2009年10月3日土曜日

clopidogrelとPPIの新エビデンス

TCTでは、clopidogrelとプロトンポンプ阻害剤の相互作用に関する新エビデンスも発表されました。こちらも厳格な論者を満足させることはできないかもしれませんが、ファイナル・アンサー?と訊かれたら迫力に押されて思わずハイと答えてしまうかもしれません。



COGENT試験の概要(学会発表者:Dr. D. Bhatta)

  • clopidogrel(75mg)とomeprazole(20mg)の配合剤CGT-2168の胃腸有害事象削減効果を確認するために実施された無作為化二重盲検二重ダミー偽薬対照試験。

  • 対象は急性冠症候群やステント留置術の経験者でclopidogrelとアスピリンの併用療法を受ける患者。腸溶性アスピリン(75-325mg)を使用。プロトンポンプ阻害剤などを必要とする患者は除外。

  • 主評価項目は上部胃腸出血、内視鏡などによって確認された症候性胃腸十二指腸潰瘍、胃腸閉塞・穿孔などの複合評価項目。二次的評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、CABG、PCI、虚血性脳卒中の複合評価項目。独立委員会がアジュディケーションを実施。解析はピロリ菌感染の有無と非ステロイド抗炎症薬の同時使用の有無で階層化。組入れ目標は胃腸イベント数が予想を下回って推移したため、途中で5000人(143イベント)に引き上げられた。

  • 完了前にCGT-2168を開発していた会社の経営が破綻し、治験が打ち切りに。胃腸イベントは105例、心血管イベントは136例で解析。

  • 解析対象は3627人。追跡期間は中央値で133日、最長362日。患者背景は平均年齢67歳、男が68%、急性冠症候群歴36%、ピロリ菌陽性49%。

  • 修正Cox比例ハザードモデルによる心血管イベントのハザードレシオは1.02(95%信頼区間0.70-1.51)。 対照群は1821人中67人、試験薬群は1806人中69人で発生。両群のカプラン・マイヤー・カーブは見事に重なり合っていた。心筋梗塞だけ、あるいは血管再建術だけの解析でも有意差は無かった。サブグループ分析はBMI、年齢、人種、性別、非ステロイド抗炎症剤の服用の有無、ピロリ菌陽性・陰性、病歴の何れでも異質性は無かった。

  • 胃腸イベントのハザードレシオは0.55(0.36-0.85)、p=0.007。



この試験の強みは、私達の関心であるclopidogrelとomeprazoleの併用法の適否を調べることを目的に実施された、前向き無作為化対照試験であることです。あの厳しいFDAから承認を得るための試験なので、厳格なプロトコルが採用されていたでしょう。エビデンスとしては一級品なのではないでしょうか。


弱点もあります。最後まで完遂されなかったことは返す返すも残念です。また、心血管イベントは二次的評価項目ですので、元々、十分な検出力があったのか疑問です。clopidogrelの相対リスク削減率は20-30%なので、相互作用で効果が喪失するという仮説を棄却するためには95%上限が1.25あるいは1.42を下回る必要がありますが、この試験は1.51なので棄却できていません。更に細かいことを言えば、特殊な配合剤なので夫々の薬を併用するのと同じではないかもしれません。


研究者は、心血管イベントは当初の一ヶ月が多いので追跡期間が3-4ヵ月であったことは大きなネックではないと言っています。また、配合剤との違いが気になるならclopidogrelを朝に服用、omeprazoleは夜に服用すればよいと言っています。95%上限については特にコメントしていないようです。途中で打ち切られた試験なので贅沢は言えないのでしょう。


スポンサーの経営が破綻したのに今回の学会発表に漕ぎ着けたのは、この試験を重んじた研究者達が奔走し、資金を集めてデータを救い出したという経緯のようです。胸が熱くなりますね。



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