ENHANCE試験に関するビデオ・インタビューが医療従事者向けウェブサイトMedPageに掲載されています。
アメリカの医療従事者向けウェブサイトは凄いですね。製薬会社・医療機器メーカーの太鼓持ち的なサイトもありますが、MedPageやtheheart.orgのように独立的・客観的なサイトも複数存在します。この二つのサイトと、医療従事者が運営しているWikidocは、『あなたはZetia(ezetimibe)の処方を減らしますか?』というきわどい内容のアンケートを行っています。MedPageとtheheart.orgはAvandia(rosiglitazone)の心筋梗塞リスクに関するメタアナリシス論文が刊行された時も同様なアンケートを行いました。関係者は、Noのボタンを何度も押すのが大変だったでしょう。一方、Medscapeは個別の薬に関するアンケートは実施していません。Web MDに買収されて以来、メーカー志向が強まっているように感じていましたが、この辺りにも経営方針が反映されているのでしょう。
MedPageのビデオ・インタビューは、Allen Taylor博士に意見を聞いた上で、Evan Stein博士に疑問点をぶつけるという構成になっています。Stein博士はZetiaを支持する側を代表したような格好になっています。Taylor博士はNew England Journal of MedicineにZetiaに批判的なエディトリアル論文を発表しました。
議論の内容は、前回書いたものとほぼ同じでした。Stein博士は薬がフェールしたのではなく、試験がフェールしたのだと主張しました。ヘテロ接合型家族性高脂血症の治療が進歩して長年に亘って十分な治療を受けるようになった結果、治験開始時点のアテローム肥厚が過去の治験(例えばASAP治験)と比べて小さく、治験期間中の肥厚も小さかったためZetiaの効果を検出できなかった、というのです。
それに対して、Taylor博士は治験のサブポピュレーション・アナリシスに注目し、治験開始前にスタチンを服用していなかった患者にも、アテローム肥厚が比較的大きかった患者にも、効果はなかったと反論。Stein博士は、症例数が少ないので信頼性は低いと切り返しました。『直接対決』ではないので、議論はここで終わってしまいました。
参考になったのは、ZetiaはHDL-Cの作用を妨げる可能性がある、というTaylor博士の指摘です。この薬の作用機序はNPC1L1というトランスポーターを阻害することによって食物中の脂肪が腸で吸収されるのを抑制することですが、同時に、SRB1というHDL-Cと連携する受容体も阻害します。細胞が脂肪を排出しHDL-Cに渡す時の経路の一つがSRB1ですし、肝臓がHDL-Cから脂肪を受け取る時のレセプターもSRB1です。LDL-C低下による効果が、HDL-Cの機能を阻害することによるネガティブな効果によって相殺されてしまうのではないか、と疑っているようです。
また、一般名からも分かるように、この薬は元々、ACAT阻害剤として開発されていましたが、ACAT阻害剤はファイザーのavasimibeも、第一三共のpactimibeも、冠動脈アテローム試験で肥厚抑制作用が確認されず、開発中止になりました。
とはいえ、Zetiaがアテロームに有害であることは確認されていません。ENHANCE試験では数値上、偽薬群より肥厚が大きかったですが、有意には達していません。シロともいえないがクロと決め付けることもできないのです。
Taylor博士はezetimibeとナイアシンを比較する頚動脈アテローム試験を実施しているそうです。もしezetimibeがアテロームに有害なら、被験者を守るために治験を中断すべきでしょうが、博士は止めるつもりはなさそうです。疑惑は持っているものの確信ではない、ということなのでしょう。
スタチンはLDL-C低下作用だけでなく多彩な作用を持っています。研究者にとっては魅力的な研究対象ですが、多彩な作用は一歩間違えると多彩な副作用になってしまいます。スタチンは良い作用が多いのでしょうが、PPAR作動剤は好ましくない作用も多そうです。Zetiaも多彩な作用を持っているようですので、十分に調査する必要がありそうです。
2008年4月20日日曜日
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