リンク:
- FDA安全情報:olmesartanの安全性再検討
- Nephrology Times: ROADMAP試験に関する記事
- 日経BP:二本の試験に関する報道(pdfファイルです。心血管死が多かったことは記されていませんが、良いデータに関しては詳述されています。)
ARBを服用している人が読むかもしれないので、一言書いておきます。特定の患者に最善な治療方法を判断できるのは事情を良く知っている担当医だけです。心配なら担当医に相談するとよいでしょう。FDAも言っているように、早合点して服用を勝手に止めてはいけません。
論文はまだ刊行されていないようなので、各種報道を参考にして概要を纏めておきましょう。ROADMAP試験は二型糖尿病で正常アルブミン尿、且つ、心血管疾患のリスク因子を一つ以上持っている患者4400人強を平均3年3ヵ月追跡した無作為化割付偽薬対照試験です。olmesartan(40mg/日)の腎症発生を遅らせる効果を検討したもので、主評価項目は微量アルブミン尿のリスク。副次的評価項目は脳心血管疾患やそれによる死亡など。欧州19ヶ国の施設で実施されました。
患者背景は、メジアン58歳、糖尿病歴平均6年、A1cは平均7.7%なのでやや高め、最高最低血圧は136/81 mmHgで8割が降圧剤を服用していました。ACE阻害剤やARBの同時服用は禁止されていましたが、それ以外の薬を使うことは可能で、治験中の群間差は5/3mm Hgとそれほど大きくはありませんでした。
結果は、微量アルブミン尿の相対リスク削減率が23%、p=0.0104となり、成功しました。eGFRでも有意な差がありました。但し、腎臓関連イベントは両群とも1%と少なく、同じでした。内容も血清クレアチニンの2倍化だけで、末期腎疾患はゼロでした。
ARBやACE阻害剤はマクロアルブミン尿症を合併した糖尿病患者の腎症の進行を遅らせることができますが、もっと早い段階の患者にも効果が確認されたのは初めてです。尤も、臨床的な転帰を変える効果は確認していないので、副作用や薬代に見合う効用があるかどうかは議論の余地がありそうです。
心血管イベントを減らすことができれば得点がグンと上がったのですが、何故か、両群大差ありませんでした。非致死的心筋梗塞は偽薬群より少なかったのですが、致死的心筋梗塞や突然心臓死が多く、相殺されました。心血管死は15例対3例でp=0.0115、全死亡は26例対15例で有意差はありませんでした。
olmesartan | 偽薬群 | |
n | 2,232 | 2,215 |
心血管疾患・死 | 96 | 94 |
心血管死 | 15 | 3 |
突然心臓死 | 7 | 1 |
致死的心筋梗塞 | 5 | 0 |
致死的脳卒中 | 2 | 2 |
PTCA/CABG関連死 | 1 | 0 |
心血管疾患 | 81 | 91 |
非致死的心筋梗塞 | 17 | 26 |
非致死的脳卒中 | 14 | 8 |
この試験の心血管データは違和感があります。降圧剤なら脳卒中が減りそうなものですが、むしろ増えました。ベースライン時点の最高血圧は136mm Hgなので、血圧は130mm Hg以下に下げても臨床的な転帰は改善せず、むしろ悪化する懸念もあるというJカーブ仮説を連想します。
尤も、偽薬群のデータが偶々良かったのかもしれません。メジアン58歳で3年間の死亡率が0.7%というのは大変低いように感じるからです。日本の55-59歳の人たち(人口全体)が一年間に死亡する確率と同じです。
olmesartanはORIENT試験でも同じように悩ましいデータが出ました。この試験は顕性蛋白尿を合併した二型糖尿病患者約570人を対象に日本と香港で実施された試験で、主評価項目は血清クレアチニン値の二倍化、末期腎臓疾患、または全死亡の複合評価項目。副次的評価項目は脳心血管疾患・死亡・下肢切断・血管再建術・不安定狭心症による入院などの複合評価項目でした。olmesartanは40mg/日を投与。ACE阻害剤の同時使用が可能で、73%が服用していましたが、ARBは不可、他の降圧剤は可でした。患者背景は血圧が141/77 mmHg、A1cが7.1%。平均追跡期間3.2年、治験中の血圧の群間差は2.8/1.8mmHgとなっています。
意外なことに、腎障害の進行を遅らせる効果は確認されませんでした(調整ハザードレシオ0.97、95%信頼区間0.75、1.24)。脳心血管アウトカムは調整ハザードレシオ0.64、95%信頼区間0.43、0.98と有意差がありましたが、主評価項目がフェールした以上、副次的評価項目は保守的に考える必要があります。p値は0.039とあまり低くないので、話半分に受け止めておいたほうが良さそうです。心血管死が多かったので尚更です。
olmesartan | 偽薬群 | |
n | 282 | 284 |
心血管疾患・死など | 40 | 53 |
発生率 | 14.2% | 18.7% |
全死亡 | 19 | 20 |
心血管死 | 10 | 3 |
突然心臓死 | 5 | 2 |
致死的心筋梗塞 | 1 | 1 |
致死的脳卒中 | 3 | 0 |
原因不明の心血管死 | 1 | 0 |
非致死的心筋梗塞 | 3 | 7 |
非致死的脳卒中 | 8 | 11 |
注:「心血管疾患・死など」には下肢切断なども含む。
非致死的なイベントは減ったのに致死的なイベントが増え、主犯が突然心臓死であることは二本とも共通しています。ROADMAP試験だけなら偶然のような印象もありますが、ORIENT試験である程度の再現性が見られたのは減点材料と言わざるを得ません。
olmesartanは他のARBほど沢山のアウトカム試験が実施されていないので、他の試験とめたアナリシスを行っても良い数値は出ないのでないのではないでしょうか。個々の症例について他の理由で説明できるかどうか、検討するしか方法は無いでしょう。非致死的心筋梗塞が減るのですから、突然心臓死は虚血性というよりは不整脈性のような気がします。一つ、注目されるのは8月31日にESC欧州心臓学会のホットラインで発表されるANTIPAF試験のデータです。olmesartanの発作性心房細動再発防止効果を検討するためにGerman Atrial Fibrillation Networkが実施したもので、400人規模なので十分ではありませんが、もし安全性面で問題が無ければ、判断材料の一つになるかもしれません。
それにしても、ORIENT試験で心血管死が多かったというのは初耳でした。早く論文を刊行してもらいたいものです。
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