2009年5月29日金曜日

マスクはインフルエンザに効くのか、効かないのか

マスクは私たち一般人を、ブタ由来インフルエンザ(S-OIV)から守ってくれるのか?真剣に議論するような話ではなく、やりたい人はやれば良いと思っていましたが、アメリカの疾病管理予防センター(CDC)が真面目な報告書を出しました。いかに真面目かというと、中間的な推奨(interim recommencations)と銘打っていて、今後、事態が変わったり新しい発見があったら変更することを示唆しています。普通のマスクはあまり役に立たず、N95マスクは研修・訓練を受けた人でないと正しく使えないので実用的ではない、という結論のようで、感染者が装着することにすら慎重な意見です。


リンク:Recommendations for Facemask and Respirator Use to Reduce Novel Influenza A (H1N1) Virus Transmission. May 23, 2009


マスクやレスピレーター(N95以上のフィルタリング能力を持つマスク)が感染症の予防に有効であることを示すエビデンスは、限られています。アジアでSARSが流行した時に、医療施設がマスクや手洗い、うがいなどを励行して感染拡大を抑制することに成功した、という論文が出ていますが、コミュニティー(病院以外の一般社会)で生活している人に関しては十分なエビデンスはありません。このため、CDCは、公衆衛生の一般的な考え方や、医療施設での研究成果などに基づいて、今回の推奨を作成しました。


最初に、マスクが全てではない、と念を押しています。



  • 新型インフルエンザA(H1N1)の発生が確認された地域では、幾つかの行動によって感染リスクを削減することができる。一つのアクションだけでは足りないが、以下の手段を組み合わせることによって感染する可能性を低下させることができる。

  • 手を石鹸と水で頻繁に洗う。水や石鹸が無い場合はアルコールを含んだハンドクリーナーを用いる。

  • 咳やクシャミをする時は、口や鼻をティッシュで覆う。

  • 目や鼻、口を触らないようにする。

  • インフルエンザ類似の病気になったら、症状が出てから7日間以内、あるいは、7日間経っていても症状が無くなってから24時間以内経つまでは、家に留まって他の人との接触や旅行はできるだけ避ける。

  • インフルエンザ様疾患の人との濃厚な接触(1m以内)は避ける。


これらの推奨は、アメリカでも、メキシコでも、日本やイギリスでも同じですが、若干違うので、厚生労働省の推奨を「新型インフルを知るために」から抜粋して併記しておきましょう。



  • 必要のない外出は控えてください(特に人が集まる場所)。

  • 外出したらうがい、手洗いを行って下さい。

【咳エチケット】
  • 周囲の人から1m以上離れてください。

  • ・咳やくしゃみのしぶき(飛沫)は約2m飛びます。

  • ティッシュで口を覆い、顔をそらせて下さい。

  • ・マスクがない場合は、ティッシュなどで口と鼻を覆い、他の人から顔をそらして、1m以上離れます。

  • 外出したらうがい、手洗いを行って下さい。

  • ・手洗いは石鹸を使って最低15秒以上行い、洗った後は清潔なタオルやペーパータオル等で水を十分に拭き取りましょう。

  • 口を覆ったティッシュはゴミ箱へ。

  • 咳やくしゃみを抑えた手はただちに洗ってください。

  • ・咳やくしゃみを手で覆ったら、手を石鹸で丁寧に洗いましょう。

  • マスクを着用してください。

  • ・咳、くしゃみが出たらマスクを着用しましょう。また、家庭や職場でマスクをせずに咳をしている人がいたら、マスクの着用をすすめましょう。


さて、CDCの報告書に戻ると、本格的な資料だけあって、マスクとレスピレーターの定義が記されています。ここで言うマスクとはFDAが医療機器として承認したもの、レスピレーターはNIOSHのお墨付きがあるものだそうで、形状などについて色々書いてありますが、私たちに重要な情報は、



  • マスク:マスクは血液や体液、液滴、しぶきなどが口や鼻に入るのを防ぐのに役立つが、ウイルスを含む大変小さなエアロゾルを防ぐようにはできていない。マスクは一回使ったら捨てなければならない。

  • レスピレーター:研修・訓練を受けて正しく装着すれば、ウイルスを含むエアロゾルの侵入を防ぐことができる。長期間装着すると次第に息が苦しくなる。子供や顔ひげのある人には推奨しない。


更に、高リスクな人の定義を示しています。S-OIVで深刻な病気を合併するリスクが高いのは、季節性インフルエンザと同様に、以下の人たちです。


  • 5歳以下の幼少児

  • 65歳以上の高齢者

  • 18歳以下の青少年のうち、長期的にアスピリンを服用していて、インフルエンザ感染後にライ症候群を合併するリスクがあるかもしれない人

  • 妊婦

  • 持病を持っている成人・子供(喘息症などの肺疾患、心血管疾患、肝臓病、糖尿病など代謝障害、そして血液学的、神経学的、神経筋の疾患)

  • 免疫力が低下した成人・子供(免疫抑制剤による治療を受けている患者やHIV/AIDSなど)

  • 介護施設や長期療養施設の入居者


さて、いよいよ推奨です。


新型H1N1に感染していない人に対する推奨

合併症リスクの高い人それ以外の人
外出先
新型H1N1が発生していない地域マスクもレスピレーターも推奨しない同左
発生している地域で、混雑していない場所にいる時マスクもレスピレーターも推奨しない同左
発生地域の混雑した場所にいる時雑踏は避けるべき。不可能な場合はマスクやレスピレーターを考慮せよマスクもレスピレーターも推奨しない
家庭
インフルエンザ様疾患を発症した人の介護者接触は避けるべき。不可能な場合はマスクやレスピレーターを考慮せよマスクもレスピレーターも推奨しない
その家のその他の同居者マスクもレスピレーターも推奨しない同左
就業者(医療関係以外)
発生していない地域マスクもレスピレーターも推奨しない同左
発生している地域回避すべき。不可能な場合はマスクやレスピレーターを考慮せよ回避すべき。不可能な場合はマスクやレスピレーターを考慮せよ
医療従事者
新型H1N1又はインフルエンザ様疾患の疑い/可能/確定患者のケアをする場合(掃除なども含む)一時的に配置転換を検討せよ。 レスピレーターレスピレーター



新型H1N1感染者(疑い例なども含む)に対する推奨


在宅時(他の同居者とスペースを共有する場合)マスクがあるなら装着することが望ましい。咳やクシャミをする時にティッシューで覆っても良い
医療施設(病室の外に出る時)耐容できるならマスクをする
医療施設以外マスクがあるなら装着することが望ましい。咳やクシャミをする時にティッシューで覆っても良い
授乳マスクがあるなら装着することが望ましい。咳やクシャミをする時にティッシューで覆っても良い


マスクが推奨されるのは感染者と合併症高リスク者だけ、というマスク・メーカーには厳しい内容です。感染者に関しても、ティッシューで代替できるという考え方のようです。定義のところに記されているように、通常のマスクではウイルスを防止できないことが理由なのでしょう。N95なら効果があるかもしれませんが、顔にフィットしなかったら役に立ちませんし、ピッタリ嵌まったら嵌まったで、しばらくすると水蒸気でマスクが詰まり、交換しなければならなくなるようです。医療従事者は一日に5-6回交換するそうですから、私達が予防目的で何週間も使ったら、費用がかかってしょうがありません。唯一の選択肢である普通のマスクが、この程度にしか評価されていないのは残念です。


どうも釈然としません。他の国はどうでしょうか。イギリスのHPA(健康保護局)はS-OIVに関するQ&Aで、以下のように書いています。



Q:マスクを装着したほうが良いですか?


A:大流行時に多くの人がマスクを装着しても、ウイルス感染を防ぐことはできないでしょう。但し、感染者が装着すれば、感染の拡大をある程度は抑えることができるかもしれません。


健康な公衆がマスクで感染を予防できるという十分なエビデンスはありません。ウイルスはウイルスが付着した場所を触ったり、感染者が直ぐ近くで咳やクシャミをすることで感染します。感染者が直ぐそばにいない限り、マスクをしても意味は無いのです。


マスクは正しく装着し、定期的に取り替える必要があります。マスクの外側を触るとウイルスが移るかもしれませんし、使ったら廃棄しないと誰かが触れるかもしれません。


マスクを過信して、手洗いなど感染予防に効果のある手段がおろそかになったら逆効果です。感染者がマスクをしているからと安心して遊びに出かけるかもしれません。


Q:それなら、どうしてマスクを勧めている国があるのでしょうか?


A:この問題は各国の政府が個々に検討しました。フランスは予防的措置として国民にマスクの購入を推奨していますが、政府自体はマスクの備蓄はしていません。アメリカも同じです。


一部の国では、感染拡大防止や大気汚染対策を目的に、マスクを装着するのが慣習になっています。これらの条件は英国には当てはまりません。


このQ&Aには、抗インフルエンザ薬の国家備蓄状況も記されています。これまでの備蓄はタミフルが2300万人分、リレンザが1050万人分で、人口の80%(5000万人)をカバーすべく追加発注を行なっているようです。オリンピックなら断トツのトップではないでしょうか。因みに日本は3400万人分ですが、追加備蓄に動いています。


本題に戻ると、結局、マスクに好意的なのは一部の国だけということになります。日本はマスク・ブームで一時は売り切れたり、一枚数百円の高価な製品しか売っていない状態ですが、焦る必要はないのかもしれません。


でも、満員電車族としては咳をしている人に近づくなというアドバイスは何の役にも立たないし、何か上手い方法はありませんかね。


ストレスを溜めない秘訣は、都合の悪いものを見ないことです。最後に、厚生労働省の新型インフルエンザに関するQ&A(5月22日版)を読んで、うがいの代わりにしましょう。


Q:必ずマスクを着用する必要がありますか?


A:マスクは、咳やくしゃみによる飛沫及びそれらに含まれるウイルス等病原体の飛散を防ぐ効果が高いため、混み合った場所、特に屋内や乗り物など換気が不十分な場所にはいるときに有効です。一方屋外などでは、相当混み合っていない限りあえてマスクを着用する必要はありません。


咳やくしゃみ等の症状のある人はマスクをつけましょう。


Q:N95マスクの性能がよいと聞いたのですが?


A:N95マスクを使用する際にはとフィットテストなどの事前準備が必要であり、一般の方の使用にはむいていませんので、厚生労働省は推奨していません。





2009年5月24日日曜日

Plavixと2C19多型---FDAの見解

アメリカでPlavix(clopidogrel)の添付文書が改定され、代謝酵素多型と効果の関連性や、プロトンポンプ阻害剤との相互作用に関する記述が追加されました。中間報告とでも言うべき内容に留まっていて、具体的な対処法は提示されていませんが、私たちより多くの情報を持っているFDAが承認した文書なのですから、信憑性は高いでしょう。学会で糖尿病分野の審査官が言っていましたが、治験論文は数ページでもFDAに提出される資料は100万ページを超えます。私たちは論文の内容を質す書簡を送ることができるだけですが、FDAは必要があれば追加試験の実施を要請することができます。FDAの見解は軽視できないのです。

レーベルには中国系のデータしか出ていませんが、日本人もCYP2C19酵素の機能が十分ではない人がたくさんいるようです。日本の学界で取り上げるべきテーマなのではないでしょうか。

最初に結論です。


  • ファーマコジェノミクス

    CYP2C19プア・メタボライザー・ステータスはclopidogrelに対する反応低下と関連している。このような人に対する至適用量用法はまだ確立していない。

  • 薬物相互作用
    clopidogrelはCYP2C19によって活性代謝物に代謝されるので、この酵素の活性を阻害する薬はclopidogrelの活性代謝物の量の低下や臨床効果の低下をもたらすと予想される。CYP2C19を阻害する薬(例えばomeprazole)を同時使用しないほうが良い。


次に、前者の説明を読んでみましょう(後者の説明はありません)。


  • clopidogrelは複数のCYP450酵素によって活性化される。

  • CYP2C19は活性代謝物及び2-oxo-clopidogrel中間代謝物の生成に関与している。

  • 薬物動態やex vivo血小板凝集検査で測定した抗血小板効果はCYP2C19の遺伝子型によって異なる。CYP2C19*1多型は代謝機能が完全だが、CYP2C19*2と*3多型は代謝が低下する。他にも*4、*5、*6、*7、*8などの多型があるが、白人の場合は機能低下多型の85%、アジア人の場合は99%を*2と*3の多型が占める。

(%)白人黒人中国人
n1,356966573
Extensive Metabolism:
CYP2C19*1/*1
746638
Intermediate Metabolism:
CYP2C19*1/*2、*1/*3
262950
Poor Metabolism:
CYP2C19*2/*2、*2/*3、*3/*3
2414

出所:Xie et al. Annu Rev Pharmacol Toxicol 2001; 41; 815-50



  • CYP2C19遺伝子型がclopidogrelの薬物動態に与える影響に関して、症例数合計227人の7本の研究が刊行されている。300mgまたは600mgを負荷用量、75mgを維持用量として投与した時、IntermediateとPoor metabolizerでは活性代謝物のCmaxやAUCが30-50%小さくなる。その結果、血小板阻害作用が低下し残余血小板応答性が増加する。

  • 抗血小板反応との関連性は総計4,520人、21本の研究が刊行されている。IntermediateとPoor Metabolizerの抗血小板反応は、個々の試験の検査方法によって異なるものの、典型的には30%以上、低い。

  • CYP2C19遺伝子型とclopidogrelの治療効果の関連性は二本の試験のポストホック・サブスタディ(CLARITY-TIMI 28[n=465]とTRITON-TIMI 38[n=1,477])及び5本のコホート・スタディ(総計でn=6,489)で検討された。

  • CLARITY-TIMI 28とTrenk等のコホート・スタディ(n=765)では心血管イベント発生率の遺伝子型による大きな違いはなかった。

  • TRITON-TIMI 38試験とCollet、Sibbing、Giustiのコホート・スタディ(総計でn=3,516)では、IntermediateとPoor Metabolizerの心血管イベント(死亡、心筋梗塞、卒中)やステント血栓の発生率が高かった。

  • Simonのコホート・スタディ(n=2,208)ではイベント発生率が高いのはPoor Metabolizerだけだった。

  • ファーマコジェノミクス検査によってCYP2C19活性の多様性に関連する遺伝子型を特定することができる。

  • clopidogrelの活性代謝物の形成に影響するCYP450酵素遺伝子変異は他にもあるかもしれない。

FDAはファーマコジェノミクスに慎重なスタンスを取っているため、文章の端々に慎重な表現が付け加えられています。ワーファリンの効果や出血リスクに関連する遺伝子多型の話が掲載された時も、検査を推奨するというよりは、やりたかったらやっても良いというニュアンスでした。この種の研究は前向き無作為化仮説検証的試験ではなく、ポストホックで多様な遺伝子との関連を調べたものが多いため、患者背景の偏りや検定の多重性(20種類の検定を行えばそのうち一つのp値が0.05になる確率は100%になる)を懸念しているのでしょう。

機能低下多型を持っている患者に用量を増やす方法の有効性や安全性は未だ確認されていません。TRITON-TIM 38試験のような大規模な試験でもファーマコジェノミクス試験ではclopidogrelとprasugrelの効果が同じという、全症例の解析とは異なった結果になってしまいました。こんなに大規模な試験でも、この問題に答えを出すには症例数が少なかったのでしょう。

テイラーメード・メディスンと言うは易し、行うは難し。エビデンスは十分ではないのですが、prasugrelの発売後は全患者にprasugrelを投与することで対処されるようになるのではないでしょうか。




2009年5月2日土曜日

ブタインフルエンザ:日本の症例定義

日本の新型インフルエンザ診断基準(症例定義)が厚生労働省のウェブサイトに出ていたので、抜粋します。この定義によれば、疑い例として報道されている症例は、本当は擬似症患者と呼ばれるべきではないのでしょうか。ただ、この名称も誤解を招きやすいので適切ではないかもしれません。何れにせよ、日本でも、S-OIVとそれ以外を見分けるのは容易ではないようです。


厚生労働省:新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)に係る症例定義及び届け出様式について


��平成21年4月29日健感発第0429001号厚生労働省結核感染症課長通知)

確定例

医師は、臨床的特徴(*1)を有する者のうち、38℃以上の発熱または急性呼吸器症状(*2)のある者を診察した結果、症状や所見から新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)と診断した場合には、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。


検査方法 検査材料
分離・同定による病原体の検出 喀痰・咽頭ぬぐい液・鼻汁・便・髄液・血液・その他
検体から直接のPCR法(Real-timePCR法、Lamp法等も可)による病原体の遺伝子の検出
中和試験による抗体の検出(ペア血清による抗体価の有意の上昇) 血清

疑似症患者


医師は、38℃以上の発熱又は急性呼吸器症状(*1)があり、かつ次のア)イ)ウ)エ)のいずれかに該当する者であって、インフルエンザ迅速診断キットによりA型陽性かつB型陰性となったものを診察した場合、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。


ただし、インフルエンザ迅速診断キットの結果がA型陰性かつB型陰性の場合であっても、医師が臨床的に新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)の感染を強く疑う場合には、同様の取り扱いとする。


  • ア)10日以内に、感染可能期間内*2にある新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)患者と濃厚な接触歴(直接接触したこと又は2メートル以内に接近したことをいう。以下同様。)を有する者

  • イ)10日以内に、新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)に感染しているもしくはその疑いがある動物(豚等)との濃厚な接触歴を有する者

  • ウ)10日以内に、新型インフルエンザウイルス(豚インフルエンザウイルスH1N1)を含む患者由来の検体に、防御不十分な状況で接触した者、あるいはその疑いがある者

  • エ)10日以内に、新型インフルエンザが蔓延している国又は地域に滞在もしくは旅行した者

*1:咳や鼻水等の気道の炎症に伴う症状に加えて、突然の高熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛等を伴う。なお、国際的連携のもとに最新の知見を集約し、変更される可能性がある。

*2:急性呼吸器症状とは、最近になって少なくとも以下の2つ以上の症状を呈した場合をいう


  • ア)鼻汁もしくは鼻閉

  • イ)咽頭痛

  • ウ)咳嗽

  • エ)発熱または、熱感や悪寒


ブタインフルエンザの判定法

横浜の高校生は疑いが晴れて良かったですね。帰宅してから家人に聞いたのですが、テレビでは一日、大騒ぎだったようです。行政がマスコミに対してもっときちっと情報を伝えるべきなのではないでしょうか。さもないと、風評被害が発生してしまいます。確かに公衆衛生の立場からは、疑わしきは監視しなければなりませんが、ブタインフルエンザは診断が難しいので、疑い例の多くが潔白かもしれません。読売新聞の一面コラムは、これからも「お手つきあり」でいくしかないと甘い判断をしていますが、患者や周りの人たちのプライバシーや日常生活を必要以上に犯してはいけません。


日本の判定方法は知りませんが、メキシコにおける定義が分かりましたので、以下、説明します。今回のブタインフルエンザウイルスが弱毒性と考えられている理由についても、BBCのウェブサイトに解説が出ていたので、付け加えておきましょう。


今回のウイルスはヒトとブタとトリの夫々に感染するウイルスの一部がミックスされたreassortantと呼ばれる新型ウイルスです。分類としてはA型ウイルスのH1N1型で、聞きかじった話によるとブリスベーン型、つまり、ここ数年、日米欧で流行しているウイルスと似ているようです。但し、これも聞きかじった話ですが、ヒト型のH1N1ウイルスを識別できる検査装置でも判定することはできず、判定不能という答えが返ってくるようです。



ところで、WHOはブタインフルエンザという呼称を止めて、A(H1N1)ウイルスに変えました。実際にブタから感染した例は確認されていないことや、業界からのクレームが原因のようです。A(H1N1)では季節性インフルエンザと区別ができません。アメリカのCDC(疾病管理予防センター)の真似をして、今後は、S-OIV(swine-origin influenza virus<ブタ由来のインフルエンザウイルス>)と呼びます。


以下の記述は、CDCのMMWRに基づきます。




  • メキシコのDGEはS-OIVの診断に関して、以下の定義を採用している。

  • 疑い例(suspected case):重度の呼吸器疾患で、熱、咳、呼吸困難を伴うもの

  • (インフルエンザ以外でも疑い例になりうるわけです)

  • 可能例(probable case):疑い例のうち、インフルエンザA型と判定されたもの

  • (季節性インフルエンザは通常、A(H1)型とA(H3)型、そしてB型が流行します。季節性インフルエンザ感染であったとしてもおよそ3分の2の患者は可能例と診断されることになります)

  • 確認例(confirmed case):可能例のうち、リアルタイム逆転写PCR(RT RT-PCR)でS-OIV陽性と判定されたもの

  • (この検査は難しいらしく、メキシコはカナダなどの研究施設に依頼しています。日経メディカルの報道によると、日本でも検査できなかったのですが、対策が取られているようです。)

  • 3月1日から4月30日までの診断症例数は、疑い例が1918例、可能例が286例、確認例が97例。

  • (疑い例のうち、確認されたのは5%に過ぎないことになります。)

  • 疑い例のうち死亡は84例、確認例の中では7例

  • (死亡率は4-7%ですから、新型インフルエンザ対策で想定している最悪の事態よりは良いですが、通常の季節性インフルエンザと比べれば深刻です。通常はインフルエンザで死ぬ可能性は低い20-40代の若い人が多く亡くなっている点でも、季節性インフルエンザと同一視することはできません。)


もうそろそろ季節性インフルエンザの時期は終わり、また、日本の場合は帰国者であることがS-OIV感染を疑う上で重要な要件になります。したがって、日本の場合はメキシコより的中率が高いかもしれません。それでも、疑い例は疑いに過ぎず、潔白(季節性インフルエンザ感染)である可能性が十分に残っていることに留意すべきでしょう。



さて、パニックを避けるためか、最近は、S-OIVの毒性はそれほど高くないという意見が出始めました。その根拠らしきものがイギリスの公的放送局、BBCのウェブサイトに載っていました。



ウイルスは変化するので今後、変わるかもしれませんし、今後の研究で見方が変わるかもしれませんが、今のところの分析では、S-OIVの毒性はそれほど高くないと推測されているようです。理由は、まず、H1型であること。H1型のウイルスは上部気道の受容体に結合する傾向があり、他の人に感染しやすいのですが、深刻な合併症を起こすリスクは比較的小さいのです。因みに、トリのH5N1ウイルスは肺の受容体に結合する傾向があり、その分、深刻な合併症を起こしやすいとされています。


もう一つの理由は、NS1蛋白の好ましくない変異が見られないことです。高病原性ウイルスはNS1蛋白の変異が原因で、感染者の体の免疫機構が過剰に反応していまう、サイトカイン・ストームという合併症を誘導しやすいのだそうです。


尚、6ヵ国の感染者の検体を調べたところ、ウイルスの遺伝子は99-100%同じだったそうです。今のところは、数十万人、数百万人が命を失うような深刻な事態は心配しなくても良さそうです。


それでも感染力自体は強いようで、アメリカなどでも帰国者から同級生などへの二次感染が起きています。死亡率も季節性インフルエンザより高そうです。また、08/09年シーズンに接種したインフルエンザワクチンはS-OIVには効かないようですので、高齢者や幼児のいる家庭は特に気を付けなければいけません。


前回書きましたように、インフルエンザ感染を防ぐ方法は簡単です。うがい、手洗い、電車の手すりなどを触った手で目や唇、鼻を触らない、症状が出たら直ぐに医者に行く(新型インフルエンザが疑われる場合は地方公共団体の窓口に連絡して医療施設を照会してから行く)、人にうつさないよう注意する、の五点です。最初の三点は、薬やワクチンと異なり副作用はなく費用もかかりません。インフルエンザだけでなく、ノロウイルスなどの予防にも効くのですから、お得です。


最後に、アメリカではインターネットに、今回のインフルエンザに効くというサプリメントや薬の広告が出始めたようで、FDAが警告しています。人畜無害なら未だ良いですが、何が入っているか分からず、生産・流通時の衛生管理もアテにならないので、気を付けましょう。S-OIVに対する効果が確認されているのはTamifluとRelenzaだけで、それも、きちんとした臨床試験ではなく試験管試験の裏付けしかないようですので、どの程度効くかは分かりません。






Valsartanは名古屋では引き分けに

次は、同じくACCのLate-breakerで発表されたNagoya Heart Study(NHS)です。試験の内容や結果は納得できるものですが、分からないのは、Kyoto Heart StudyやJikei Heart Studyとの関係です。この二本の試験ではvalsart...