2009年11月21日土曜日

米国がclopidogrelの警告を強化:日本はどうする?

Plavix(clopidogrel)の米国のレーベルが変更され、2C19問題がセットで警告されました。話自体は前からありますが、注意事項ではなく警告事項に格上げされたことは、FDAの強い問題意識を示しています。


この種の薬は血栓性血小板減少性紫斑症のリスクがあり、従来から警告事項になっています。追加事項の概要を訳すと、


CYP2C19の機能低下に伴う薬効の低下


clopidogrelの血小板凝集阻害作用は全て活性代謝物によるものだ。この代謝の一部はCYP2C19が担っているので、CYP2C19の遺伝子の多型やCYP2C19を阻害する薬の同時使用は妨げになる。CYP2C19の機能が低下している患者やCYP2C19を阻害する薬を服用している患者にPlavixを使うのは避けよ。


遺伝子多型


CYP2C19機能が遺伝子的に低下している患者は抗血小板反応が弱く、全般的に、通常の機能を持つ患者よりも心筋梗塞後の心血管イベント発生率が高い(臨床薬理:遺伝薬理の項を参照のこと)。



(遺伝薬理の項は以前書いたのと変わっていません。この問題に関する研究成果をまとめて、2C19*2や2C19*3多型を一つ又は両方の遺伝子に持つ人は活性代謝物のCmaxやAUCが30-50%低く、血小板凝集阻害検査値が30%以上悪く、心血管イベントのリスクが高いと述べています。)


薬物相互作用


プロトンポンプ阻害剤の一つでCYP2C19を阻害するomeprazoleをPlavixと服用すると、同時に服用しても12時間後に服用しても、Plavixの薬理学的活性が低下する。胃酸を抑制する他の薬、例えば多くのH2ブロッカー(CYP2C19阻害作用を持つcimetidineを除く)や制酸剤がclopidogrelの抗血小板活性に影響することを示すエビデンスはない(事前注意:薬物相互作用の項を参照のこと)。


何が理由で警告強化されたのでしょうか?ヒントになるのがこの事前注意:薬物相互作用のところに記されている相互作用試験です。


omeprazole


クロスオーバー試験で72人の健常者にPlavix(負荷用量300mgに続いて一日75mg)を単独またはomeprazole(80mg)と同時に5日間投与した。同時服用時はclopidogrelの活性代謝物の曝露が46%(第一日)と42%(第5日)低下し、平均血小板凝集阻害(IPA)は47%(24時間)と30%悪化した。別の試験では72人の健常者にこの二つの薬の同じ用量を、12時間離して投与した。結果は同様であり、時間をずらしても相互作用を防ぐことはできないことが示唆された。


omeprazoleは逆流性食道炎やびらん性食道炎、ピロリ菌除菌療法などに用いられていますが、一日用量は20mgまたは40mdです。ゾリンジャー・エリソン症候群のように胃酸分泌が著しく多い患者の治療は60mg-360mgと大変な高用量を使いますが、それにしても、80mgではありません。おそらく、2C19機能低下患者でomeprazoleの代謝が遅れて血中濃度が高くなる事態を想定したのでしょう。


薬物動態試験とex vivoの血小板凝集阻害試験だけで結論を出してよいのか、釈然としません。AHAとACC学会が出した声明も、FDAの警告内容を列記するだけで独自のコメントや、このようなケースで必ず付記される「現在服用している人は勝手に服用を止めず、心配なら医師に相談してください」という一文すらありません。FDAがここまで強く言っているからには他にも何か根拠があるのでしょう。この試験の論文刊行・学会発表が望まれます。最終的に薬を決めるのは医師なのですから、判断の手助けになる納得の行くデータを出さなかったら、警告を出しても無意味です。


さて、以前書きましたように、日本人は2C19機能低下多型を持っている人が過半を占めるようなので、私たちにとっては大変重要な問題です。考えてみれば、cimetidineと同時使用すると排泄が半減するticlopidineは日本では海外の半分の用量しか承認されていません。よくあることなので不思議に思いませんでしたが、ticlopidineが半分ならclopidogrelは海外より高用量を使うなり、それこそ2C19多型を検査して量を加減したほうが良いのかもしれません。


PCIとステント留置術に伴う心筋梗塞やステント血栓を防ぐ上で大変重要な薬ですから、日本人の過半がノンレスポンダーだとしたら大変なことです。厚生労働省や機構の皆さん、学会の先生方、この問題を放置して良いのですか?FDAのアクションを傍観して感染症の被害者を増やした、ドラッグラグならぬインフォメーションラグを繰り返してはいけません。



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