2010年9月3日金曜日

clopidogrelと2C19機能亢進多型

clopidogrelの効果に与える影響が注目されている2C19代謝酵素には、機能喪失多型だけでなく、機能亢進多型もあるようです。文献が少なかったのですが、今年に入って幾つかの論文・学会発表スライドを見ることができたので、纏めておきましょう。


clopidogrelのノンレスポンダー問題は色々な要素が影響しているようですが、夫々の要素に関するエビデンスは区々で、まだ決定的な答えは出ていません。血小板凝集試験は比較的クリアな結果になっていますが、虚血性心疾患を防ぐ効果がどの程度左右されるのかが分からないのです。2C19*17という機能亢進多型についても同じことが言えそうです。


clopidogrelはそれ自体には活性がなく、服用後に体内で何回かの代謝を受けて血小板凝集阻害能を持つ活性代謝物に変わります。工程が複雑すぎて発売当初は良く分からなかったのですが、近年の研究で、2C19が特に重要であることが明らかになりました。2C19には*2と呼ばれる有名な機能喪失変異があります。681番目の核酸がグアニンからアデニンに置換されていることが特徴で、正常な蛋白が作られず、酵素として機能しません。白人は少ないのですが、日本人など中国系は、二組の遺伝子のうち一つ以上に2C19*2多型を持つ人が6割程度を占めるので、重要な問題です。


一方、機能亢進多型である2C19*17は806番目がシトシンからチミンに置換されていることが特徴です。ドイツの医療施設で実施されたSibbing等の試験の症例数を見ると、一つだけ持っている人が36%、両方が5%でした。白人にとってはこちらのほうが該当者が多いことになります。置換箇所は制御情報を記述している部位なので、蛋白のアミノ酸配列を記述している部位の置換である2C19*2、*3、*4などとは影響の仕方が違うかもしれませんが、良く分かりません(*3、*4は稀な多型です)。


遺伝子の一箇所の多型が他の箇所の多型と関連していることがあります。P. Gurbelによると、2C19*1(一番多いタイプ)遺伝子は*17を持つ場合も持たない場合もありますが、*2と*17を両方持つ遺伝子はありません。*1と*17を両方持つハプロタイプ(特定の多型の組み合わせ)をF、*1で非*17をN、*2で非*17をSと呼びます(fast, normal, slowの頭文字なのでしょう)。人間は二組の遺伝子を持っているのでディプロタイプは6種類になります。このうち、F/FとF/Nの組み合わせを持つ人がextensive metabolizer(EM:代謝力が高い)、N/NとF/Sがnormal metabolizer(NM:正常)、N/SとS/Sがpoor metabolizer(PM:低い)と分類されています。


リンク:P. Guebel, JACC 2010年)


この分類がどのような根拠に基づくものなのかは分かりませんでした。また、EMとNM、PMの構成比も記されていなかったのでSibbingのデータで試算したところ、夫々3割、5割、2割となりました。EMが結構多いことになります。


さて、clopidogrelと2C19*17に関する代表的な研究が、このSibbing等の試験です。




  • PCIを受ける、clopidogrel 600mgでプリトリートされた1524人を対象に、2C19*17の遺伝子型と30日出血リスク、そして30日ステント血栓リスクの関連性を検討。

  • 野生型が904人、ヘテロ接合型(片方が*17、もう片方は野生)が546人、ホモ接合型(両方*17)は76人だった。

  • ADP惹起血小板凝集のメジアン値(単位:AU x 分)は、夫々、238、215、186で関連性が顕著だった。ヘテロ接合型は野生型比でp=0.039、同じくホモ接合型はp=0.008。

  • 30日出血発生率は2.5%、4.0%、7.9%でホモ接合型は野生型より有意に高かった(オドレシオ3.27、95%信頼区間1.33、8.10)。

  • 30日ステント血栓発生率は0.9%、0.9%、1.3%で関連性のトレンドはなかった。

  • 主要心血管イベントの30日発生率は3.7%、3.2%、5.3%で有意差はなかった。


リンク:D. Sibbingら、Circulation、2010;121:512-518





ホモ接合型は出血リスクがかなり高く、一方、主要心血管イベントは多いので、あまりスッキリしたデータではありません。この試験の数倍の患者を組み入れた研究が待望されます。


2C19に関する先駆的な研究のひとつはShuldinerの試験です。アーミッシュという近代的な医療や生活に背を向けて質素な電化されていない生活をしている人たちを対象とした健常者の試験で、clopidogrelの応答性に2C19*2多型が関連している、しかし、応答性の変動の12%しか説明できないことを発見しました。米国の病院で待機的PCIを受ける人達の試験でも同様な結果になりました。ところが、この研究では2C19*17多型との関連性は見られませんでした。


2C19*17が本当に影響するのかどうか、今のところはハッキリしないと考えておいたほうが良さそうです。







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