2011年4月10日日曜日

Valsartanは名古屋では引き分けに

次は、同じくACCのLate-breakerで発表されたNagoya Heart Study(NHS)です。試験の内容や結果は納得できるものですが、分からないのは、Kyoto Heart StudyやJikei Heart Studyとの関係です。この二本の試験ではvalsartanがARB/ACE阻害剤以外で治療した群より優れていたのですが、NHS試験ではamlodipineと大差ありませんでした。candesartanとamlodipineを比較した試験も大差なかったので、結局、valsartanが京都や東京で倒したのは雑魚で大将格のamlodipineとは良い勝負、ということなのでしょう。


Nagoya Heart Studyの概要



  • デザイン:名古屋地域などの46施設で実施された多施設試験。PROBE法。intent-to-treat解析。

  • 対象:二型糖尿病又は耐糖能異常を合併する高血圧患者。40-75歳。6ヶ月以内の心血管疾患、狭心症でCCB治療、LVEF40%未満などは除外。valsartan群575例、amlodipine群575例、計1150例。

  • 患者背景:平均年齢63歳、女性34%。平均血圧145/82 mmHg。二型糖尿病82%、耐糖能異常18%。平均HbA1c7.0%。異脂血症43%、心血管疾患歴26%、脳血管疾患歴4%。ベースライン時点の服薬はARB30%、CCB45%、ベータブロッカー22%、SU剤25%、インスリン7%、その他の血糖治療薬34%、アスピリン27%、スタチン40%。

  • 治療方法:valsartan(80-160mg/日)ベースの治療を行う群と、amlodipine(5-10mg/日)ベースの群に無作為化割付。降圧目標は130/80 mmHg未満。降圧不十分な場合はARB、ACE阻害剤、CCB以外の降圧剤を追加可。メジアン3.2年間追跡。

  • 主評価項目:複合評価項目(急性心筋梗塞、脳卒中、PCIやCABG、心不全による入院、突然心臓死)

  • 主評価項目の解析結果:valsartan群のイベント発生率は9.4%、amlodipine群は9.7%、HRは0.97(95%CI 0.66-1.40)、p=0.85で有意な差は無し。

  • 個々のイベントでは、発生数が一番多かったのはPCI/CABGと脳卒中だが、どちらも群間の偏りは無し。うっ血性心不全による入院は3例対15例、HR0.20(0.06-0.69)でp=0.01。

  • 副次的評価項目の全死亡は22例3.8%対16例2.8%、HR1.37で有意差は無いがやや気掛かり。

  • 血圧・HbA1c:valsartan群は131/73 mmHg、amlodipine群は132/74 mmHgで有意な差は無し。HbA1cは両群とも6.7%に低下。

  • 有害事象で多かったのは固形癌、眩暈、肝機能低下など。群間の偏りは無し。


心不全入院で有意差があったことはそれ自体は頷けるものですが、OSCAR試験もNHS試験もPROBE法なので治験医の主観が影響した可能性もあります。複合評価項目の個々の項目の解析は、数が多いだけに、偶然有意差が出てしまう可能性もあります。イベント数がそれほど多くないこと、p値があまり低くないこと、多重性の補正が行われていないようであることを考えれば、慎重に考えたほうが良さそうです。


JIKEI、KYOTO、そしてNAGOYAのHeart Studyは何れもvalsartanの心血管アウトカム試験で、治験名からはvalsartan三部作というイメージが湧きます。JIKEIとKYOTOはvalrartanの心血管イベント予防効果がARB/ACE阻害剤以外の降圧剤で治療した群より有意に優れていて、中でも脳卒中/TIAや狭心症入院、心不全入院などのデータが良かったのですが、何れも医師の判断が絡むソフト・エンドポイントであることが議論の的になりました。二重盲検ではなくPROBE法を採用する場合、このような議論に十分に反応できない弱みがあります。それでも、二本の試験で同じような結果が出たのですから、重視せざるを得ません。


Nagoyaは組入れ条件や対照薬が異なるので同一視できませんが、ARBとamlodipineの間に差が無かったという点では海外で行われたVALUE試験や日本で行われたcandesartanの試験と共通しています。結局、広く用いられている降圧剤同士の比較なら、臨床的転帰に大きな違いはないということなのでしょう。



OSCAR試験のもう一つの見方

アメリカの心臓学会ACCで、日本の多施設共同試験の成果が発表されました。OSCAR試験とNagoya Heart Studyです。大きな学会のLate-breakerとして発表されたため内外のメディアが報道しましたが、やや違和感があります。改めて振り返ってみましょう。


先ず、OSCAR試験の概要と論点です。この試験は低用量のARB(olmesartanを使用)だけでは管理不十分である高齢高血圧の患者の治療法を検討したものです。増量とCCB(azelnidipine又はamlodipine)追加の心血管イベント発生リスクを比較したのですが、どちらも大差ないという結論になりました。しかし、本当に同じなのでしょうか?


OSCAR試験の概要


  • 治験デザイン:日本の134施設の多施設共同試験。PROBE法。Intent-to-treat解析(評価対象は増量群578例、CCB追加群586例の合計1164例)。

  • 対象:一つ以上の心血管リスク因子(脳血管疾患、心臓疾患、血管疾患、腎機能低下、二型糖尿病)を持つ高齢(65~84歳)高血圧。。

  • 患者背景:平均年齢73歳、男性44%、平均血圧158/85 mmHg。既往は脳卒中18%、心筋梗塞3%、心不全7%。二型糖尿病54%。

  • 治療方法:olmesartan(20mg/日)で治療しても血圧が140/90 mmHg以上に留まっている患者を、増量群(40mg/日)とCCB(azelnidipine又はamlodipine)追加群に無作為化割付。3年間観察。必要に応じてARB、ACE阻害剤、CCB以外の降圧剤を追加しても良い。

  • 主評価項目:複合評価項目(致死的・非致死的な脳血管疾患、冠動脈疾患、心不全、その他のアテローム硬化性疾患、糖尿病性微小血管疾患、腎機能低下、心血管疾患以外による死亡)。

  • 主評価項目解析結果:増量群のイベント発生数は58、CCB追加群は48、HR1.31(95%CI 0.89-1.92)、p=0.1717で有意な差が無かった。

  • 致死的・非致死的な心血管イベントはHR1.44(0.94-2.21)、p=0.09。個々のイベントで両群の発生数が多かったのは脳血管疾患、心不全、冠動脈疾患だが、このうち脳血管疾患はHR1.75(0.92-3.35)、p=0.0848。

  • サブグループ分析では、心血管疾患を持つグループ(812例、85イベント)はHR1.63(1.06-2.52)、増量群が有意に多い(p=0.026)。持たないグループ(二型糖尿病だけ、352例、21イベント)はHR0.52(0.21-1.28)、p=0.1445。交絡のp値は0.024で有意。

  • 血圧:増量群は136/74.6 mmHg、CCB併用群は133.4/73.1 mmHgとなり、平均差は2.4/1.7 mmHgで有意な差があった。


この試験の論点は、第一に、検出力が足りているのかということです。主評価項目の95%上限は1.92ですから、増量群の心血管リスクがCCB追加群の1.92倍という、許容できないほど高い可能性が否定されていないことになります。カプランメイヤーカーブを見ると、一年を過ぎた辺りから両群の累計イベント発生率に大きな乖離が出ています。同じと言われても直ぐには納得できません。


そこでサブグループ分析を見ると、リスクが特に高い心血管疾患グループでは有意な差がありました。少なくとも、このような患者にはCCB追加の方が良いのではないか、という疑問を持たざるを得ません。


二型糖尿病だけのグループに関しては増量群の方がイベント発生数が少なかったのですが、絶対数が少ないので信憑性が薄く、p値も有意ではありません。このサブグループ分析に関しては、両群に花を持たせるような結論ではなく、心血管疾患罹患にはCCB追加が良い可能性が示唆されたが二型糖尿病だけの場合は明確ではなく、どちらも今後、更なる検討が必要、というのが妥当な結論のような気がします。


第二の論点は、研究対象となった患者の背景が曖昧であることです。心血管疾患歴を持つ人が70%を占めましたが、このうち、脳血管疾患など詳細が明記されているのは29%分だけで残りの40%の人達がどのようなリスク因子を持っていたのか分かりません。組入れ条件から推測すると腎機能低下や末梢動脈疾患が多かったのかもしれませんが、もしそうだとすると、今回の試験の結論を高齢高血圧症全般に当てはめるのは早計かもしれません。


第三の論点は降圧治療の内容です。両群とも治療ガイドラインに則った降圧を施行したのでしょうが、小さな差が生じました。増量群の血圧がもっと下がっていれば、心血管イベント数の差が縮小していたかもしれません。しかし、一般的に、心血管リスクに影響するのは差が4 mmHg以上の場合と言われていますので、統計的には有意でも、2 mmHg程度の差に目くじらを立てる必要は無いでしょう。


そもそも、増量より他の薬を追加するほうが有効であるような気がします。この試験ではどうだったのでしょうか?他の薬を追加した症例数に群間の偏りがあったのかどうか、治験論文が刊行されれば明らかになるでしょう。



最後になりましたが、この試験の一番良いところは、平均年齢73歳という高齢者を対象にしたことです。高齢者に対する最適な治療法の探索は、長寿国である日本が世界に率先して実行すべき課題と思います。また、高齢者は個人差が大きいので、外国のデータではなく日本のデータを参照したいものです。OSCAR試験の快挙が引き金になって、第二、第三の高齢者試験が行われることを期待します。



Valsartanは名古屋では引き分けに

次は、同じくACCのLate-breakerで発表されたNagoya Heart Study(NHS)です。試験の内容や結果は納得できるものですが、分からないのは、Kyoto Heart StudyやJikei Heart Studyとの関係です。この二本の試験ではvalsart...