2010年3月21日日曜日

clopidogrelとPPIの相互作用~EUが添付文書改定へ

EUの医薬品評価委員会であるCHMPがclopidogrelとプロトンポンプ阻害剤の相互作用に関する添付文書の記述変更を勧告しました。これまでは原則として同時服用を推奨しないという内容だったのですが、omeprazoleとそのS異性体であるesomeprazoleだけに限定するというものです。今後、EUの手続きを経て添付文書が変更される予定です。


変更の理由は、omeprazoleと同時投与した試験でclopidogrelの活性代謝物の減少と、血小板阻害活性の低下が確認されたこと。データは添付文書に記載される見込みですが、現時点では公表されていません。他の薬が外された理由はあいまいで、CHMPの発表によると、様々な研究や試験の結果を総合的に評価した上での結論ということです。


clopidogrelを単剤またはアスピリン併用で服用している人は胃腸副作用を被る可能性があるのでリスクが高い患者はプロトンポンプ阻害剤などを服用する必要があります。H2ブロッカーならcimetidineを除いて心配はないのですが、オピニオン・リーダーの中には薬効のエビデンスが不十分であることに難色を示す人もいます。


CHMPがomeprazoleなどに限定したのは、医師や患者の選択肢を奪いたくないという考えもあったのではないでしょうか。玉虫色の判断であるように見えますが、それだけ、この問題の完全解決は難しいのでしょう。







2010年3月14日日曜日

clopidogrelの2C19問題が警告強化に

Clopidogrelのアメリカの添付文書が改定され、2C19薬物代謝酵素の機能が弱い人は用量を見直すか他の薬を使うことを検討するよう推奨する、という内容の枠付き警告(BW)が導入されました。BWは薬を処方する時に注意しなければならない最も重要な事項を大文字・ゴシックで記載し枠で囲ったものです。製薬会社はTVやジャーナルに広告を載せる場合、枠付き警告の内容を明示する必要があります。医療従事者は、アメリカは医療過誤訴訟が多いので、自衛のために事前に患者に伝えて承諾を得ておいたほうが良いかもしれません。BWは通常の警告事項とは全然違う、重大な警告なのです。

但し、影響を受ける人はあまり多くないようです。薬物代謝能力はUM(ultrarapid metabolizer)、EM(extensive metabolizer)、IM(intermediate metabolizer)、PM(poor metabolizer)の4種類に分類されることが多いようですが、添付文書で問題になっているのはPMだけで、白人の2%、黒人の4%、中国系の14%が該当するだけのようです。日本人の場合は1-3割程度と多いようなので、FDAの問題というよりは厚生労働省が検討すべき問題なのでしょう。

clopidogrelはプロドラッグで、体内で様々な酵素に代謝されて活性代謝物に変わり、血小板に不可逆的に結合して阻害します。工程は複雑で、永遠に活性化されないような代謝を受けることが一番多いようですが、活性化プロセスを進んでも様々な酵素が関与する多段階なプロセスを歩みます。欧米では10年以上の使用歴がありますが、2C19の重要性が明らかになったのは数年前のことです。

2C19の遺伝子には様々な多型がありますが、比較的多いのは1型(2C19*1)、2型、3型で、このうち2型と3型は機能喪失多型です。二つの遺伝子のうち、両方が1型の人はEM、片方が2型又は3型の人はIM、両方が2型又は3型の人がPMになります。UMの定義は知りませんが、09年のAHA学会発表の時に書いた17型のことかもしれません。

今回の添付文書変更はメーカー側が実施した健常者クロスオーバー試験が契機のようです。UM、EM、IM、PMの各10人を組み入れて、clopidogrelの活性代謝物の血中濃度や血小板凝集阻害力を調べたところ、UM、EM、IMはそれほど変わりませんでしたが、PMは明らかに成績が悪かったのです。


代謝能力と薬物動態・血小板凝集阻害作用
用量UMEMIMPM
活性代謝物Cmax(ng/mL):
300mg(24h)24(10)32(21)23(11)11( 4)
600mg(24h)36(13)44(27)39(23)17( 6)
75mg(5日目)12( 6)13( 7)12( 5)4( 1)
150mg(5日目)16( 9)19( 5)18( 7)7( 2)
IPA(%、高いほうが良い):
300mg(24h)40(21)39(28)37(21)24(26)
600mg(24h)51(28)49(23)56(22)32(25)
75mg(5日目)56(13)58(19)60(18)37(23)
150mg(5日目)68(18)73( 9)74(14)61(14)
VASP-PRI(%、低いほうが良い):
300mg(24h)73(12)68(16)77(12)91(12)
600mg(24h)51(20)48(20)56(26)85(14)
75mg(5日目)40( 9)39(14)50(16)83(13)
150mg(5日目)20(10)24(10)29(11)61(18)

注:数値は平均値(カッコ内は標準偏差)。

出所:アメリカのレーベル。



この試験には制約があるでしょう。Clopidogrelを服用する人は健常者より血小板活性が高いかもしれませんので、数値が変わってくるかもしれません。また、日本で行われた同様な研究ではIMも数値が悪かったことと食い違った結果になっています。日本試験では活性代謝物のCmaxがIMはEMの0.67倍、PMはEMの0.61倍でした。AUCも各0.71倍と0.57倍で、PMほどではありませんが、IMも影響がありそうに見えます。(Umemura et al. J Thromb Haemost 2008; 6: 1439-1441)

更に、臨床的な転帰に与える影響を調べていません。PMにclopidogrelを倍量投与する手法の有効性も、新薬であるprasugrelにスイッチする方法の功罪も、エビデンスは十分ではありません。

尚、2C19検査は500ドル程度でできるようです。プロトンポンプ阻害剤など関係する薬は少なくないので、一度調べれば何度も役立つかもしれません。

さて、日本は2C19多型に熱心に取り組んでいて、3年前にはH.ピロリ菌除菌療法の先端医療として検査に保険適用が認められたようです。2C19機能低下多型を持っていない人はプロトンポンプ阻害剤の不活性化が早く、奏効率が低下するので、遺伝子検査を行って必要に応じてH2ブロッカーを併用する、という方法です。

その割には、clopidogrelに関するアクションが遅いような気がしませんか?Clopidogrelの日本のticlodipine対照試験のデータを見てみると、脳梗塞試験は血管性イベントのハザード比が0.977、95%信頼区間は0.488、1.957となりました。大体同じですが、非劣性とはいえません。clopidogrel群の真のイベントリスクが倍近い可能性が否定されていないからです。急性冠症候群試験では有効性イベントの発現率が10.25対9.52でやや高く、群間差は-0.73、95%信頼区間は-4.87、3.41なので、この試験も同等性はあったのですが非劣性とはいえません。clopidogrel群のイベントリスクが1.5倍である可能性が否定されていないからです。日本はJ-CHF試験のように検出力の足りない試験を実施して安易に同等と太鼓判を押してしまう癖がありますが、確かめるべきことをきちんと確かめておかないと、後で困ります。clopidogrelは一例でしょう。




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