clopidogrelとプロトンポンプ阻害剤の相互作用リスクを知る上で重要な試験が打ち切りになってしまいました。
昨年のAHA学会でこの問題に関する様々な抄録が発表されましたが、ACC/ACG/AHAは共同声明を出し、これらの研究は十分なエビデンスとは言えないこと、患者は医師の指示を受けずに服用を止めるべきではないこと、そして、COGENT-1試験(NIHの治験レジストリー)の結果が出ればある程度の答えを得ることができることを強調しました。この三組織が昨年10月に発表した、clopidogrelやアスピリンによる消化器官副作用対策に関するエキスパート・コンセンサス・ドキュメントでもCOGENT-1試験に期待を示しています。
COGENT-1試験はCogentus Pharmaceuticalsという会社が開発したclopidogrelとomeprazoleのコンビネーション・ドラッグの消化器官潰瘍・出血防止効果をclopidogrelと比較した、5000人48週間の大規模試験です。副次的評価項目の一つとして心筋梗塞などのリスクも比較しました。おそらくこの評価項目は検出力不足でしょうが、それでも、ある程度の目安にはなるでしょう。しかし、この試験は中止されたようです。
Cogentusは株式市場に上場していないので、ベンチャー・キャピタリストから資金を得て2007年12月に治験を開始しました。しかし、治験を請け負ったParexel Internationalは昨年12月に参加施設に中止を通知しました。原因は、昨年来の金融市場混乱で、ベンチャー・キャピタルの一社がCogentusに資金を提供できなくなったことのようです。結局、Cogentusは今年1月に裁判所に破産法の適用を申請しました。チャプター7なので、チャプター11とは異なり、会社は存続せず清算されることになります。Parexelも数千万ドルの貸倒が生じているようです。
FDAは1月26日に声明を出して、代謝酵素の多型やプロトンポンプ阻害剤がclopidogrelの効果にどう影響するか、調査を行っていることを公表しました。タイミングから考えると、COGENT-1試験が打ち切りになったために新たな対応を打ち出さざるを得なくなったのでしょう。
clopidogrelはCURRENT/OASIS7という高用量試験が実施され、今年中に結果が発表される見込みです。負荷用量と最初の7日間の維持用量を標準療法の倍に当る600mgと150mgに増やす手法を標準療法と比べたものですが、prasugrelのTRITON試験と同様に、代謝酵素多型や同時使用薬との関連を調べることは可能でしょう。
clopidogrelの薬物相互作用は、数年前にatorvastatinとの関係が疑われたことがありましたが、過去の試験の後ろ向き分析の結果が発表され、沈静化しました。冷静に考えれば、clopidogrelを投与しても大半の患者は結果的に何のメリットも受けません。服用しても心筋梗塞を起こす人や、服用しなくても起こさない人が殆どなのですから、ex vivoの血小板凝集阻害試験だけで判断せずに、心血管イベントが本当に増えるのか大規模な前向き試験で確認する必要があります。疫学研究も患者背景の偏りを排除することは不可能なので、あまり当てになりません。
COGENT-1試験の中止は残念ですが、まだ希望は残っています。
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