2009年5月29日金曜日

マスクはインフルエンザに効くのか、効かないのか

マスクは私たち一般人を、ブタ由来インフルエンザ(S-OIV)から守ってくれるのか?真剣に議論するような話ではなく、やりたい人はやれば良いと思っていましたが、アメリカの疾病管理予防センター(CDC)が真面目な報告書を出しました。いかに真面目かというと、中間的な推奨(interim recommencations)と銘打っていて、今後、事態が変わったり新しい発見があったら変更することを示唆しています。普通のマスクはあまり役に立たず、N95マスクは研修・訓練を受けた人でないと正しく使えないので実用的ではない、という結論のようで、感染者が装着することにすら慎重な意見です。


リンク:Recommendations for Facemask and Respirator Use to Reduce Novel Influenza A (H1N1) Virus Transmission. May 23, 2009


マスクやレスピレーター(N95以上のフィルタリング能力を持つマスク)が感染症の予防に有効であることを示すエビデンスは、限られています。アジアでSARSが流行した時に、医療施設がマスクや手洗い、うがいなどを励行して感染拡大を抑制することに成功した、という論文が出ていますが、コミュニティー(病院以外の一般社会)で生活している人に関しては十分なエビデンスはありません。このため、CDCは、公衆衛生の一般的な考え方や、医療施設での研究成果などに基づいて、今回の推奨を作成しました。


最初に、マスクが全てではない、と念を押しています。



  • 新型インフルエンザA(H1N1)の発生が確認された地域では、幾つかの行動によって感染リスクを削減することができる。一つのアクションだけでは足りないが、以下の手段を組み合わせることによって感染する可能性を低下させることができる。

  • 手を石鹸と水で頻繁に洗う。水や石鹸が無い場合はアルコールを含んだハンドクリーナーを用いる。

  • 咳やクシャミをする時は、口や鼻をティッシュで覆う。

  • 目や鼻、口を触らないようにする。

  • インフルエンザ類似の病気になったら、症状が出てから7日間以内、あるいは、7日間経っていても症状が無くなってから24時間以内経つまでは、家に留まって他の人との接触や旅行はできるだけ避ける。

  • インフルエンザ様疾患の人との濃厚な接触(1m以内)は避ける。


これらの推奨は、アメリカでも、メキシコでも、日本やイギリスでも同じですが、若干違うので、厚生労働省の推奨を「新型インフルを知るために」から抜粋して併記しておきましょう。



  • 必要のない外出は控えてください(特に人が集まる場所)。

  • 外出したらうがい、手洗いを行って下さい。

【咳エチケット】
  • 周囲の人から1m以上離れてください。

  • ・咳やくしゃみのしぶき(飛沫)は約2m飛びます。

  • ティッシュで口を覆い、顔をそらせて下さい。

  • ・マスクがない場合は、ティッシュなどで口と鼻を覆い、他の人から顔をそらして、1m以上離れます。

  • 外出したらうがい、手洗いを行って下さい。

  • ・手洗いは石鹸を使って最低15秒以上行い、洗った後は清潔なタオルやペーパータオル等で水を十分に拭き取りましょう。

  • 口を覆ったティッシュはゴミ箱へ。

  • 咳やくしゃみを抑えた手はただちに洗ってください。

  • ・咳やくしゃみを手で覆ったら、手を石鹸で丁寧に洗いましょう。

  • マスクを着用してください。

  • ・咳、くしゃみが出たらマスクを着用しましょう。また、家庭や職場でマスクをせずに咳をしている人がいたら、マスクの着用をすすめましょう。


さて、CDCの報告書に戻ると、本格的な資料だけあって、マスクとレスピレーターの定義が記されています。ここで言うマスクとはFDAが医療機器として承認したもの、レスピレーターはNIOSHのお墨付きがあるものだそうで、形状などについて色々書いてありますが、私たちに重要な情報は、



  • マスク:マスクは血液や体液、液滴、しぶきなどが口や鼻に入るのを防ぐのに役立つが、ウイルスを含む大変小さなエアロゾルを防ぐようにはできていない。マスクは一回使ったら捨てなければならない。

  • レスピレーター:研修・訓練を受けて正しく装着すれば、ウイルスを含むエアロゾルの侵入を防ぐことができる。長期間装着すると次第に息が苦しくなる。子供や顔ひげのある人には推奨しない。


更に、高リスクな人の定義を示しています。S-OIVで深刻な病気を合併するリスクが高いのは、季節性インフルエンザと同様に、以下の人たちです。


  • 5歳以下の幼少児

  • 65歳以上の高齢者

  • 18歳以下の青少年のうち、長期的にアスピリンを服用していて、インフルエンザ感染後にライ症候群を合併するリスクがあるかもしれない人

  • 妊婦

  • 持病を持っている成人・子供(喘息症などの肺疾患、心血管疾患、肝臓病、糖尿病など代謝障害、そして血液学的、神経学的、神経筋の疾患)

  • 免疫力が低下した成人・子供(免疫抑制剤による治療を受けている患者やHIV/AIDSなど)

  • 介護施設や長期療養施設の入居者


さて、いよいよ推奨です。


新型H1N1に感染していない人に対する推奨

合併症リスクの高い人それ以外の人
外出先
新型H1N1が発生していない地域マスクもレスピレーターも推奨しない同左
発生している地域で、混雑していない場所にいる時マスクもレスピレーターも推奨しない同左
発生地域の混雑した場所にいる時雑踏は避けるべき。不可能な場合はマスクやレスピレーターを考慮せよマスクもレスピレーターも推奨しない
家庭
インフルエンザ様疾患を発症した人の介護者接触は避けるべき。不可能な場合はマスクやレスピレーターを考慮せよマスクもレスピレーターも推奨しない
その家のその他の同居者マスクもレスピレーターも推奨しない同左
就業者(医療関係以外)
発生していない地域マスクもレスピレーターも推奨しない同左
発生している地域回避すべき。不可能な場合はマスクやレスピレーターを考慮せよ回避すべき。不可能な場合はマスクやレスピレーターを考慮せよ
医療従事者
新型H1N1又はインフルエンザ様疾患の疑い/可能/確定患者のケアをする場合(掃除なども含む)一時的に配置転換を検討せよ。 レスピレーターレスピレーター



新型H1N1感染者(疑い例なども含む)に対する推奨


在宅時(他の同居者とスペースを共有する場合)マスクがあるなら装着することが望ましい。咳やクシャミをする時にティッシューで覆っても良い
医療施設(病室の外に出る時)耐容できるならマスクをする
医療施設以外マスクがあるなら装着することが望ましい。咳やクシャミをする時にティッシューで覆っても良い
授乳マスクがあるなら装着することが望ましい。咳やクシャミをする時にティッシューで覆っても良い


マスクが推奨されるのは感染者と合併症高リスク者だけ、というマスク・メーカーには厳しい内容です。感染者に関しても、ティッシューで代替できるという考え方のようです。定義のところに記されているように、通常のマスクではウイルスを防止できないことが理由なのでしょう。N95なら効果があるかもしれませんが、顔にフィットしなかったら役に立ちませんし、ピッタリ嵌まったら嵌まったで、しばらくすると水蒸気でマスクが詰まり、交換しなければならなくなるようです。医療従事者は一日に5-6回交換するそうですから、私達が予防目的で何週間も使ったら、費用がかかってしょうがありません。唯一の選択肢である普通のマスクが、この程度にしか評価されていないのは残念です。


どうも釈然としません。他の国はどうでしょうか。イギリスのHPA(健康保護局)はS-OIVに関するQ&Aで、以下のように書いています。



Q:マスクを装着したほうが良いですか?


A:大流行時に多くの人がマスクを装着しても、ウイルス感染を防ぐことはできないでしょう。但し、感染者が装着すれば、感染の拡大をある程度は抑えることができるかもしれません。


健康な公衆がマスクで感染を予防できるという十分なエビデンスはありません。ウイルスはウイルスが付着した場所を触ったり、感染者が直ぐ近くで咳やクシャミをすることで感染します。感染者が直ぐそばにいない限り、マスクをしても意味は無いのです。


マスクは正しく装着し、定期的に取り替える必要があります。マスクの外側を触るとウイルスが移るかもしれませんし、使ったら廃棄しないと誰かが触れるかもしれません。


マスクを過信して、手洗いなど感染予防に効果のある手段がおろそかになったら逆効果です。感染者がマスクをしているからと安心して遊びに出かけるかもしれません。


Q:それなら、どうしてマスクを勧めている国があるのでしょうか?


A:この問題は各国の政府が個々に検討しました。フランスは予防的措置として国民にマスクの購入を推奨していますが、政府自体はマスクの備蓄はしていません。アメリカも同じです。


一部の国では、感染拡大防止や大気汚染対策を目的に、マスクを装着するのが慣習になっています。これらの条件は英国には当てはまりません。


このQ&Aには、抗インフルエンザ薬の国家備蓄状況も記されています。これまでの備蓄はタミフルが2300万人分、リレンザが1050万人分で、人口の80%(5000万人)をカバーすべく追加発注を行なっているようです。オリンピックなら断トツのトップではないでしょうか。因みに日本は3400万人分ですが、追加備蓄に動いています。


本題に戻ると、結局、マスクに好意的なのは一部の国だけということになります。日本はマスク・ブームで一時は売り切れたり、一枚数百円の高価な製品しか売っていない状態ですが、焦る必要はないのかもしれません。


でも、満員電車族としては咳をしている人に近づくなというアドバイスは何の役にも立たないし、何か上手い方法はありませんかね。


ストレスを溜めない秘訣は、都合の悪いものを見ないことです。最後に、厚生労働省の新型インフルエンザに関するQ&A(5月22日版)を読んで、うがいの代わりにしましょう。


Q:必ずマスクを着用する必要がありますか?


A:マスクは、咳やくしゃみによる飛沫及びそれらに含まれるウイルス等病原体の飛散を防ぐ効果が高いため、混み合った場所、特に屋内や乗り物など換気が不十分な場所にはいるときに有効です。一方屋外などでは、相当混み合っていない限りあえてマスクを着用する必要はありません。


咳やくしゃみ等の症状のある人はマスクをつけましょう。


Q:N95マスクの性能がよいと聞いたのですが?


A:N95マスクを使用する際にはとフィットテストなどの事前準備が必要であり、一般の方の使用にはむいていませんので、厚生労働省は推奨していません。





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