発表者の結論は以下の通りです。
- ticagrelorは急性冠症候群後の主要心血管イベントを防ぐ効果がclopidogrelより高いことがPLATO試験で示された。ゲノムサブスタディでは、ticagrelorの優越性はCYP2C19の機能喪失多型やABCB1トランスポーターの発現低下多型を問わないことが示された。
- ticagrelor群では2C19機能喪失多型を持つサブグループの主要心血管イベントが持たないサブグループと同程度だったが、clopidogrel群では数値上高く(p=0.25)、治験開始当初の30日間だけの解析では有意水準に達した(p=0.028)。
- clopidogrel群では機能亢進多型を一つ以上持つ患者は主要出血リスクが数値上高かった。
- ABCB1の多型はclopidogrelやticagrelorの効果や出血リスクに影響しなかった。
外部リンク:PLATOゲノムサブスタディ(ESCのウェブサイトの学会レポート)
ticagrelor | clopidogrel | HR | 95%CI | 交絡p値 | |
(%) | (%) | ||||
あり | 8.6 | 11.2 | 0.77 | 0.60-0.99 | 0.46 |
なし | 8.8 | 10.0 | 0.86 | 0.74-1.01 |
注:主要心血管イベントは心血管死・心筋梗塞・脳卒中で1年時点のカプラン・マイヤー推定値。2C19機能喪失多型の有無は2型などの多型を一つでも持っていれば「あり」。
clopidogrelやprasugrelとは異なり、ticagrelorはそれ自体がP2Y12阻害活性を持っているので2C19機能が低下していても効果をフルに発揮できます。2C19による不活性化も受けません。このため、ticagrelorを尺度にしてclopidogrelの2C19影響を推測することが可能です。データを見ると、clopidogrel群の機能喪失多型を持つ患者の主要心血管イベント発生率はticagrelor群の同様な患者、あるいは、clopidogrel群の機能喪失多型のない患者と比べて高く見えますが、交絡p値は有意ではないので、決定的な差ではないことになります。
ここで注意すべきなのは、治験当初の30日間だけの解析では、clopidogrel群の機能喪失多型を持つ患者と持たない患者の主要心血管イベント発生率に2ポイント程度の差が出ていることです。カプラン・マイヤー・カーブからの読み取りですが、「あり」のイベント発生率は6%弱、「無し」は4%弱位です。その後、80日経った辺りから差が縮小し、360日時点では1.2ポイントの差に留まっています(p=0.25)。このため、発表者は「2C19機能喪失多型の影響は急性冠症候群を発症してから1ヵ月程度は大きい」可能性を指摘しています。
PLATO試験は薬物療法による治療を受ける患者も許可されていて、PCIを受ける患者に限定したprasugurelのTRITON試験とは異なっています。PCIを受けた患者だけに限定すればもっと大きな差が出たかも知れません。
発表者の見解がもし正しいとしたら、この問題に関するエビデンスが区々である理由の一部を説明できるかもしれません。例えば、ESCではclopidogrelのCURE試験とACTIVE A試験のゲノムサブアナリシスも発表されました。ACTIVE A試験は心房細動患者の脳梗塞予防試験なので趣がだいぶ違うのですが、どちらも偽薬対照試験であることが長所です。発表者の結論はclopidogrelは2C19多型を問わずに効果があるというものでした。
ACTIVE A試験は急性期の患者を組み入れた試験ではないため影響が表面化し難かったのかもしれません。そう言えば以前書いたCHARISMA試験のゲノムスタディも急性期試験ではありませんでした。
この研究のもう一つの論点は、clopidogrelの効果はABCB1多型の影響を受けない、というprasugrelのTRITON試験とは異なった結果になったことです。理由は良く分かりません。分類方法の違いが影響した可能性もあるのかもしれません。TRITON試験では被験者をT/T型とそれ以外に分けましたが、こちらは三種類に分けています。また、ticagrelorとclopidogrelの効果の差は「高発現型」のほうが大きいように見えますので、ticagrelorも影響を受けるのかもしれません。
依然として分かったような分からないような状態ですが、急性期の患者は2C19影響に注意する必要があるものの、それ以外はそれほど大きな影響はない、というのが現時点の印象です。
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