ZetiaとVytorinを共同開発・販売しているシェリング・プラウとメルクによれば、06年3月にlast patient last inを迎えた後、メーカー側でブラインデッド・データの品質チェックを行ったところ、様々な問題点が発覚しました。この試験では半年に一回のペースで頚動脈などの超音波画像を撮って変化を調べたのですが、同じ患者の画像とは思えないほど大きく変動しているケースが少なくなかったのです。是正努力を行いましたが、成功せず、エキスパート・パネルを招集して対策を検討させました。本来なら、治験の運営委員会やデータ監視委員会の仕事ですが、本試験では設置されていなかったのです。
メーカー側が07年11月19日に出したプレスリリースによると、このパネルは、解析をスピードアップするために主評価項目を変更して総頚動脈だけの解析に絞り込むよう推奨しました。解析対象画像が3分の1に減るからでしょう。
この発表は、当時浮上していたデータ隠し疑惑の火に油を注いでしまいました。治験のスポンサーが都合の良い結果を出すためにデザインを変えた、と受け止められてしまったのです。このパネルには主研究者は参加していませんでした。このため、スポンサーが研究者に圧力をかけた、つまり、研究の自由を侵害したとの批判も招きました。結局、主評価項目変更は断念されることになりました。
メーカー側によると治験の結果が明らかになったのは08年に入ってからのことです。デザイン変更を企図した段階では結果を予測できなかったのですから、メディアが同社を攻撃しているのはやり過ぎと私は思っていました。
メーカー側の説明に疑問が生じたのは、第一に、治験論文でデータの品質には問題がないことが強調されていたからです。第二は、下院エネルギー商業委員会が入手した、当時の関係者の記録やEメールの内容が、メーカー側の説明と一部、食い違うからです。
まず、『同一人とは思えない画像』があったのは全体のごく一部であったことが明らかになりました。治験論文に記されていたように、この試験のデータの品質が特に悪いというわけではなかったのです。
次に、メーカー側が、アテローム肥厚の標準偏差が小さいことに懸念を持っていたことが明らかになりました。小さな差でも有意差が出てしまう可能性があり、結果がもしZetiaに悪いものであったら困るし、良い結果であったとしても『臨床的には意義がない』と一蹴されてしまう可能性があることが理由です。
更に、エキスパート・パネルの役割に関しても疑問が浮上しました。メンバーの一人であるJames Stein博士が、メーカー側がFDAに提出しようとしていた議事録に異議を唱えていたことが判明したからです。博士のEメールによれば、この会議の性格はメンバーが自由に意見を述べるというもので、デザインに関する推奨などしなかったし、決も取らなかったというのです。
メーカー側が主張しているように、断片的な記録に基づいて決め付けるのは危険です。しかし、今回公表された情報で改めて疑惑が浮上したことは否定できません。下院委員会が真相を明らかにすることを期待します。
関連リンク
- 下院エネルギー・商業委員会が公表した当時の記録やEメール
- メーカー側がENHANCE試験の主評価項目変更を発表した07年11月19日付プレスリリース
- メーカー側が発表したENHANCE試験の経緯を記した資料(pdfファイル)
- シェリング・プラウが投資家向けに公表した08年1月と2月の関連製品の処方箋数を示す資料(pdfファイル)
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