2009年3月1日日曜日

批判者不在のFDA諮問委員会(続報)

以前書いたprasugrelの諮問委員会の話
��批判者不在のFDA諮問委員会
について、事実関係がある程度分かってきましたので続報します。


その前に、前回、参考ウェブサイトを書き忘れてしまいましたので付け加えておきます。


  • CardioBrief --- 今回の事件の報道では充実度ナンバーワンで、Kaul博士の出席が取り消されたことを真っ先に報じました。私は今回初めて知ったのですが、元々は循環器系医療従事者向けのニュースサイトです。ライターはLarry Hustenというメディカル・ジャーナリストで、つい最近までthe.heart.orgのエディターだったそうです。

  • CardioBrief: prasugrel関係のたくさんの記事を一覧にしたリンクページ

  • CardioBrief: FDAがジャーナリストと行った電話会議の筆記録

  • the.heart.org --- メジャーなウェブサイトで最初にこの問題を取り上げました。

  • the.heart.org: FDAがKaul博士の出席をキャンセルとしたのは間違いと認めた



prasugrelの諮問委員会に至る経緯



  • 07年12月:イーライリリーが承認申請。

  • 08年4月:FDAのメディカル・オフィサー、Karen Hicksが承認を推奨する審査報告書を管理職に提出。出血リスクや癌の懸念を理由に、投与を一週間のみに限定する厳しい内容(フェーズIII試験では14ヶ月投与)。

  • 08年6月20日:イーライリリーが申請内容の大きな変更を行なう(これが原因で数日後に承認審査期間が3ヶ月延長されましたが、結果的に、1週間限定投与という承認を回避できました)。

  • 08年12月:Hicksの報告書は管理職に受け容れられなかったようで、審査チームのリーダーであるThomas Marciniakが癌問題を中心に再検討し、審査報告書を管理職に提出。投与を一ヶ月に限定する依然として厳しい内容。

  • 09年1月:FDA心血管薬部門のDeputy DirectorであるEllis Ungerが自ら再分析し、審査報告書を管理職に提出。癌の懸念も投与期間の制限も不要と判断。

  • 09年1月30日:FDAが諮問委員会のブリーフィング資料と議事進行予定、諮問委員の名簿をウェブサイトで公開。

  • 同日夜:イーライリリー側がFDAに電話し、諮問委員の一人であるSanjay Kaul博士がprasugrelに関する学会発表などを行っていることを通知。FDA側は、intellectual biasのある委員の出席を禁じる規定に触れるかどうか再検討したが、時間もないことから取りあえず招致をキャンセルすることを決定。FDAの上層部には相談せずに決めた。

  • 09年2月2日:CardioBriefがKaul博士の出席キャンセルを報道。

  • 09年2月3日:Wall Street Journal紙のHEALTH BLOGが安全諮問委員会のメンバーが招致されていないことに対する疑問の声を報道。

  • 同日:諮問委員会が全員一致で承認を勧告。

  • 09年2月19日:消費者保護団体のPublic CitizenがFDAにprasugrelを批判する書簡を送付。脳梗塞・脳内出血経験者などを禁忌とすること、Black Box Warningという最も強力な警告を添付文書に入れること、そして安全諮問委員会のメンバーやKaul博士が招致されなかった理由に関する釈明を要求(Public Citizenの医療部門のヘッドであるSidney Wolfe医学博士は安全諮問委員会のメンバー)。

  • 09年2月23日:FDAがダウ・ジョーンズ、ロイター、ブルンバーグの記者と電話会議を行い、事情を説明。CDER(小分子薬を担当)のDirectorであるJanet WoodcockがKaul博士の招致キャンセルは内部の手続きに反する過ちであったことを認めた。CDERの新薬承認審査局のJohn Jenkinsは、Kaul博士のケースはintellectual biasには当らないとコメントした。

  • 09年2月27日:下院のエネルギー商業委員会のHenry Waxman委員長等が、Kaul博士が欠席したことについて、FDAの長官代行とイーライリリーの会長兼社長に事情説明と記録の提出を要求する書簡を送付。

諮問委員会にはどうしても利害相反が付き物なので、厳格な規定が設けられていて、つい最近も強化されたところです。メーカー側の肩を持つ委員もだめ、批判的な委員もだめとなると、オピニオン・リーダー的な医学者はシャットアウトされかねません。今回の心血管腎臓用薬諮問委員会は定員9名のところ、現時点では4名が空席になっていて、会議のたびに臨時委員を任命している有様です。アメリカの場合、諮問委員会には承認の是非を決定する権限はなく、そのため、無責任な結論を出しても訴えられる心配はないのですが、それでも、委員のなり手がいなくなるようなことになりかねません。






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