非保有者には効果が弱い』という結論を支持しないなら、『保有者には効果が高い』という結論も支持すべきではないでしょう。

さて、アジアの人たちは2C19変異を持っている人が白人より多いようです。そこで、私たち日本人を対象にした調査を集計してみました。健常者やピロリ菌感染者の研究論文6本を集計すると、clopidogrelを活性化するのに必要な2C19に機能喪失変異が全く無い人(Extensive Metabolizer)は35%、二つの遺伝子のうち片方に変異を持ち活性化能力が低そうな人(intermediate metabolizer)が46%、両方とも変異していて活性化出来なさそうな人(poor metabolizer)が19%となりました。こんなに多いとは、驚きです。



2C19機能変異に関する研究結果

第一著者調査対象内訳
nEMIMPM
Ieiri, I健常者2710107
Kimura九州140446333
久保田隆廣東京186658635
石澤幸男河内町高齢者108355617
Sugimoto, Mピロリ菌陽性
胃癌患者
111354729
同ピロリ菌陽性
胃炎・消化性潰瘍
31512014847
梅村和夫健常者4718209
合計934327430177
構成比100%35%46%19%


注:EM(extensive metabolizer)はCYP2C19が*1/*1、IM(intermediate metabolizer)は片方が*1以外、PM(poor metabolizer)は両方とも*1以外。

出所:

  • Ieiri, Iら:Clinical Pharmacology & Therapeutics (1996) 59, 647-653

  • Kimuraら:Ther Drug Monit. 1998;20:243-247

  • 久保田 隆廣ら:薬物動態Vol.16 , No.2(2001)pp.69-74

  • 石澤幸男ら:弘前医学 55; 18-22、2003

  • Sugimoto, Mら:Alimentary Pharmacology & Therapeutics Volume 22 Issue 10, Pages 1033 - 1040 2005

  • 梅村和夫ら:臨床薬理 Vol. 39(2008)、No. 6 pp.238-242

読むことができなかったもの:

  • Tsuneoka, Yら:Life Sciences 59:1711-1715, 1996

  • Takakubo Fら:Pharmacogenetics 6:265-267, 1996

  • Goldstein JA, Pharmacogenetics 7;59-64, 1997

  • Kubota, Tら:Pharmacol 55:2039-2042, 1998

  • Itoh, Kら:Biol Pharm Bull 22:77-79, 1999

  • Bjornssonら:J. Clin. Pharmacol. 43, 943-967 (2003).

  • Yasudaら:Clinical Pharmacology & Therapeutics 84, 417-423 (9 July 2008)

  • Myrandら:Clinical Pharmacology & Therapeutics (2008); 84, 3, 347-361


これまでの研究は、抗癲癇薬やプロトンポンプ阻害剤の効果を考えることが動機であったようです。後者は、機能喪失多型しか持っていない患者はプロトンポンプ阻害剤の不活性化が遅いためピロリ菌除菌療法の奏効率が高いようです。2C19*1を一つだけ持っているintermediate metabolizerはpoor metabolizerとextensive metabolizerの中間くらいになっています。治療効果に影響するのは確かなようですが、効果が高まるなら(副作用が高まらないなら)特に問題は無いでしょう。

clopidogrelの場合は全く活性化できない人に投与しても全く効かないでしょうから重要な問題です。以前紹介した論文では、片方だけの変異でも響くようですから、該当者はたくさんいます。

抗血小板薬は出血リスクがありますが、2C19機能喪失変異を持っている人には関係ないでしょう。効果だけでなく副作用も殆ど無いことになりますが、少なくとも医療費の無駄ですし、該当する患者の治療が疎かになります。

prasugrelは日本でも開発されているので、是非、この問題を明確にしてもらいたいと思います。


2009年5月24日日曜日

Plavixと2C19多型---FDAの見解

アメリカでPlavix(clopidogrel)の添付文書が改定され、代謝酵素多型と効果の関連性や、プロトンポンプ阻害剤との相互作用に関する記述が追加されました。中間報告とでも言うべき内容に留まっていて、具体的な対処法は提示されていませんが、私たちより多くの情報を持っているFDAが承認した文書なのですから、信憑性は高いでしょう。学会で糖尿病分野の審査官が言っていましたが、治験論文は数ページでもFDAに提出される資料は100万ページを超えます。私たちは論文の内容を質す書簡を送ることができるだけですが、FDAは必要があれば追加試験の実施を要請することができます。FDAの見解は軽視できないのです。

レーベルには中国系のデータしか出ていませんが、日本人もCYP2C19酵素の機能が十分ではない人がたくさんいるようです。日本の学界で取り上げるべきテーマなのではないでしょうか。

最初に結論です。


  • ファーマコジェノミクス

    CYP2C19プア・メタボライザー・ステータスはclopidogrelに対する反応低下と関連している。このような人に対する至適用量用法はまだ確立していない。

  • 薬物相互作用
    clopidogrelはCYP2C19によって活性代謝物に代謝されるので、この酵素の活性を阻害する薬はclopidogrelの活性代謝物の量の低下や臨床効果の低下をもたらすと予想される。CYP2C19を阻害する薬(例えばomeprazole)を同時使用しないほうが良い。


次に、前者の説明を読んでみましょう(後者の説明はありません)。


  • clopidogrelは複数のCYP450酵素によって活性化される。

  • CYP2C19は活性代謝物及び2-oxo-clopidogrel中間代謝物の生成に関与している。

  • 薬物動態やex vivo血小板凝集検査で測定した抗血小板効果はCYP2C19の遺伝子型によって異なる。CYP2C19*1多型は代謝機能が完全だが、CYP2C19*2と*3多型は代謝が低下する。他にも*4、*5、*6、*7、*8などの多型があるが、白人の場合は機能低下多型の85%、アジア人の場合は99%を*2と*3の多型が占める。

(%)白人黒人中国人
n1,356966573
Extensive Metabolism:
CYP2C19*1/*1
746638
Intermediate Metabolism:
CYP2C19*1/*2、*1/*3
262950
Poor Metabolism:
CYP2C19*2/*2、*2/*3、*3/*3
2414

出所:Xie et al. Annu Rev Pharmacol Toxicol 2001; 41; 815-50



  • CYP2C19遺伝子型がclopidogrelの薬物動態に与える影響に関して、症例数合計227人の7本の研究が刊行されている。300mgまたは600mgを負荷用量、75mgを維持用量として投与した時、IntermediateとPoor metabolizerでは活性代謝物のCmaxやAUCが30-50%小さくなる。その結果、血小板阻害作用が低下し残余血小板応答性が増加する。

  • 抗血小板反応との関連性は総計4,520人、21本の研究が刊行されている。IntermediateとPoor Metabolizerの抗血小板反応は、個々の試験の検査方法によって異なるものの、典型的には30%以上、低い。

  • CYP2C19遺伝子型とclopidogrelの治療効果の関連性は二本の試験のポストホック・サブスタディ(CLARITY-TIMI 28[n=465]とTRITON-TIMI 38[n=1,477])及び5本のコホート・スタディ(総計でn=6,489)で検討された。

  • CLARITY-TIMI 28とTrenk等のコホート・スタディ(n=765)では心血管イベント発生率の遺伝子型による大きな違いはなかった。

  • TRITON-TIMI 38試験とCollet、Sibbing、Giustiのコホート・スタディ(総計でn=3,516)では、IntermediateとPoor Metabolizerの心血管イベント(死亡、心筋梗塞、卒中)やステント血栓の発生率が高かった。

  • Simonのコホート・スタディ(n=2,208)ではイベント発生率が高いのはPoor Metabolizerだけだった。

  • ファーマコジェノミクス検査によってCYP2C19活性の多様性に関連する遺伝子型を特定することができる。

  • clopidogrelの活性代謝物の形成に影響するCYP450酵素遺伝子変異は他にもあるかもしれない。

FDAはファーマコジェノミクスに慎重なスタンスを取っているため、文章の端々に慎重な表現が付け加えられています。ワーファリンの効果や出血リスクに関連する遺伝子多型の話が掲載された時も、検査を推奨するというよりは、やりたかったらやっても良いというニュアンスでした。この種の研究は前向き無作為化仮説検証的試験ではなく、ポストホックで多様な遺伝子との関連を調べたものが多いため、患者背景の偏りや検定の多重性(20種類の検定を行えばそのうち一つのp値が0.05になる確率は100%になる)を懸念しているのでしょう。

機能低下多型を持っている患者に用量を増やす方法の有効性や安全性は未だ確認されていません。TRITON-TIM 38試験のような大規模な試験でもファーマコジェノミクス試験ではclopidogrelとprasugrelの効果が同じという、全症例の解析とは異なった結果になってしまいました。こんなに大規模な試験でも、この問題に答えを出すには症例数が少なかったのでしょう。

テイラーメード・メディスンと言うは易し、行うは難し。エビデンスは十分ではないのですが、prasugrelの発売後は全患者にprasugrelを投与することで対処されるようになるのではないでしょうか。




2009年3月8日日曜日

Clopidogrelと2C19多型

昨年のAHAで発表された、clopidogrelとPPIの相互作用に関する疫学的試験の論文がJAMA誌に刊行されました。以前書いた2C19機能低下多型の話と比べると複雑なので、以下、主要なデータを見てみましょう。

PPIがclopidogrelの作用を邪魔することを証明するのは大変な仕事です。命題がたくさんあるからです。

  1. clopidogrelは2C19が十分に機能しないと血小板凝集抑制作用を発揮できない。
  2. PPIは2C19の作用を阻害する。
  3. clopidogrelの血小板凝集阻害作用が不足すると心血管イベントのリスクが高まる。
  4. omeprazoleだけでなく他のPPIも相互作用がある。
  5. H2ブロッカーは相互作用がない。

1と2は小規模な試験でも検討できますが、3は大規模な試験が必要です。clopidogrelや新薬であるprasugrelの第三相試験でも、PPI服用者のサブセグメント分析となると検出力が足りないかもしれません。

FDAは、この問題に関する1月の早期連絡の中で、H2ブロッカーがclopidogrelの効果を阻害するというエビデンスは現時点ではない、と言っています。はっきりしたことが分かるまでは、PPIではなくH2ブロッカーを用いたほうが良さそうです。

以下、これらの命題を検討した試験や、参考になりそうなデータを見てみましょう。

関係ある

P. Michael Ho(Denver VA Medical Center)等

JAMA 2009年(オープンアクセス) リンク

  • デザイン:後ろ向きコホート・スタディ。対象は03年から06年に急性冠症候群で退役軍人病院を退院し、clopidogrelを服用した8205人。63.9%が退院時または追跡期間中にPPIの処方を受けた。銘柄はomeprazoleだけが60%、途中でスイッチして複数を経験した患者が37%。PPI服用群の平均年齢は65歳、男が99%、退院時に91%がアスピリン、95%がスタチンを服用。
  • 結果:死亡・急性冠症候群再入院の発生率(メジアン追跡期間521日)はPPI服用者で29.8%、非服用者で20.8%。多変量解析による修正オドレシオは1.25、95%CIは1.11-1.41だった。PPI服用期間との相関性も見られた。ネステッド・ケースコントロール・スタディ方式による解析でも修正オドレシオ1.32、1.14-1.54と関連性があった。一方、clopidogrelを服用しなかった患者の解析ではPPI服用との関連性はなかった(0.98、0.85-1.13)。
  • 考察:前向き無作為化試験で確認する必要があるが、それまでの策として、ガイドラインが推奨しているように、clopidogrelとPPIの併用は胃腸出血リスクの高い患者に限定すべき。

David N. Juurlink(Sunnybrook Health Sciences Centre)等

Canadian Medical Association Journal 2009年 オンライン・パブリケーション(オープンアクセス) リンク

  • 目的と研究手法:clopidogrelとPPIの併用が再梗塞リスクと関連するかを調べるために、カナダのオンタリオ州のデータベースを用いてネステッド・ケースコントロール・スタディを実施。
  • デザイン:02-07年に急性心筋梗塞の治療を受けて退院し、clopidogrelを服用した66歳以上の患者13,636人。最長90日間追跡。メジアン76歳、男56%、30%が入院中にPCI施行。退院後90日以内に31%がPPIの処方を受けた。2C19に影響する他の薬を服用した患者は少なかった。
  • ケースは退院後90日以内に急性心筋梗塞で再入院・死亡した患者734人。コントロールは2057人。ケースはコントロールには幾つかの点で偏りがあった。うっ血性心不全(27%対18%)や糖尿病(28%対20%)が有意に多く、ACE阻害剤服用者(57%対65%)が有意に少なかった。
  • 結果:PPI服用患者と再梗塞のリスクは関連性があった(修正オドレシオ1.27、95%CI 1.03-1.57)。修正前のオドレシオは1.32。2C19を阻害しないpantoprazoleを除外すると、PPI服用者の修正オドレシオは1.40、95%CI 1.10-1.77と高まった。pantoprazole服用者(ケースの194人中46人)は各1.02、 0.70-1.47で関連性は見られなかった。H2ブロッカー服用者(31人)も関連性なし(0.94、0.63-1.40)。また、PPIを止めてから31日以上経った患者にはリスクが見られなかった。
  • 研究の制約:喫煙、血圧、脂肪などのリスク因子に関するデータがないこと。処方箋データベースを用いたのでアスピリンの服用状況が把握できていないこと。
  • 考察:当面の策として、clopidogrelを服用している患者にプロトンポンプ阻害剤を投与するのは可能な限り避けるべき。H2ブロッカーや、もしPPIが必要ならpantoprazoleを用いたほうが良い。

Ronald E Aubert(Medco Health Solutions)等

08年AHA抄録(Circulation、2008年)

  • デザイン:アメリカの処方薬給付管理組織Medcoのデータベースを用いた後ろ向きコフォート・スタディ。05-06年の一年間にステント留置術を受けてclopidogrelを開始し、80%以上の期間に亘って服用を続けた患者14,383人(うち9,862人がPPIを服用)の主要有害心血管イベントを1年間追跡。オドレシオは年齢、性別、有病状況を修正した。
  • 結果:ステント留置前に心血管イベントを経験していない患者(初発予防)では1年間の主要有害心血管イベント発生率がPPI服用群32.5%、非服用群21.2%、修正オドレシオは1.79、95%CI 1.62-1.97。心血管イベント経験済み患者(再発予防)では各39.8%、26.2%、1.86、1.63-2.12となり、いずれもリスクが高かった。
  • 考察:2C19多型との関連性を調べるべき。

Martine Gilard, MD(Brest University Hospital)等

J Am Coll Cardiol 2008年(オープンアクセス) リンク

  • デザイン:無作為化割付血小板凝集阻害性試験。冠動脈ステント留置術を受ける患者にアスピリン(75mg/日)とclopidogrel(負荷用量と、維持用量75mg/日)、そしてomeprazole(20mg/日)又は偽薬を7日間投与。初日と7日目に血小板反応性指数(PRI)をVASP法で測定。
  • 結果:124症例を解析。初日の平均PRIはomeprazole群が83.9%、偽薬群が83.2%で有意差なし。7日目は51.4%と39.8%で前者が有意に高かった(p<0.0001)。
  • 考察:アスピリンとclopidogrelの併用は世界中で広く処方されているが、胃腸出血を防ぐためにPPIも用いることがしばしばある。臨床的転帰に与える影響などを更に研究する必要がある。

Paul A. Gurbel, MD(Sinai Center for Thrombosis Research)等

Gilard等の論文のエディトリアル J Am Coll Cardiol 2008年(オープンアクセス) リンク

  • デザインに関する考察:clopidogrel抵抗性患者や2C19機能低下多型を持つ患者を除外した上で試験するほうが厳格。脂溶性スタチンもclopidogrelと相互作用する可能性があるのでこの点も調べるべき。血小板凝集試験だけでなく臨床的な転帰も調べるべき。

全てのPPIではない

Jolanta M. Siller-Matula, MD (Medical University of Vienna)等

American Heart Journal 2009年 (オープンアクセス) リンク

  • 目的とデザイン:omeprazole以外のPPIもclopidogrelの作用を阻害するのか検討するために、冠動脈疾患でPCIを受ける患者300人に血小板凝集試験を実施。clopidogrelは負荷用量600mg、維持用量75mg、アスピリンは100mg/日を投与。
  • 結果:平均血小板反応性指数(PRI、VASPアッセイ)はpantoprazole服用者(152人)も、esomeprazole服用者(74人)も、PPIを服用していない患者(74人)も殆ど同じだった。ADP誘導血小板凝集検査の結果も違いはなかった。
  • 結論:この二剤はclopidogrelの作用を阻害しない。
  • 考察:omeprazoleがclopidogrelの作用阻害するのは、異性体の片方が2C19によって代謝されることが原因かもしれない(esomeprazoleはomeprazoleのS異性体)。

関係ない

Steven P Dunn(Univ of Kentucky)等

08年AHA抄録(Circulation、2008年)

  • デザイン:CREDO試験(PCI施行予定の冠動脈疾患患者をclopidogrelの28日コースだけの群と、PCI前にプリトリートして術後は最長1年間投与する長期コース群に割付けて比較)のポストホック分析。ベースライン時点でPPIを服用していた患者のイベントリスクを非服用者と比較。
  • 結果:28日死亡・心筋梗塞・緊急標的血管再建術イベントはどちらの群もPPI服用との関連性はなかった(但し、1年投与群はトレンドがあった)。1年死亡・心筋梗塞・卒中イベントは長期コース群も28日コース群も関連性があった。
  • 考察:28日しか投与しなかった群でも有意差が出たことは、薬物相互作用ではなく、PPI服用自体に関連性がある可能性を示している。長期コースはPPI服用者にも非服用者にも効果があった。
CREDO試験の後ろ向き分析
  1年死亡/MI/卒中 OR (95% CI) p値
長期コース
PPI服用(n=176) 23/176 (13.4) 1.633 (1.015, 2.627) 0.043
非服用(n=877) 66/877 ( 7.7)
28日コース
PPI服用(n=190) 28/190 (15.0) 1.554 (1.031, 2.341) 0.035
非服用(n=873) 94/873 (11.1)

prasugrelとの比較

イーライリリーのFDA諮問委員会ブリーフィング資料

  • デザイン:TRITON試験(急性冠症候群でPCIを受ける患者13,000人超にprasugrelまたはclopidogrelを投与して臨床的な転帰を比較)のサブセグメント分析。PPIやH2ブロッカーを服用していた患者の当初3日間のCV死/非致死的心筋梗塞/非致死的卒中発生率を比較。
  • 結果:prasugrelはPPI服用者に対してclopidogrelより有意に優れる。非服用者や、H2ブロッカー服用者・非服用者にも優れるトレンドがあった。
TRITON試験の後ろ向き解析
  n prasugrel clopidogrel 倍率
PPI:
Yes 5,534 4.85% 6.14% 0.79
No 8,074 4.54% 5.29% 0.86
倍率   1.068 1.161  
H2ブロッカー:
Yes 2,066 4.14% 5.84% 0.71
No 11,542 4.76% 5.60% 0.85
倍率   0.870 1.042  

この解析で面白いのは、clopidogrel群のPPI服用者のリスク倍率が1.161と、疫学的試験の数値1.3倍前後より小さいことです。この試験も服用者と非服用者の患者背景は異なるでしょうから単純な比較はできませんが、リスク倍率は試験によって異なることを承知しておいたほうがよいでしょう。

prasugrelは塩酸塩なのですが、塩酸塩が賦形剤と反応して遊離塩基に変わってしまうことがあるようです。遊離塩基はPPIやH2ブロッカーを服用している胃のpH値が高い患者では吸収が悪化するはずなのですが、このデータを見る限りでは、H2ブロッカー服用患者にも十分な効果があるように見えます。

薬物動態が臨床的な転帰とどう関連するのか、これだけ大きな試験を実施してもはっきりしたことは分かりません。難問です。

2009年3月1日日曜日

批判者不在のFDA諮問委員会(続報)

以前書いたprasugrelの諮問委員会の話
��批判者不在のFDA諮問委員会)
について、事実関係がある程度分かってきましたので続報します。


その前に、前回、参考ウェブサイトを書き忘れてしまいましたので付け加えておきます。


  • CardioBrief --- 今回の事件の報道では充実度ナンバーワンで、Kaul博士の出席が取り消されたことを真っ先に報じました。私は今回初めて知ったのですが、元々は循環器系医療従事者向けのニュースサイトです。ライターはLarry Hustenというメディカル・ジャーナリストで、つい最近までthe.heart.orgのエディターだったそうです。

  • CardioBrief: prasugrel関係のたくさんの記事を一覧にしたリンクページ

  • CardioBrief: FDAがジャーナリストと行った電話会議の筆記録

  • the.heart.org --- メジャーなウェブサイトで最初にこの問題を取り上げました。

  • the.heart.org: FDAがKaul博士の出席をキャンセルとしたのは間違いと認めた



prasugrelの諮問委員会に至る経緯



  • 07年12月:イーライリリーが承認申請。

  • 08年4月:FDAのメディカル・オフィサー、Karen Hicksが承認を推奨する審査報告書を管理職に提出。出血リスクや癌の懸念を理由に、投与を一週間のみに限定する厳しい内容(フェーズIII試験では14ヶ月投与)。

  • 08年6月20日:イーライリリーが申請内容の大きな変更を行なう(これが原因で数日後に承認審査期間が3ヶ月延長されましたが、結果的に、1週間限定投与という承認を回避できました)。

  • 08年12月:Hicksの報告書は管理職に受け容れられなかったようで、審査チームのリーダーであるThomas Marciniakが癌問題を中心に再検討し、審査報告書を管理職に提出。投与を一ヶ月に限定する依然として厳しい内容。

  • 09年1月:FDA心血管薬部門のDeputy DirectorであるEllis Ungerが自ら再分析し、審査報告書を管理職に提出。癌の懸念も投与期間の制限も不要と判断。

  • 09年1月30日:FDAが諮問委員会のブリーフィング資料と議事進行予定、諮問委員の名簿をウェブサイトで公開。

  • 同日夜:イーライリリー側がFDAに電話し、諮問委員の一人であるSanjay Kaul博士がprasugrelに関する学会発表などを行っていることを通知。FDA側は、intellectual biasのある委員の出席を禁じる規定に触れるかどうか再検討したが、時間もないことから取りあえず招致をキャンセルすることを決定。FDAの上層部には相談せずに決めた。

  • 09年2月2日:CardioBriefがKaul博士の出席キャンセルを報道。

  • 09年2月3日:Wall Street Journal紙のHEALTH BLOGが安全諮問委員会のメンバーが招致されていないことに対する疑問の声を報道。

  • 同日:諮問委員会が全員一致で承認を勧告。

  • 09年2月19日:消費者保護団体のPublic CitizenがFDAにprasugrelを批判する書簡を送付。脳梗塞・脳内出血経験者などを禁忌とすること、Black Box Warningという最も強力な警告を添付文書に入れること、そして安全諮問委員会のメンバーやKaul博士が招致されなかった理由に関する釈明を要求(Public Citizenの医療部門のヘッドであるSidney Wolfe医学博士は安全諮問委員会のメンバー)。

  • 09年2月23日:FDAがダウ・ジョーンズ、ロイター、ブルンバーグの記者と電話会議を行い、事情を説明。CDER(小分子薬を担当)のDirectorであるJanet WoodcockがKaul博士の招致キャンセルは内部の手続きに反する過ちであったことを認めた。CDERの新薬承認審査局のJohn Jenkinsは、Kaul博士のケースはintellectual biasには当らないとコメントした。

  • 09年2月27日:下院のエネルギー商業委員会のHenry Waxman委員長等が、Kaul博士が欠席したことについて、FDAの長官代行とイーライリリーの会長兼社長に事情説明と記録の提出を要求する書簡を送付。

諮問委員会にはどうしても利害相反が付き物なので、厳格な規定が設けられていて、つい最近も強化されたところです。メーカー側の肩を持つ委員もだめ、批判的な委員もだめとなると、オピニオン・リーダー的な医学者はシャットアウトされかねません。今回の心血管腎臓用薬諮問委員会は定員9名のところ、現時点では4名が空席になっていて、会議のたびに臨時委員を任命している有様です。アメリカの場合、諮問委員会には承認の是非を決定する権限はなく、そのため、無責任な結論を出しても訴えられる心配はないのですが、それでも、委員のなり手がいなくなるようなことになりかねません。






2009年2月21日土曜日

批判者不在のFDA諮問委員会

2月3日にアメリカのFDA諮問委員会で、第一三共がイーライリリーと提携して開発したprasugrelの承認の適否が検討されました。承認申請から1年以上経ち、FDAの審査期限も4ヵ月超過していたので何があったのか訝れましたが、FDAの中で意見がまとまらなかったことが理由のようです。諮問委員は全員が承認に賛成しました。ところが、スキャンダルめいた話が出ています。

PrasugrelはTRITON TIMI-38試験に基づいて承認申請されたのですが、この試験の二次的評価項目の解析を批判していた委員が、直前になって招致取消しになったのです。FDAはその前にイーライリリーから照会を受けたようですが、FDA側は取消しとの関係を否定しています。

諮問委員会は裁判の陪審と同様に、利害関係のない委員が予断を持たずに参加して、協議の上で結論を出します。この利害関係は、主として資金的なつながり(例えばイーライリリーやprasugrelと類似した薬を販売している会社から巨額の補助金を受けているなど)が問題になりますが、intelectual bias、つまり、委員会の議題について事前に明確な結論を持っている場合も、利害相反とみなされるようです。

FDA側の説明は歯切れが悪く、intelectual biasの疑いが生じたのが委員会の直前だったために十分な検討をする時間がなく取りあえず招致を見送ったのであって、intelectual biasを認めたわけではない、と言っているようです。

それにしても、FDAのこのところの動きはパッとしないですね。何をするにも遅く、人員不足で工程をこなせなかったり、係官の間で意見が対立して結論が出せなかったりしているようです。乾癬の薬で深刻な副作用懸念が発生し、FDAはメーカー側に対策を講じるよう要請したのですが、4ヵ月経った今でも何も出来上っていません。そうこうするうちに、ヨーロッパでは、諮問委員会から承認停止の勧告が出ました。新薬の承認が遅れるならまだしも、安全性問題に機敏に対処できないようでは困ります。

ところで、この招致されなかった委員、つまり、Cedars-Sinai Medical CenterのSanjay Kaul博士はどのような見解を持っているのでしょうか。以下、見てみましょう。




TRITON TIMI-38試験の概要と論点


TRITON TIMI-38試験は、宇部興産が創製し第一三共がイーライリリーと共同で開発した抗血小板薬、prasugrelの第三相試験です。心筋梗塞・不安定狭心症でPCIを受ける患者13608人をprasurel群とclopidogrel(標準療法)群に無作為化割付して、メジアン14.5ヵ月治療しました。主評価項目は心血管死(CV死)、非致死的心筋梗塞(MI)、非致死的脳卒中(CVA)の何れかが発生するまでの期間です(time to event analysis)。欧米アジアなどで実施されました。

Prasugrel群の主評価項目発生率は9.9%、clopidogrel群は12.1%で、ハザードレシオは0.81(95%CI 0.73-0.90)、p値は0.001未満となりました。心筋梗塞などを防ぐ効果が有意に高いことになります。CV死や全死亡では有意差は出ませんでしたが、非致死的MIのハザードレシオが0.76と有意に優れていました。

Prasugrelは血小板凝集阻害力が高く、また、clopidogrelと同様なプロドラッグですが体内の代謝プロセスが複雑ではないため、代謝酵素の多型に影響されにくく、活性化までの時間も短いという長所があります。TRITON TIMI-38試験は素質が高いだけでなく即戦力としての能力も優れることを明らかにしました。

効果が高い抗血小板薬は、出血リスクも高くなります。TRITON試験では大出血(2.4%対1.8%)、非致死的出血(1.1%対0.9%)、致死的出血(0.4%対0.1%)の何れの項目でも有意に上回りました。ネットクリニカルベネフィット(主評価項目の差から出血リスクの差を差し引いたもの)はプラスなので、prasugrelが良い薬であることには間違いありませんが、1000人に投与すると3人が副作用で死亡するというのは気分の良いものではありません何とかできないものでしょうか

この治験を主導した血栓学の共同治験グループ、TIMIの回答は、脳卒中・TIA経験者や75歳以上、60kg未満の患者を除外すれば出血リスクは大差ない、というものでした。しかし、詳細なデータが公表されていないために、多くの異論も出ました。

心筋梗塞はPCI前後に発生することが多いのですが、この試験のように無症候性の心筋梗塞もカウントする場合は特にそうなります。一方、出血リスクは治療期間中、ずっと続きます。ですから、高リスクの時期を過ぎたら用量を減らすような工夫をしても良いのかもしれません。

また、どういう訳か、この試験ではprasugurel群の癌や癌による死亡の発生率が高かったのです。症例が少ないので本当にリスクがあるのかどうか、分かりません。

FDAの審査官は出血や癌を懸念して、prasugrelの治療期間を1週間に限定した上で、上司に承認を推奨しました。しかし、上司は納得しなかったようです。再審査の結果、治療期間が4週間に延びましたが、上司は納得せず、諮問委員会の意見を聞くことを決めたようです。

諮問委員会ではこの上司だけがプレゼンテーションを行い、癌問題について楽観的な意見を述べました。諮問委員は癌の懸念はないと結論しました。出血リスクに関する対処も、TIMIの意見を支持しました。


Kaul博士の分析


Kaul博士は心血管分野の臨床試験の解析について、積極的に意見を述べています。TRITON試験に関しては08年のAHA科学部会で3本の発表を行いました。


ポスター#4014 ベネフィットがリスクを上回るのは最初の30日間だけ


  • TRITON-TIMI 38試験はメジアン14ヵ月実施されたが、最初の30日間とその後の期間ではリスクとベネフィットのバランスが異なる。

  • 最初の30日間は心血管死・心筋梗塞・脳卒中のハザードレシオが0.77で統計的に有意。CABG関連以外の大出血イベントのハザードレシオは1.19だが有意ではない。リスク修正後NNTは70。

  • 一方、その後の期間は各0.87(p=0.089)、1.48(p=0.028)、227となり、ベネフィットが不鮮明な一方でリスクは顕著に高まる。

  • 心血管死・心筋梗塞・脳卒中イベント発生率の群間差(2.2ポイント)のうち、4分の3近く(1.7ポイント)は最初の30日間に生じている。

  • リスクとベネフィットを最適化するためには、prasugrelを最初の30日間に留めて、その後は効果の弱いclopidogrelのような薬にスイッチする手法などが考えられる。

割付から30日目まで31日から完了まで
PrasClopPrasClop
CV死、MI、卒中5.7%7.4%5.3%4.5%
HR(95% CI)0.77 (0.68-0.88)0.87(0.74-1.02)
p値0.00010.089
大出血1.03%0.87%1.42%0.97%
HR(95% CI)1.19(0.83-1.70)1.48(1.04-2.10)
p値0.340.028
修正NNT70227

Praはprasugrel、Clopはclopidogrel、NNTは一人を当該イベントから救うために何人に投与したらよいかを示す治療効率性の指標(発生率の絶対差で100を割ったもの)

#4015 複合評価項目の有効性を検証


  • 複合評価項目の構成内容が妥当であるためには、個々の項目が臨床的に同程度の重要性を持っていること、同程度の頻度で発生すること、治療に同程度に反応することが必要。

  • TRITON試験の二次的評価項目であるネット・クリニカル・ベネフィットの構成項目を検証したところ、発生頻度や治療効果に有意な偏りがあった。イベント数の半分、治療効果の殆んどを非致死的心筋梗塞が占めた。

  • Prasugrelのベネフィットは非致死的心筋梗塞という、最重要ではないイベントに偏っている。心筋梗塞イベントの内容に関する情報が欠けているため、十分なベネフィット・リスク評価を行なうことができない。(注:FDAの資料によると、群間の差は殆どが心電図などに基づいて診断されたサイレントMIとのことです)。


#4016 ベイズ法で解析するとリスクのほうが大きい


  • 治療効果やリスクの大きさを定量的に評価するため、ベイズ法を用いてTRITON試験の解析を行なった。

  • TRITONは臨床的に重要な最低限の差である20%の群間差を検出するために実施されたが、差(d)が20%超である事後確率(posterior probability)は40%に過ぎない。Pr(d>20%)=0.4。一方、大出血リスクの差が20%超である事後確率は65%を超える。Pr(d>20%)=0.651。ネット・クリニカル・ベネフィットで臨床的に重要な差がある事後確率は4.5%に過ぎない。

  • 治療ガイドラインで推奨したり、治療方法を決定する時には、統計的に顕著であることと臨床的に重要であることの違いを認識すべきである。

伝統的解析ベイズ解析
リスク倍率
(95% CI)
P値Pr
(d>0%)
Pr
(d>10%)
Pr
(d>20%)
全死亡
/MI/CVA
0.81
(0.73-0.90)
<0.00110.9750.403
CV死
/MI/CVA
0.83
(0.75-0.92)
<0.00110.9380.235
大出血1.32
(1.03-1.68)
0.030.9850.9110.651
大小出血1.31
(1.11-1.56)
0.0020.9990.9670.7
ネットクリニカルベネフィット:
全死亡
/MI/CVA
/大出血
0.87
(0.79-0.95)
0.0040.9980.7910.045
全死亡
/MI/CVA
/大小出血
0.91
(0.83-0.99)
0.0320.9840.3990.003


こうしてみると、Kaul博士の考え方はFDA審査官と似ています。諮問委員会で審査官の意見を支持したかもしれない委員が、直前になって招致されなかったことは、不自然な感じがしますね。






2009年2月17日火曜日

clopidogrelとPPIの併用試験が中止に

clopidogrelとプロトンポンプ阻害剤の相互作用リスクを知る上で重要な試験が打ち切りになってしまいました。


昨年のAHA学会でこの問題に関する様々な抄録が発表されましたが、ACC/ACG/AHAは共同声明を出し、これらの研究は十分なエビデンスとは言えないこと、患者は医師の指示を受けずに服用を止めるべきではないこと、そして、COGENT-1試験(NIHの治験レジストリー)の結果が出ればある程度の答えを得ることができることを強調しました。この三組織が昨年10月に発表した、clopidogrelやアスピリンによる消化器官副作用対策に関するエキスパート・コンセンサス・ドキュメントでもCOGENT-1試験に期待を示しています。


COGENT-1試験はCogentus Pharmaceuticalsという会社が開発したclopidogrelとomeprazoleのコンビネーション・ドラッグの消化器官潰瘍・出血防止効果をclopidogrelと比較した、5000人48週間の大規模試験です。副次的評価項目の一つとして心筋梗塞などのリスクも比較しました。おそらくこの評価項目は検出力不足でしょうが、それでも、ある程度の目安にはなるでしょう。しかし、この試験は中止されたようです。


Cogentusは株式市場に上場していないので、ベンチャー・キャピタリストから資金を得て2007年12月に治験を開始しました。しかし、治験を請け負ったParexel Internationalは昨年12月に参加施設に中止を通知しました。原因は、昨年来の金融市場混乱で、ベンチャー・キャピタルの一社がCogentusに資金を提供できなくなったことのようです。結局、Cogentusは今年1月に裁判所に破産法の適用を申請しました。チャプター7なので、チャプター11とは異なり、会社は存続せず清算されることになります。Parexelも数千万ドルの貸倒が生じているようです。


FDAは1月26日に声明を出して、代謝酵素の多型やプロトンポンプ阻害剤がclopidogrelの効果にどう影響するか、調査を行っていることを公表しました。タイミングから考えると、COGENT-1試験が打ち切りになったために新たな対応を打ち出さざるを得なくなったのでしょう。


clopidogrelはCURRENT/OASIS7という高用量試験が実施され、今年中に結果が発表される見込みです。負荷用量と最初の7日間の維持用量を標準療法の倍に当る600mgと150mgに増やす手法を標準療法と比べたものですが、prasugrelのTRITON試験と同様に、代謝酵素多型や同時使用薬との関連を調べることは可能でしょう。


clopidogrelの薬物相互作用は、数年前にatorvastatinとの関係が疑われたことがありましたが、過去の試験の後ろ向き分析の結果が発表され、沈静化しました。冷静に考えれば、clopidogrelを投与しても大半の患者は結果的に何のメリットも受けません。服用しても心筋梗塞を起こす人や、服用しなくても起こさない人が殆どなのですから、ex vivoの血小板凝集阻害試験だけで判断せずに、心血管イベントが本当に増えるのか大規模な前向き試験で確認する必要があります。疫学研究も患者背景の偏りを排除することは不可能なので、あまり当てになりません。


COGENT-1試験の中止は残念ですが、まだ希望は残っています。








Valsartanは名古屋では引き分けに

次は、同じくACCのLate-breakerで発表されたNagoya Heart Study(NHS)です。試験の内容や結果は納得できるものですが、分からないのは、Kyoto Heart StudyやJikei Heart Studyとの関係です。この二本の試験ではvalsart...