エポエチンの潜在的な用途の一つである化学療法誘導性貧血を、がん性貧血と混同しているメディアが多いようです。大変重要な違いがあるので、ジャーナリストは気を付けるべきでしょう。
中外製薬はエポジンの適応拡大試験の成功を発表しました。プレスリリースにはがん化学療法施行に伴う貧血とハッキリ書いてあるのですが、どういう訳か、報道ではがん性貧血と書き換えられています。本文を読んだ印象では、言葉づらの問題ではなく、記者が取り違えているようです。中外製薬が誤った説明をしたとは考えられません。がん性貧血用途で開発されていた時代もあったので、おそらく、記者が先入観に囚われて早合点したのでしょう。
中外製薬のプレスリリース(6月30日付)
遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤「エポジンR注」がん化学療法施行に伴う貧血を対象とする第Ⅲ相臨床試験で主要評価項目を達成
日経メディカル オンラインの記事
中外のエリスロポエチンが、癌性貧血対象フェーズ3で主要評価項目達成、年内申請へ
日刊薬業ウェブ
中外 エポジン、がん性貧血P3で主要評価項目達成(要購読)
事情は協和発酵キリンのネスプも同じです。会社側はがん化学療法による貧血と言っているのに、報道では書き換えられています。
日経メディカル オンライン
持続型赤血球造血刺激因子製剤 癌性貧血への適応拡大を申請
化学療法誘導性貧血(chemotherapy-induced anemia)とがん性貧血(anemia of cancer)の取り違えがなぜ問題かと言うと、エリスロポイエチンをがん性貧血に用いても輸血リスク削減効果は小さく、それどころか、がんの進行を早めたり静脈血栓を誘導したりして、患者を早死にさせてしまうおそれがあるからです。
エリスロポイエチンの主用途である腎性貧血は、腎臓疾患が原因でエリスロポイエチンの分泌が減少していますので、補充療法は合理的です。しかし、がんの症状として発生する貧血はエリスロポイエチン量が正常であることが多いので、同一視することはできません。
エリスロポイエチンががんの成長因子になりうるかどうか、学者の意見は一致していません。しかし、海外で行われたがん性貧血の試験や、放射線療法付随試験(がん細胞の酸欠状態を改善して放射線感受性を高める手法を試験)では、無増悪生存期間が悪化する兆候が見られました。がん性貧血試験では輸血リスクで有意差が出ませんでした。治療のベネフィットが小さい以上、不確かな副作用であったとしても無視できません。
化学療法誘導性貧血の場合は、複数の試験で輸血リスク削減効果が確認されています。但し、ヘモグロビンを増やしすぎて正常値に近付けようとすると、静脈血栓などのリスクが高まってしまうので、用量は必要最低限に留めるべきです。
FDAはこれらの所見に基づき、適正使用を促す警告を発出しました。日本でもメーカーが医療従事者に警告を出しました。
エリスロポイエチンをがん性貧血に使ってはいけません。ジャーナリストも違いを頭に叩き込み、誤記しないよう気を付けなければなりません。
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