さて、アジアの人たちは2C19変異を持っている人が白人より多いようです。そこで、私たち日本人を対象にした調査を集計してみました。健常者やピロリ菌感染者の研究論文6本を集計すると、clopidogrelを活性化するのに必要な2C19に機能喪失変異が全く無い人(Extensive Metabolizer)は35%、二つの遺伝子のうち片方に変異を持ち活性化能力が低そうな人(intermediate metabolizer)が46%、両方とも変異していて活性化出来なさそうな人(poor metabolizer)が19%となりました。こんなに多いとは、驚きです。
2C19機能変異に関する研究結果
第一著者 | 調査対象 | 内訳 | |||
n | EM | IM | PM | ||
Ieiri, I | 健常者 | 27 | 10 | 10 | 7 |
Kimura | 九州 | 140 | 44 | 63 | 33 |
久保田隆廣 | 東京 | 186 | 65 | 86 | 35 |
石澤幸男 | 河内町高齢者 | 108 | 35 | 56 | 17 |
Sugimoto, M | ピロリ菌陽性 胃癌患者 | 111 | 35 | 47 | 29 |
同 | ピロリ菌陽性 胃炎・消化性潰瘍 | 315 | 120 | 148 | 47 |
梅村和夫 | 健常者 | 47 | 18 | 20 | 9 |
合計 | 934 | 327 | 430 | 177 | |
構成比 | 100% | 35% | 46% | 19% |
注:EM(extensive metabolizer)はCYP2C19が*1/*1、IM(intermediate metabolizer)は片方が*1以外、PM(poor metabolizer)は両方とも*1以外。
出所:
- Ieiri, Iら:Clinical Pharmacology & Therapeutics (1996) 59, 647-653
- Kimuraら:Ther Drug Monit. 1998;20:243-247
- 久保田 隆廣ら:薬物動態Vol.16 , No.2(2001)pp.69-74
- 石澤幸男ら:弘前医学 55; 18-22、2003
- Sugimoto, Mら:Alimentary Pharmacology & Therapeutics Volume 22 Issue 10, Pages 1033 - 1040 2005
- 梅村和夫ら:臨床薬理 Vol. 39(2008)、No. 6 pp.238-242
読むことができなかったもの:
- Tsuneoka, Yら:Life Sciences 59:1711-1715, 1996
- Takakubo Fら:Pharmacogenetics 6:265-267, 1996
- Goldstein JA, Pharmacogenetics 7;59-64, 1997
- Kubota, Tら:Pharmacol 55:2039-2042, 1998
- Itoh, Kら:Biol Pharm Bull 22:77-79, 1999
- Bjornssonら:J. Clin. Pharmacol. 43, 943-967 (2003).
- Yasudaら:Clinical Pharmacology & Therapeutics 84, 417-423 (9 July 2008)
- Myrandら:Clinical Pharmacology & Therapeutics (2008); 84, 3, 347-361
これまでの研究は、抗癲癇薬やプロトンポンプ阻害剤の効果を考えることが動機であったようです。後者は、機能喪失多型しか持っていない患者はプロトンポンプ阻害剤の不活性化が遅いためピロリ菌除菌療法の奏効率が高いようです。2C19*1を一つだけ持っているintermediate metabolizerはpoor metabolizerとextensive metabolizerの中間くらいになっています。治療効果に影響するのは確かなようですが、効果が高まるなら(副作用が高まらないなら)特に問題は無いでしょう。
clopidogrelの場合は全く活性化できない人に投与しても全く効かないでしょうから重要な問題です。以前紹介した論文では、片方だけの変異でも響くようですから、該当者はたくさんいます。
抗血小板薬は出血リスクがありますが、2C19機能喪失変異を持っている人には関係ないでしょう。効果だけでなく副作用も殆ど無いことになりますが、少なくとも医療費の無駄ですし、該当する患者の治療が疎かになります。
prasugrelは日本でも開発されているので、是非、この問題を明確にしてもらいたいと思います。
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