ACCORD試験とADVANCE試験の関連リンク
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この二本の試験は二型糖尿病で心筋梗塞などのリスクが高い中高年を対象にしたもので、血糖値をアグレッシブに下げることによって、大血管性・小血管性疾患を減らすことを企図したものです。高血糖状態が続くと血管や神経に悪い影響を与え、大血管性疾患(心筋梗塞、脳卒中など)や小血管性疾患(腎症や網膜症、神経症など)が起きやすくなります。このため、現在の治療ガイドラインはHbA1cを7%未満(ADA)あるいは6.5%未満(AACE)に下げることを推奨しています。しかし、6.5%でも正常値よりは高いわけですから、もっと下げればもっと合併症を減らすことができるかもしれません。
また、薬物療法が小血管性疾患リスクを抑制することを裏付けるエビデンスは複数、存在しますが、大血管性疾患に関する効果は明確ではありません。血糖値をもっと下げれば、大血管性疾患を減らすことができるかもしれません。中高年の患者にとっては大血管性疾患が一番の脅威なのですから、リスク削減手法の探求は重要な課題です。過去に実施された長期大規模試験は一型糖尿病や病歴の短い二型糖尿病患者を対象としたものが多く、その意味でも、今回の二試験は重要な意義を持っています。
ACCORD | ADVANCE | |
---|---|---|
対象 | 二型糖尿病(HbA1c≧7.5%)で 心血管疾患既往又は高リスク、 40~79歳 | 二型糖尿病(HbA1c制約なし)で 大小血管性疾患既往又は高リスク、 55歳以上 |
実施地域 | 北米 | 欧州、アジア、豪州、北米 |
治療方針 | 強化療法群は<6.0%、 標準療法群は7.0-7.9%を目指す | 強化療法群は≦6.5%、 標準療法群は各地域の ガイドラインに則る |
追跡期間 | 3.5年(平均) | 5年(メジアン) |
同時実施試験 | 強化vs.標準血圧管理。 fenofibrate vs.偽薬 | ACE阻害剤・利尿剤併用vs.偽薬 |
ACCORD試験 | ADVANCE試験 | |||
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強化療法 | 標準療法 | 強化療法 | 標準療法 | |
n | 5128 | 5123 | 5571 | 5569 |
平均年齢 | 62 | 62 | 66 | 66 |
女 % | 38 | 38 | 43 | 42 |
病歴 年 | 10 | 10 | 8 | 8 |
心血管疾患既往 % | 36 | 35 | 32 | 32 |
体重 kg | 94 | 94 | 78 | 78 |
血圧 mm Hg | 136/75 | 137/75 | 145/81 | 145/81 |
LDL-C mg/dL | 104.9 | 104.9 | 120 | 120 |
降圧剤/アスピリン/スタチン 服用率:期初 % | 85/55/62 | 86/54/62 | 75/44/28 | 75/44/29 |
期中 % | 91/76/88 | 92/76/88 | 89/57/46 | 88/55/48 |
A1cメジアン % 期初 | 8.1 | 8.1 | 7.2 | 7.2 |
期中の増減 % | -1.7 | -0.6 | -0.8 | -0.2 |
服用薬剤数平均 期初 | 1.6 | 1.6 | 1.6 | 1.5 |
服用薬剤数平均 期中 | 3.9 | 2.8 | 2.4 | 1.8 |
低血糖イベント年率発生率 % | 3.1 | 1.0 | 0.7 | 0.4 |
非致死的心筋梗塞・非致死的 卒中・心血管疾患死亡 % | 6.9 | 7.2 | 10 | 10.6 |
ハザードレシオ | 0.9 | p=0.16 | 0.94 | p=0.32 |
心血管疾患死亡 % | 2.6 | 1.8 | 4.5 | 5.2 |
全死亡 % | 5 | 4 | 8.9 | 9.6 |
ハザードレシオ | 1.22 | p=0.04 | 0.93 | p=0.28 |
注.服用薬剤数の平均値は推定。期中の値はADVANCE試験は最終観察値、ACCORD試験は不明。
その他の観察事項
- ACCORD試験では全死亡数の群間差が54あったが、死因別の差は心筋梗塞が6例、うっ血性心不全7例、心血管施術7例、不整脈は▲6例。一番大きな差が出たのは"unexpected or presumed"心血管疾患死の19例だが、エディトリアルによるとこの項目は低血糖症に関連する可能性もないとはいえない模様。心血管以外で一番差が出たのは呼吸器疾患(肺炎以外)で12例対1例だった。これらの数値にはダブルカウントがある。
- ADVANCE試験の集中療法群は入院イベントが多かった(発生率44.9%対42.8%、ハザードレシオ1.07、p=0.03)。理由は多岐に亘り、神経系、循環器系、消化器系、筋骨格結合組織、怪我など。
結果は表記のように、どちらの試験でも大血管性疾患予防効果は確認されませんでした。それどころか、ACCORD試験では強化療法群のほうが心血管疾患による死亡率が有意に高かったのです。尚、ADVANCE試験では小血管性疾患抑制効果も調べ、有意差が確認されました。マクロアルブミン血症の発症が少なかったことが勝因です。結局、血糖降下剤に期待できるのは小血管性疾患の発症・進行を遅らせることだけで、また、5年間程度の短期間では命に関わるような重大な合併症を減らすことはできず、場合によっては逆効果になる、ということになります。
それでは、どのような場合に逆効果になるのでしょうか?現時点では曖昧な点が多いので、今後、サブグループ・アナリシスや両試験のメタアナリシスが待望されますが、幾つかの「転ばぬ先の杖」が浮上しています。ACCORDもADVANCEも強化療法群のメジアンHbA1cは大差ありません。にもかかわらずACCORDでは心血管死リスクが高かったのですから、ADVANCE試験との違い、即ち、HbA1cの治験開始前の水準や治験中の低下スピードに注目せざるをえません。
同じ強化療法といってもACCORD試験ではよりアグレッシブな治療が行われました。被験者のA1c水準が高かったせいもあり、薬の種類を平均で二剤追加しました。標準療法群は1.2剤、ADVANCE試験の強化療法群は0.9剤です(これらの数値は私の試算です)。その結果、各群のA1c低下幅はメジアンで1.7%、0.6%、0.8%となりました。治療内容の強さに着目すれば、ADVANCE試験の強化療法群はACCORD試験でいえば標準療法群に近いのです。
ACCORD試験の強化療法群のA1cの低下スピードは速く、治験開始後4ヵ月で1.4%低下、1年後には累計で1.7%低下し、その後は安定的に推移しました。一方、ADVANCE試験の強化療法群は3年間に亘り徐々に低下し、やっと0.8%下がりました。このようなことから、研究者の一人はADAの記者発表会で「血糖値はジェントルに下げたほうが良い」と言っていました。
これらのことを考えれば、血糖値が高い患者に対して、血糖値管理目標を達成すべく短期間にアグレッシブな治療を行うのは止したほうが良さそうです。
なぜ、急速・大幅な血糖治療はまずいのでしょうか?他の分野でも急速な治療が反動を呼ぶことがありますので、体の摂理に反しているのかもしれません。薬の副作用かもしれません。無症候性の低血糖が知らないうちに組織を痛め、心筋梗塞などが起きた時のサバイバル能力を衰弱させるのかもしれません。今後、追加的分析が行われるでしょう。尚、ACCORD試験はAvandiaを服用した患者が多いのですが、この薬に関する追加的分析がADA学会で発表されるそうです。
どちらの試験でも、死亡した患者の半分は心血管疾患が原因でした。血糖降下剤が役に立たないとなると、他の方法に頼らざるを得ません。生活習慣では運動や禁煙、薬物療法ではスタチンやアスピリン/Plavix、血圧降下剤などに期待することになります。
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