あるブログでezetimibeに関する研究者の対談を読みました。あれっと思うコメントがあったので、今回はこの点を検証します。
「エゼチミブはTGにも好影響を及ぼしますから,LDL-C値だけでなくTG値も高い複合型の患者にはエゼチミブをファーストラインとして使用し,厳格にLDL-C値を下げたい場合には,スタチンを追加するといった使い方もあると思います。」
何の予備知識もない人が読めば、スタチンはTGの治療にはあまり効かないので、LDL-CだけでなくTGも下げなければならない場合はエゼチミブのほうが良い、と誤解するでしょう。少なくとも、TGを下げる作用はエゼチミブのほうが高いと言っているように聞こえます。
アメリカのezetimibeのレーベルには、シェリング・プラウが行った一次性高脂血症ファーストライン試験の結果が出ています。偽薬(PBO)、ezetimibe(10mg)、スタチンの様々な用量、そしてezetimibeとスタチンの併用を比較した12週間の試験です。その中から、atorvastatin(アメリカでは一日用量10-80mgが承認されています)試験とpravastatin(同じく10-40mgが承認)試験のデータをグラフにしてみました。
ezetimibeとatorvastatin
ezetimibeとpravastatin
ezetimibeのTG低下作用は小さく、スタチンの最低用量と比べても見劣りします。とはいえ、日本人は特別なのかもしれません。そこで、日本の添付文書を読んでみると、臨床成績のところに以下のように記されています。
二重盲検比較試験
高コレステロール血症患者100例に本剤10mgを1日1回食後に12週間投与した結果,LDLコレステロールは18.1%,総コレステロールは12.8%,トリグリセリドは2.2%低下し,HDLコレステロールは5.9%上昇した。
日本人でも同じようです。尤も、これらのデータは高脂血症全般で、LDL-CとTGが特に高いタイプに限定されていません。ezetimibeのレーベルにはこのタイプの患者だけを対象とした試験のデータは出ていません。一方、atorvastatinのアメリカのレーベルにはFredrickson IIb型(LDL-CとVLDL-C、TGが高い)患者の治験データが出ています。一日10mgでTGが20%前後低下というもので、上記のデータと大差ありません。
こうしてみると、LDL-C値とTG値が高い患者にエゼチミブをファーストラインで使う、という意見には首を傾げざるを得ません。
この発言の趣旨は、本当は違うのかもしれません。論文とは異なり、専門家同士の対談は、何かの拍子に読者の存在を忘れて、注釈すべきことを失念したり、詳しい説明を端折ってしまうことがあります。私自身、仕事で同じような失敗を何度もしています。私たちは、対談の内容を鵜呑みにしないよう気を付ける必要がありそうです。
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