2009年2月28日土曜日

フィブラートの評価が低下

フィブラート系コレステロール治療薬の評価がアメリカやイギリスで低下しています。fenofibrateがFIELD試験で主評価項目を達成できなかったことが今になって響いてきたようです。この試験ではスタチンの服用状況に群間の偏りがあったので、2010年ごろにACCORD試験(偽薬群も含めて全員にスタチンを投与)の結果がでるまで待ってから考えようと思っていたのですが、私たちよりはるかに沢山の情報を持っているFDAやMHRA(イギリスの薬品監督庁)の意見は軽視できません。


最初に声を上げたのはMHRAでした。2007年11月のDrug Safety Updateで、以下のように注意を促しました。



*** 医療従事者へのアドバイス ***




  • フィブラートを第一選択薬として使うのは弧発性重度高トリグリセライド血症だけにすべきである。

  • 混合型高脂血症の患者に用いるのは、スタチンなどの有効な治療薬が禁忌あるいは不耐である場合だけにすべきである。

  • 原発性高コレステロール血症の患者の場合はgemfibrozil(注:日本では販売されていません)を考慮しても良いが、スタチン禁忌・不耐に限定すべきである。

  • スタチンとフィブラートの併用療法(注:日本は原則禁忌)は注意が必要で、ベネフィットが潜在的なリスクを上回る時だけにすべきである。gemfibrozilとスタチンの同時使用は回避しなければならない。




MHRAによると、フィブラート(bezafibrate、fenofibrate、gemfibrozil、ciprofibrate)は異脂血症の治療に長年用いられてきましたが、近年はスタチンのほうがtreatment of choiceとして用いられるようになりました。フィブラートは大規模な試験が5本実施されましたが、非致死的な心血管イベントを減らすトレンドはあったものの統計的に有意な水準に達したのはgemfibrozilの二本だけでした。一方で、死亡リスク抑制作用については殆どの試験でネガティブなトレンドが見られました。


臨床ガイドラインは、スタチンだけではトリグリセライドの低下やHDL-Cの上昇が十分でない場合にフィブラートの併用を推奨していますが、長期的な効用に関するエビデンスは不十分で、また、マイオパシーや横紋筋融解症のリスクが高まるので、注意が必要です。特に、gemfibrozilとスタチンの併用は薬物相互作用が懸念されます。


心血管疾患の初発再発予防効果に関するエビデンスは限定的であるため、この用途で第一選択薬として用いるのは最早正当化できない、とMHRAは結論を出しました。


FIELD試験についてはイギリスのSPC(添付文書)に、幾つかの有害事象が多かったことが記されています。



  • 膵炎(0.8%、偽薬群0.5%、p=0.031)

  • 肺塞栓(1.1%と0.7%、p=0.022)

  • 深静脈血栓(1.4%対1.0%、p=0.074)


fenofibrateは昨年、アメリカで新製剤のfenofibric acid(TriLipix)が発売されました。FDAはMHRAのような制限は課していませんが、添付文書で、二型糖尿病患者を組み入れたFIELD試験で冠状心疾患によるmorbidityと死亡を減らすことができなかったことに言及しています。



  • 主評価項目の冠状心疾患イベントはハザードレシオ0.89、95%CI 0.75-1.05、p=0.16

  • 副次的評価項目の総心血管疾患イベントはハザードレシオHR 0.89、95%CI 0.80-0.99、 p=0.04

  • 全死亡は各1.11、0.95-1.29、0.18でfenofibrateのほうが数値上、悪い

  • 冠状心疾患による死亡も各1.19、0.90-1.57、0.22と悪い


返す刀で他のフィブラートの大規模長期試験でも深刻な有害事象リスクが見られたことを指摘しています。



  • CDP試験(心筋梗塞後の患者にclofibrateを5年間投与)では死亡率には偏りはなかったが、手術の必要な胆のう炎や胆石症が3.0%と対照群の1.8%より多かった。また、FIELD試験と同じように、肺塞栓又は血栓性静脈炎の発生率が高かった(5.2%対3.3%、p<0.01)

  • WHOが実施した冠動脈疾患5000例にclofibrateを5年間投与し更に1年間追跡した試験では、年齢調整後死亡率が有意に高かった(5.7%対3.96%、p=<0.01)。腫瘍や胆嚢切除術後合併症、膵炎による死亡が多かった。

  • HHS(4081人の中年を組み入れた冠動脈疾患初発予防試験でgemfibrozilを5年間投与)試験では、全死亡が多かったがp値は0.19で有意ではなかった。但し、この試験の全死亡の解析は検出力が十分ではない。


フィブラートは二型糖尿病患者にgemfibrozilを投与したVA-HIT試験が成功し広く使われるようになったのですが、スタチンの登場で第二選択薬になってしまいました。スタチン併用で用いられることも多かったのですが、販売中止になったcerivastatinのように3A4薬物相互作用で筋毒性が飛躍的に高まってしまうことが難点です。fenofibrateは相互作用が比較的小さいのですが、gemfibrozil以外の多くのフィブラートと同様に、大規模長期試験が失敗してしまいました。


ACCORD試験といえば血糖強化治療アームが昨年、中断されて大きな衝撃を与えました。fenofibrateと偽薬を比較するHDL-C強化治療アームは続行中で、予定通り来年に結果が出る見込みです。どのような結果になるのでしょうか。








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