(10年9月3日:記述に誤りを見つけたため訂正しました。第5パラグラフに「T/T型にはclopidogrel、それ以外にはprasugrelのほうが良いように見えます」と書きましたが逆でした。ご迷惑を掛けました。)
ACC学会の抄録に、clopidogrelとABCB1トランスポータの多型との関係を論じた研究が出ていました。prasugrelという新薬の大規模な試験のサブスタディで、両方の遺伝子共にC3435T多型である場合は効果が減弱する可能性を示唆しています。3割程度の患者が該当するようなので、白人にとってはCYP2C19多型より重要かもしれません。
clopidogrelの活性化を阻害する要素が、こう次々と出て来ると、組み合わせ毎に検討しなければならないので話がどんどん複雑になります。欧米では『VerifyNow P2Y12』という普通の医療施設でも使える検査装置が実用化されていますが、この検査でclopidogrel応答性を診断して用量や薬剤を調整する手法を検討する数千人規模の試験が三本進行中で今年から12年にかけて結果が発表される見込みです。多型研究は他の薬剤にも応用が利くので重要ですが、現実的な対応策を探る点では、この三本の試験の結果が待ち望まれます。
このABCB1試験は、急性冠症候群の13608人を組み入れてclopidogrelとprasugrelの心血管イベント防止効果を1年以上比較したTRITON試験のゲノム・サブスタディです。2C19多型に関する検討は発表済みで、このブログでも取り上げたことがあります。今回は、薬剤が細胞壁を通過するのを助けるABCB1トランスポータの多型の影響を検討しました。C3435Tという多型を二つ持つ人(T/T型:n=804)とそれ以外(C/T型とC/C型:n=2128)に分けて心血管イベント発生リスクを比較しました。
結果は、まず、clopidogrel群ではT/T型が12.9%、それ以外は8.2%、ハザードレシオ1.66でp値は0.033とボーダーライン周辺ですが有意性が見られました。一方、prasugrel群は各11.0%と9.7%、1.12、0.64で大差ありませんでした。被験者の27%を占めるT/T型ではclopidogrelの効果が減弱することを示唆しています。
2C19多型スタディと同様に群間比較は行われていません。検出力が足りないのは明らかだからでしょう。数字を見比べるとT/T型にはprasugrel、それ以外にはclopidogrelのほうが良いように見えます。試算すると、もしサンプル数が3倍で発生率が同じだったら、T/T型における群間差は有意ではありませんが、それ以外の型では有意水準に達します。第一三共が開発した新薬の長所をアピールするための試験だったのですが、ゲノム・サブスタディはprasugrel群の成績がTRITON試験全体ほど良くなかったので、販促には善し悪しの結果です。
VerifyNowを使う三本の試験は何れもDES留置を受ける2000人以上の患者を対象に、以下の手法を検討します。
- GRAVITAS試験:ノンレスポンダーを組み入れて負荷用量追加(450mg)・維持用量150mgの群と標準用量(維持用量75mg)を比較。
- ARCTIC試験:clopidogrelとアスピリンの応答性を検査して両剤の用量を調節する群と検査しないで標準用量を使う群を比較。
- TRIGGER-PCI試験:ノンレスポンダーを組み入れてclopidogrel標準用量とprasugrelを比較。
日本でもclopidogrelと2C19多型に関する臨床研究が始まったようですが、症例数は数百に留まるようです。多施設共同研究にできないものなのでしょうか?ACCで韓国の研究者が『DES留置後にclopidogrelを1年以上投与すべきか』というホットなテーマを検討した試験の結果を発表しましたが、検出力不足が歴然であったため、論評者らの評価は散々でした。不適切な研究に基づいて結論を出すことは何もしないより悪い、ということなのでしょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿