2009年5月2日土曜日

ブタインフルエンザの判定法

横浜の高校生は疑いが晴れて良かったですね。帰宅してから家人に聞いたのですが、テレビでは一日、大騒ぎだったようです。行政がマスコミに対してもっときちっと情報を伝えるべきなのではないでしょうか。さもないと、風評被害が発生してしまいます。確かに公衆衛生の立場からは、疑わしきは監視しなければなりませんが、ブタインフルエンザは診断が難しいので、疑い例の多くが潔白かもしれません。読売新聞の一面コラムは、これからも「お手つきあり」でいくしかないと甘い判断をしていますが、患者や周りの人たちのプライバシーや日常生活を必要以上に犯してはいけません。


日本の判定方法は知りませんが、メキシコにおける定義が分かりましたので、以下、説明します。今回のブタインフルエンザウイルスが弱毒性と考えられている理由についても、BBCのウェブサイトに解説が出ていたので、付け加えておきましょう。


今回のウイルスはヒトとブタとトリの夫々に感染するウイルスの一部がミックスされたreassortantと呼ばれる新型ウイルスです。分類としてはA型ウイルスのH1N1型で、聞きかじった話によるとブリスベーン型、つまり、ここ数年、日米欧で流行しているウイルスと似ているようです。但し、これも聞きかじった話ですが、ヒト型のH1N1ウイルスを識別できる検査装置でも判定することはできず、判定不能という答えが返ってくるようです。



ところで、WHOはブタインフルエンザという呼称を止めて、A(H1N1)ウイルスに変えました。実際にブタから感染した例は確認されていないことや、業界からのクレームが原因のようです。A(H1N1)では季節性インフルエンザと区別ができません。アメリカのCDC(疾病管理予防センター)の真似をして、今後は、S-OIV(swine-origin influenza virus<ブタ由来のインフルエンザウイルス>)と呼びます。


以下の記述は、CDCのMMWRに基づきます。




  • メキシコのDGEはS-OIVの診断に関して、以下の定義を採用している。

  • 疑い例(suspected case):重度の呼吸器疾患で、熱、咳、呼吸困難を伴うもの

  • (インフルエンザ以外でも疑い例になりうるわけです)

  • 可能例(probable case):疑い例のうち、インフルエンザA型と判定されたもの

  • (季節性インフルエンザは通常、A(H1)型とA(H3)型、そしてB型が流行します。季節性インフルエンザ感染であったとしてもおよそ3分の2の患者は可能例と診断されることになります)

  • 確認例(confirmed case):可能例のうち、リアルタイム逆転写PCR(RT RT-PCR)でS-OIV陽性と判定されたもの

  • (この検査は難しいらしく、メキシコはカナダなどの研究施設に依頼しています。日経メディカルの報道によると、日本でも検査できなかったのですが、対策が取られているようです。)

  • 3月1日から4月30日までの診断症例数は、疑い例が1918例、可能例が286例、確認例が97例。

  • (疑い例のうち、確認されたのは5%に過ぎないことになります。)

  • 疑い例のうち死亡は84例、確認例の中では7例

  • (死亡率は4-7%ですから、新型インフルエンザ対策で想定している最悪の事態よりは良いですが、通常の季節性インフルエンザと比べれば深刻です。通常はインフルエンザで死ぬ可能性は低い20-40代の若い人が多く亡くなっている点でも、季節性インフルエンザと同一視することはできません。)


もうそろそろ季節性インフルエンザの時期は終わり、また、日本の場合は帰国者であることがS-OIV感染を疑う上で重要な要件になります。したがって、日本の場合はメキシコより的中率が高いかもしれません。それでも、疑い例は疑いに過ぎず、潔白(季節性インフルエンザ感染)である可能性が十分に残っていることに留意すべきでしょう。



さて、パニックを避けるためか、最近は、S-OIVの毒性はそれほど高くないという意見が出始めました。その根拠らしきものがイギリスの公的放送局、BBCのウェブサイトに載っていました。



ウイルスは変化するので今後、変わるかもしれませんし、今後の研究で見方が変わるかもしれませんが、今のところの分析では、S-OIVの毒性はそれほど高くないと推測されているようです。理由は、まず、H1型であること。H1型のウイルスは上部気道の受容体に結合する傾向があり、他の人に感染しやすいのですが、深刻な合併症を起こすリスクは比較的小さいのです。因みに、トリのH5N1ウイルスは肺の受容体に結合する傾向があり、その分、深刻な合併症を起こしやすいとされています。


もう一つの理由は、NS1蛋白の好ましくない変異が見られないことです。高病原性ウイルスはNS1蛋白の変異が原因で、感染者の体の免疫機構が過剰に反応していまう、サイトカイン・ストームという合併症を誘導しやすいのだそうです。


尚、6ヵ国の感染者の検体を調べたところ、ウイルスの遺伝子は99-100%同じだったそうです。今のところは、数十万人、数百万人が命を失うような深刻な事態は心配しなくても良さそうです。


それでも感染力自体は強いようで、アメリカなどでも帰国者から同級生などへの二次感染が起きています。死亡率も季節性インフルエンザより高そうです。また、08/09年シーズンに接種したインフルエンザワクチンはS-OIVには効かないようですので、高齢者や幼児のいる家庭は特に気を付けなければいけません。


前回書きましたように、インフルエンザ感染を防ぐ方法は簡単です。うがい、手洗い、電車の手すりなどを触った手で目や唇、鼻を触らない、症状が出たら直ぐに医者に行く(新型インフルエンザが疑われる場合は地方公共団体の窓口に連絡して医療施設を照会してから行く)、人にうつさないよう注意する、の五点です。最初の三点は、薬やワクチンと異なり副作用はなく費用もかかりません。インフルエンザだけでなく、ノロウイルスなどの予防にも効くのですから、お得です。


最後に、アメリカではインターネットに、今回のインフルエンザに効くというサプリメントや薬の広告が出始めたようで、FDAが警告しています。人畜無害なら未だ良いですが、何が入っているか分からず、生産・流通時の衛生管理もアテにならないので、気を付けましょう。S-OIVに対する効果が確認されているのはTamifluとRelenzaだけで、それも、きちんとした臨床試験ではなく試験管試験の裏付けしかないようですので、どの程度効くかは分かりません。






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