レーベルには中国系のデータしか出ていませんが、日本人もCYP2C19酵素の機能が十分ではない人がたくさんいるようです。日本の学界で取り上げるべきテーマなのではないでしょうか。
最初に結論です。
- ファーマコジェノミクス
CYP2C19プア・メタボライザー・ステータスはclopidogrelに対する反応低下と関連している。このような人に対する至適用量用法はまだ確立していない。 - 薬物相互作用
clopidogrelはCYP2C19によって活性代謝物に代謝されるので、この酵素の活性を阻害する薬はclopidogrelの活性代謝物の量の低下や臨床効果の低下をもたらすと予想される。CYP2C19を阻害する薬(例えばomeprazole)を同時使用しないほうが良い。
次に、前者の説明を読んでみましょう(後者の説明はありません)。
- clopidogrelは複数のCYP450酵素によって活性化される。
- CYP2C19は活性代謝物及び2-oxo-clopidogrel中間代謝物の生成に関与している。
- 薬物動態やex vivo血小板凝集検査で測定した抗血小板効果はCYP2C19の遺伝子型によって異なる。CYP2C19*1多型は代謝機能が完全だが、CYP2C19*2と*3多型は代謝が低下する。他にも*4、*5、*6、*7、*8などの多型があるが、白人の場合は機能低下多型の85%、アジア人の場合は99%を*2と*3の多型が占める。
(%) | 白人 | 黒人 | 中国人 |
---|---|---|---|
n | 1,356 | 966 | 573 |
Extensive Metabolism: CYP2C19*1/*1 | 74 | 66 | 38 |
Intermediate Metabolism: CYP2C19*1/*2、*1/*3 | 26 | 29 | 50 |
Poor Metabolism: CYP2C19*2/*2、*2/*3、*3/*3 | 2 | 4 | 14 |
出所:Xie et al. Annu Rev Pharmacol Toxicol 2001; 41; 815-50
- CYP2C19遺伝子型がclopidogrelの薬物動態に与える影響に関して、症例数合計227人の7本の研究が刊行されている。300mgまたは600mgを負荷用量、75mgを維持用量として投与した時、IntermediateとPoor metabolizerでは活性代謝物のCmaxやAUCが30-50%小さくなる。その結果、血小板阻害作用が低下し残余血小板応答性が増加する。
- 抗血小板反応との関連性は総計4,520人、21本の研究が刊行されている。IntermediateとPoor Metabolizerの抗血小板反応は、個々の試験の検査方法によって異なるものの、典型的には30%以上、低い。
- CYP2C19遺伝子型とclopidogrelの治療効果の関連性は二本の試験のポストホック・サブスタディ(CLARITY-TIMI 28[n=465]とTRITON-TIMI 38[n=1,477])及び5本のコホート・スタディ(総計でn=6,489)で検討された。
- CLARITY-TIMI 28とTrenk等のコホート・スタディ(n=765)では心血管イベント発生率の遺伝子型による大きな違いはなかった。
- TRITON-TIMI 38試験とCollet、Sibbing、Giustiのコホート・スタディ(総計でn=3,516)では、IntermediateとPoor Metabolizerの心血管イベント(死亡、心筋梗塞、卒中)やステント血栓の発生率が高かった。
- Simonのコホート・スタディ(n=2,208)ではイベント発生率が高いのはPoor Metabolizerだけだった。
- ファーマコジェノミクス検査によってCYP2C19活性の多様性に関連する遺伝子型を特定することができる。
- clopidogrelの活性代謝物の形成に影響するCYP450酵素遺伝子変異は他にもあるかもしれない。
FDAはファーマコジェノミクスに慎重なスタンスを取っているため、文章の端々に慎重な表現が付け加えられています。ワーファリンの効果や出血リスクに関連する遺伝子多型の話が掲載された時も、検査を推奨するというよりは、やりたかったらやっても良いというニュアンスでした。この種の研究は前向き無作為化仮説検証的試験ではなく、ポストホックで多様な遺伝子との関連を調べたものが多いため、患者背景の偏りや検定の多重性(20種類の検定を行えばそのうち一つのp値が0.05になる確率は100%になる)を懸念しているのでしょう。
機能低下多型を持っている患者に用量を増やす方法の有効性や安全性は未だ確認されていません。TRITON-TIM 38試験のような大規模な試験でもファーマコジェノミクス試験ではclopidogrelとprasugrelの効果が同じという、全症例の解析とは異なった結果になってしまいました。こんなに大規模な試験でも、この問題に答えを出すには症例数が少なかったのでしょう。
テイラーメード・メディスンと言うは易し、行うは難し。エビデンスは十分ではないのですが、prasugrelの発売後は全患者にprasugrelを投与することで対処されるようになるのではないでしょうか。
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