2009年4月28日火曜日

WHOのブタインフルエンザFAQ

ブタインフルエンザ問題は毎日のように新しい動きが出ていますが、メキシコの感染被害状況は相変わらず良く分からないようです。あと2週間くらいすれば、メキシコの被害は更に拡大するのか、メキシコ旅行後に感染した他の国の人たちの転帰はどうか、などの重要な情報が入るでしょう。


前回翻訳したWHOのFAQがアップデートされました。フェーズ4に上がったせいか、同じ文が二度、記されていたり混乱していますが、私たち一般人が感染を防ぐためにどうしたらよいか、感染したらどうするか、身近に豚がいる人はどうしたらよいのか、といった現実的なアドバイスが載っていますので、抜粋して翻訳します。



ブタインフルエンザ frequently asked questions(WHO、09年4月27日)


(原文のpdfファイルは、このWHOウェブサイトにあります。)


豚と日常的に接触があるのですが何をしたら良いでしょう?


現在問題になっているブタインフルエンザの人への感染が、豚のインフルエンザ様疾患と関係があるという明確な印はありません。それでも、病気の豚との接触を最小限にとどめて、動物医療を管轄する組織に豚の病気を報告するよう推奨します。


豚から感染するケースはその殆どが、感染豚と長く密接な接触を経ています。動物と接触する場合、特に屠殺処理を行うときは、衛生的な慣行が重要です。病気の動物や病死した動物を屠殺処理してはいけません。各国の規制機関の勧告に従ってください。


自分がブタインフルエンザに感染しないためにはどうしたら良いですか?


あなた自身を守るために、通常のインフルエンザ予防策を実施してください。



  • 具合が悪そうに見えたり熱や咳のある人に密接に接触するのは避ける。

  • 手を石鹸と水で頻繁に、徹底的に洗う。

  • 健康な生活を送る。良く眠り、栄養のある食事を取り、活発に動く。


あなたの家に病気の人がいる場合:



  • 病気の人には家の中の別のセクションを提供しましょう。不可能な場合は、他の人から1メートル以上、離すようにしましょう。

  • 病気の人の世話をする時は口や鼻を覆いましょう。マスクは市販品を買っても、身近の素材を使っても良いですが、使った後に廃棄するか、キレイに洗うことが大事です。

  • 接触の後は手を石鹸と水で隅々まで洗いましょう。

  • 病気の人がいる場所の空気の流れを改善しましょう。風を利用するためにドアや窓を利用しましょう。

  • 普段使っている洗剤で家をキレイに保ちましょう。


あなたの住んでいる国でブタインフルエンザの人感染が起きている場合は、あなたの国や地域の保険機関の勧告にも従ってください。


ブタインフルエンザに感染したと思われる場合は何をすべきですか?


もしあなたが調子が悪く、高熱があり、咳又は咽喉痛がある場合は:



  • 家に留まり、勤務先や学校、混雑する場所に行くのは可能な限り避けましょう。

  • 休養を取り、たくさんの水分を取りましょう。

  • 咳やくしゃみをする時は口と鼻を使い捨てティッシューで覆い、使った後は適切に捨てましょう。

  • 手を石鹸と水で頻繁かつ隅々まで洗いましょう(特に咳やくしゃみの後)。

  • 家族や友人に病気を伝えて、買い物のような他の人との接触が必要な家事の手伝いを頼みましょう。


医療を必要とする場合は:



  • 医者に行く前に連絡を取って、あなたの症状を伝えてください。なぜブタインフルエンザと考えるのか説明してください(流行国を訪問したなど)。医者のアドバイスに従ってください。

  • 事前に連絡を取れない場合は、医療施設に着いたら直ぐに、ブタインフルエンザを疑っていることを知らせてください。

  • 医者に行く時は鼻と口を覆うように注意してください。



2009年4月26日日曜日

アメリカでブタインフルエンザの人への感染が報じられた時は、それほど心配しませんでした。人から人への感染があったものの規模は小さく、1週間程度で治癒するなど病原性も深刻とは思えなかったからです。それだけに、メキシコで大量の感染者・死亡者が出たという報道は驚きました。幾つか調べてみましたが、現在調査中とのことで、事実関係は良く分かりません。少なくとも一部は、アメリカで散発的に報告されたウイルスと類似しているようですので、両国だけでなくあちこちで同様なウイルスがブタの間で流行っているのかもしれません。


現実に何十人もの使者が出ているのですから、原因がブタインフルエンザであっても他の感染症であっても大変な事態であることは間違いありません。WHOや米加の協力で、一刻も早く実情把握が望まれます。


情報が限られていて良く分からないので、以下、WHOが4月25日に出したFAQ集と、アメリカのCDC疾病管理予防センターがアメリカ人向けに出した推奨を、ほぼそのまま翻訳しました。



ブタインフルエンザ frequently asked questions(WHO、09年4月25日)


(原文のpdfファイルは、このウェブサイトにあります。)


ブタインフルエンザとは何ですか?


ブタインフルエンザは強い感染力を持つブタの急性呼吸器疾患で、数種類のブタインフルエンザA型ウイルスの一つが起こします。モービディテー(症状の重さや合併症)は高いことが多く、死亡率は1-4%です。空気感染や直接間接接触で感染が広がり、キャリアでも症状がない場合があります。流行は一年中起きますが秋と冬に増加します。多くの国がブタにインフルエンザワクチンを投与しています。


ウイルスの亜型はH1N1型が多いですが、H1N2、H3N1、H3N2なども循環します。ブタは鳥や人のインフルエンザウイルスに感染することもあり、ブタH3N2ウイルスは人から感染したものと考えられています。複数のウイルスに感染すると、ウイルスの遺伝子が混合しreassortantウイルスが生まれる可能性が生じます。ブタのウイルスは通常はブタにしか感染しませんが、種を超えて人などに病気を起こすこともあります。


人間の健康に与える影響は?


ブタインフルエンザが人に感染して流行・散発することが時々あります。臨床症状は季節性インフルエンザと類似していますが、症状がないもあれば重い致死的な肺炎例もあり様々です。


感染例の多くは季節性インフルエンザ監視体制の中で発見されています。軽症・無症候例は見過ごされている可能性があり、実際にどれ位の感染例があるのかは分かりません。


どこで発生しているのですか?


世界的な疫病監視体制であるIHRが2007年に実施されて以来、WHOはアメリカ連邦とスペインからブタインフルエンザ症例の報告を受けています。


どのようにして感染するのですか?


通常はブタインフルエンザに感染したブタから感染するのですが、ブタとの接触がなかったりブタがいない地域で発症した症例もあります。幾つかの症例では人から人への感染でしたが、密接な接触のある閉ざされた集団の人々に限定されています。


豚肉やブタ製品を食べても安全ですか?


はい。適切に処理された豚肉やブタ由来の製品を食べることによってインフルエンザウイルスが感染することは示されていません。一般的な豚肉の調理ガイダンスに従って70度の熱で調理すればブタインフルエンザウイルスは死亡します。


どの国のブタで流行していますか?


ブタインフルエンザは動物の病気を監視する国際機関であるOIEに報告されないので分かりません。流行が見られたのはアメリカ合衆国、北南米、欧州(英国、スエーデン、イタリアを含む)、アフリカ(ケニア)、そして中国や日本など東アジアの一部です。


大流行のリスクはありますか?


ブタと接触することが多い人以外は殆どの人がブタインフルエンザの感染予防に必要な免疫を持っていないでしょう。もしブタウイルスが人から人に効率よく感染する能力を確立した場合、インフルエンザの大流行が起き得ます。影響を予想するのは困難で、そのウイルスの病原性や人々が既に持っている免疫、季節性インフルエンザ感染によって生じた抗体の交差保護、感染者の特性などによって異なります。ブタインフルエンザが人のインフルエンザと混合してハイブリッド化して大流行を起こす可能性もあります。


人が接種できるブタインフルエンザ・ワクチンはありますか?


ありません。インフルエンザは極めて短時間で変化します。ワクチンに配合されている亜型と循環している亜型がうまくマッチしないと十分な免疫が得られません。WHOはワクチンに配合すべき亜型を毎年、推奨していますが、今シーズンの推奨にはブタインフルエンザウイルスは含まれていません。現在アメリカ合衆国やメキシコで発生しているブタインフルエンザに交差保護があるかどうかは現在調査中です。


治療薬はありますか?


国によっては季節性インフルエンザの抗ウイルス薬があり、予防・治療に効果があります。adamantane(amantadineとremantadine)とノイラミニダーゼ阻害剤(oseltamivirとzanamivir)の二種類があります。


過去に報告されたブタインフルエンザ症例は、治療や抗インフルエンザ薬の投与なしで完全に回復しています。


一部のインフルエンザウイルスは抗ウイルス剤に抵抗性を持っています。アメリカ合衆国の最近の症例から取得したウイルスはamantadineやremantadineには抵抗性がありましたがoseltamivirやzanamivirには感受しました。


ブタインフルエンザの予防や治療に抗ウイルス剤を用いるべきかどうか推奨することは、情報が限られているため、できません。医療従事者は臨床的・疫学的評価や個々の患者の予防・治療による利益や害に基づいて判断しなければなりません。現在ブタインフルエンザ感染が流行しているアメリカ合衆国とメキシコの政府は、oseltamivirやzanamivirを治療や予防に用いることを推奨しています。



CDCのアドバイス


CDC(アメリカの疾病管理センター)の4月26日現在の推奨は、以下の通りです。(原文のリンク



  • 現時点では、旅行を控えるよう推奨はしない

  • カリフォルニアやテキサスのようにブタインフルエンザ感染が発見された地域に旅行する場合は、関連機関の最新の情報を確認し、季節性インフルエンザワクチンなどルーチンに接種しているワクチンの接種状況を確認し、訪問先の地域の医療施設などを特定すること。

  • 訪問中は、地方公共団体の発表に注意し、移動制限や予防推奨などに従うこと。

  • 更に、石鹸と水による手洗いを行い感染の拡大を防ぐこと。石鹸がなく手が汚れていない場合はアルコールベースのハンド・ジェル(アルコール含有60%以上)を用いる。

  • 咳やくしゃみをする時はティッシューで口や鼻を覆うこと。使ったらゴミ箱に捨てること。ティッシューがない場合は、手で覆うのではなく上腕の袖で覆うこと。咳・くしゃみの後は手を洗うこと。

  • 地方公共団体の推奨に従うこと(例えば、手術用のマスクの装着)。

  • 熱や咳などの症状が出たら直ぐに治療を受けること。病人や動物に接触したかどうかを医師に伝えること。

  • 予防策を講じたい場合:季節性インフルエンザワクチンはブタインフルエンザに効果があるとは期待できないので、CDCは、処方薬(TamifluとRelenza)による治療・予防を推奨する。何れの薬とも、ブタウイルスが体内で増殖しないよう戦い、症状を軽快したり、回復を早めたりすることができる。重大な合併症を防ぐ効果もある。治療は病気になってから二日以内に開始するのが一番良く効く。医師と相談して決めるべき。

  • 病気になったら症状がなくなるまで旅行は中止する(医者に行く場合を除く)。

  • 旅行から帰ったら、7日間は健康状態を注視する。発熱・咳などの症状が発生したら医者に行って、症状、旅行地、病人や農場動物との接触の有無を伝える。



2009年4月18日土曜日

おとり捜査に嵌った治験審査委員会

Coast IRBという治験審査機関がGAO(米国政府説明責任局)のおとり捜査に引っかかった事件は大変な驚きでした。治験審査機関の役割は被験者が不当な不利益を被らないように臨床試験のプロトコルを審査することで、私がイメージするのは、医科大学の倫理委員会です。ところが、Coast IRBは営利組織で、このような独立系治験審査委員会がアメリカには珍しくないのだそうです。民営化が行き過ぎて公益が損なわれる、最近のアメリカでよく見られるパターンです。


今回は、おとり捜査がどのように行われたかをリポートします。


GAOのG. Kutzマネージング・ディレクターは3月26日に連邦議会下院の小委員会で、治験審査委員会の実態を調べるために行われたおとり捜査の概要を公表しました。手の込んだ捜査で、架空の会社、架空の医療機器、虚偽の書類、虚偽のホームページなどを駆使して、08年から09年3月にかけて、三つの作戦を行いました。


ミッション1:

  • 架空の治験審査委員会を作り、ホームページを設けて、保健福祉省(HHS)が公認、審査が迅速、などと魅力的な虚偽広告を出した。

  • 実在の会社一社から、侵襲的手術を含む治験に、ある医療施設を追加することを求めるよう申請を受けた。

  • また、この治験審査委員会はHHSに登録することに成功。登録番号を付与され、治験審査委員会名簿にも収載された。


ミッション2:

  • 架空の医療機器メーカーの名前で、上記の治験審査委員会が承認した治験に関して、HHSの保証(国の補助金を申請するのに必要)を受けるべく申請した。

  • インターネットとファックスによるやり取りだけで、HHSの保証を得ることに成功。保証を得たことはミッション3でも大いに役立った。


ミッション3:

  • 上記の医療機器メーカーが「FDAの承認を得て販売している、女性の手術後の回復を支援する医療機器」に関して、治験プロトコルを作成して独立系治験審査委員会三組織に承認を求めた。提出した書類の記載は、研究者の名前や経歴、医師登録番号も含めて出鱈目だった。

  • 二委員会は承認しなかった。内容が専門的でGAOにはとても対処できないような、追加情報の提出やプロトコル変更を求められた。片方の委員会の担当者は、このプロトコルは酷い、ゴミだと決め付けた。もう一方の委員会は全員一致で承認しないことを決めた。こんなにリスクが高い治験は見たことがない、と発言した委員もいた。

  • ところが、ある委員会が承認した。この医療機器がFDAの承認を得ていないことはFDAのデータベースを調べれば簡単に分かることだが、それすら行われていなかった。承認を得るまでのやり取りはインターネットとファックスだけで、面談どころか電話すらなかった。



この、承認してしまったのがCoast IRBでした。受理してから48時間以内に委員会に上程するというスピードが売りだったようですが、経営者は、迅速審査の看板を取り下げると共に、委員の入れ替えや監査の強化などの業務改善策を発表しました。


Coast IRBは、FDAの要請を受けて、医薬品や医療機器に関する治験の審査を中断することを決めました。既に承認した治験に関しても、新たな患者組み入れを止めるよう治験実施施設に指示しました。3000人以上の医師が参加している300以上の治験が影響を受けるようです。


そのうちに、Coast IRB問題のせいで治験完了が遅れると発表する会社が出てくるかもしれませんね。


HHS側の弁明は、例によって、人手不足でした。これらの保証・登録業務はそれ自体の重要性はあまり高くないのですが、民間にとってはお上のお墨付きは重要です。対処を迫られることになるでしょう。


日本のエレクトロニクス会社も20年前におとり捜査に引っかかったことがあります。日本側では、外国企業の台頭を防ぐために意図的に標的にしたのではないか、という見方も強く、そのせいか、この事件は摘発された会社の名前ではなく、IBM産業スパイ事件と呼ばれました。今回、民間企業だけでなくHHSも標的にしたのは、不平等感を与えないための配慮だったのかもしれません。



リンク:


GAO:おとり捜査の報告


FDA:Coast IRB問題に関するプレスリリース


Coast IRB:ホームページ



2009年4月11日土曜日

グレープフルーツの薬物相互作用

スーパーでグレープフルーツを買って帰った翌日、Medpageに大きな写真が出ていました。Lancet誌に報告された薬物相互作用の話でした。日本人はグレープフルーツもそのジュースもアメリカ人ほど好きではないので関係ないと最初は思ったのですが、調べてみるとそうでもなさそうです。

Medpageの報道


  • 下肢の重度静脈血栓を発症した42歳の女性を調べたところ、複数のリスク因子が判明した。前日に自動車を比較的長時間運転したこと、低用量ピルを服用していること、第V因子のLeiden多型(血栓症のリスクが高い---白人の5%が保有)を持っていること、そして、体重を減らすために3日前から食生活を見直し、それまで殆ど食べなかったグレープフルーツを毎朝食べるようになったことだ。

  • 突然発症したのは、低用量ピルに含まれる成分の代謝をグレープフルーツが阻害したことが原因と推測される。


生活習慣を改善するために、学会の推奨に則った食事療法を始めたことが、却って有害な結果になってしまった---切ない話ですね。メタボを気にしてジョギングを始めたら突然死してしまったという話を思い出します。


グレープフルーツの薬物相互作用はCYP3A4という酵素を阻害することが原因と思っていましたが、小腸の輸送体であるP糖蛋白やOATPも関与しているようです。この場合、グレープフルーツジュースだけでなくオレンジジュースやリンゴジュースも影響する可能性があります。一例は抗ヒスタミンのフェキソフェナジンです。アメリカの添付文書にはフルーツジュースと一緒に飲まずに水で飲むよう注意書があります。この薬はCYP3A4の影響を受けないので、相互作用の原因は輸送体に対する作用と推測されています。


グレープフルーツジュースの薬物相互作用は20年前に偶然、発見されたようです。その後、様々な研究が発表されていますが、よく分からない話が多いようです。アメリカの添付文書も比較的新しい薬については言及されていますが、カルバマゼピンのように何も記されていないものもあります。Ca拮抗剤のニフェジピンのように、研究者の意見が分かれているものもあります。更には、フェキソフェナジンやシンバスタチンのように、アメリカの添付文書と異なり日本の添付文書には何の注意書もない、というケースもあります。


20年も経つ割にはこれしか分かっていないのか、というのが率直な感想ですがのですが、好き好んで危ない橋を渡る必要もありません。疑惑のある薬を服用している人はジュースや果物に気を付けるべきなのか、お医者さんに相談した方が良いでしょう。


以下、グレープフルーツの薬物相互作用に関する主な研究と、疑惑のある薬、そして幾つかの薬のアメリカの添付文書に記されている情報を記します。


なぜグレープフルーツが影響するのか?



相互作用が発見されたきっかけはBailey等が実施した試験のようです。古い論文なので抄録しか読めませんでしたが、概要は以下の通りです。


Bailey等、Clin Invest Med. (1989) PubMed抄録



  • エタノールとfelodipineの相互作用を調べるために境界性高血圧の10人にクロスオーバー試験を実施した。

  • エタノール投与後にfelodipine 5mgを投与した時とfelodipineだけを投与した時では、最低血圧が平均68mmHg対75mmHg、心拍数は72bpm対67bpm、と有意な差があった。エタノールは低血圧関連の有害事象も増加させた。

  • felodipineの生物学的利用率はエタノールの影響を受けなかったが、血漿濃度は予想以上に増加した。

  • アルコールの味を隠すために用いたグレープフルーツジュースが影響した可能性がある。


相互作用の原因は、グレープフルーツジュースが小腸のCYP3A4の発現を抑制したり分解を促進したりすることと考えられているようです。肝臓のCYP3A4を阻害する作用はなさそうです。フェロジピンを経口投与ではなく点滴投与した試験では影響が見られず、また、AUCやCmaxは増加しますが半減期は変わらないからです。


Lundahl等、Eur J Clin Pharmacol (1997) PubMed抄録



  • 健常男性12人のクロスオーバー試験。

  • 150mlのグレープフルーツジュースまたは水を飲ませ、その15分後にfelodipineを点滴または経口投与したところ、経口投与時はグレープフルーツによってAUCとCmaxが各72%と173%増加したが、点滴投与時は無影響だった。最低血圧や心拍数に与える影響も経口投与時だけだった。


作用の『用量依存性』や持続性は論者によって意見が区々です。一杯飲んだだけで十分な阻害作用を発揮し、24時間経っても消失しないという意見が多いようですが、もっと複雑かもしれません。変数が多くて分かりにくいのです。グレープフルーツジュースと言っても色々な種類があるでしょうし、薬の吸収・代謝の個人差、そして相互作用自体の個人差もありそうです。また、CYP3A4だけでなくG糖蛋白やOATP(有機アニオン輸送ポリペプチド)も関与している可能性があります。


Dresser等、Clin Pharmacol Ther. (2002) PubMed抄録(Natureのホームページでオープンアクセス<要登録>)



  • 果物がP糖蛋白とOATPに与える影響を調べるためにin vitro試験と、fexofenadine(3A4依存性が低く、P糖蛋白の基質で、OATPの影響も受ける)を用いた健常者10人の治験を実施。

  • グレープフルーツジュース、オレンジジュース、アップルジュースと一緒に飲むとfexofenadineのAUCとCmaxが60-70%低下。影響には個人差があり、水と服用した時のAUCが大きい人は影響も大きかった。


グレープフルーツジュースの何の成分が影響しているのでしょうか?犯人は未だ見つかっていないようです。ジュースにする前の果肉や皮なども薬物相互作用があるようです。


Bailey等、Clinical Pharmacology & Therapeutics (2000) PubMed抄録



  • 市販されているグレープフルーツジュースだけでなく、果物自体や皮を用いた菓子も薬物相互作用懸念がある。


グレープフルーツジュースと相互作用が疑われている薬



Dahan等とMcCloskey等のリビュー論文に一覧が出ていたので、まとめてみました。但し、クエスチョンマークを付けた薬のように両者の評価が異なるものもあります。また、AUCやCmaxが増加する薬でも増加の程度は区々のようです。


Dahan等 Eur J Clin Nutr. (2004) PubMed抄録(Natureのホームページに登録していればオープンアクセス)


McCloskey等、Nutrition Today(2008) ホームページ


Ca拮抗剤felodipine増加
nisoldipine増加
nicardipine増加
nitrendipine増加
pranidipine増加
nimoldipine増加
nifedipine無影響?
amlodipine無影響
verapamil増加?
diltiazem無影響
中枢神経系薬diazepam増加
triazolam増加
midazolam増加
alprazolam無影響
carbamazepine増加
buspirone増加
sertraline増加
スタチンsimvastatin増加
lovastatin増加
atorvastatin増加
pravastatin無影響
その他cyclosporine増加
saquinavir増加
sildenafil増加
fexofenadine増加
terfenadine増加
amiodarone代謝物生成阻害


アメリカの添付文書の記述



アメリカの添付文書の記述は信頼性や重要性が最も高いと想像されます。FDAが記載を認めたわけですから、エビデンスの質の点でも、影響の大きさの点でも、優れていると考えられるからです。


勿論、記されていないからといって安心は出来ません。GE化した薬はメーカーが確認試験をやりたがらないので、放置されてしまいます。十分なエビデンスがないのか、それとも単に調査されていないのか、分かりません。


以下、幾つかの薬の添付文書の記述を読んでみましょう。


felodipine(Plendil)



  • CYP3A4阻害物質と併用する時は慎重に投与するべき。

  • グレープフルーツジュースと同時に摂取するとfelodipineのAUC(曲線下面積)とCmax(最高血中濃度)が2倍以上に増加する。半減期には影響しない。

  • オレンジジュースは影響するようには見えない。他のジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤でも同様な所見があるが、影響度はfelodipineより小さい。

3A4阻害剤による薬物動態の変化
AUCCmaxT1/2
グレープフルーツジュース2倍以上2倍以上変わらず
itraconazole8倍6倍以上2倍
erythromycin2.5倍2.5倍2倍
cimetidine1.5倍1.5倍-


fexofenadine(Allegra)


  • フルーツジュースはfexofenadineの生物学的利用率や曝露を削減するかもしれない。

  • ヒスタミン誘導性皮膚膨疹・紅斑試験では、グループフルーツジュースやオレンジジュースと一緒に服用すると水で服用した時より膨疹・紅斑が大きかった。文献に基いて判断すれば、アップルジュースなど他のフルーツジュースも同様な影響があると推定される。

  • 従って、水で服用することを推奨する。


simvastatin(Zocor)


  • マイオパシーや横紋筋融解症のリスクが高まる可能性があるので、大量(一日950ml以上)のグレープフルーツジュースを飲まないようにすべきである。

  • 高量試験では、二倍濃度(3倍の量の水で希釈するのではなく同量で希釈)のグレープフルーツジュース200mlを一日3回、2日間投与し、3日目に200mlと一緒にsimvastatin 60mgを投与したところ、AUCが16倍、simvastatin酸は7倍に増加した。

  • 低量試験では、通常濃度のものを237ml、3日連続で朝に投与し、3日目の夕方にsimvastatin 20mgを投与したところ、増加は1.3倍と1.9倍だった。


グレープフルーツジュースは一杯飲んだだけでも大きな影響があるはずですが、simvastatinの例を見ると、薬によって区々のようです。この試験では、HMG-CoA阻害活性に与える影響も調べましたので、信頼性は高そうです。


fexofenadineも薬力学的試験が行なわれたようですが、この記述ではどの程度のリスクがあるのか分かりません。薬を飲む時にジュースで飲むなと言っているだけですので、例えば薬を朝飲んで昼食にジュースを飲むのなら大丈夫なのかもしれません。


グレープフルーツの作用は長時間続くはずですが、simvastatinやfexofenadineを見ると、そうでもなさそうです。結局、相互作用があるといっても度合いは薬によって区々で、また、個人差も大きいのでしょう。


sunitinib(Sutent)とlapatinib(Tykerb)



  • 血中濃度が上昇する可能性があるので、グレープフルーツを食べたりそのジュースを飲んだりしないこと


この二つは末期がんの薬で長期投与しないので、記述も簡単ですが、警告が強いような印象を受けますね。


ワーファリン


相互作用といえば有名なのはワーファリンです。グレープフルーツは出ていませんが、サプリメントとしても販売されている成分が沢山出ていました。


  • ワーファリンの作用を増強するもの(出血リスクが高まる):ブロメライン(パイナップル由来の蛋白分解酵素)、ニンニク、朝鮮人参、トウキ、グランベリー

  • 弱化するもの(脳梗塞のリスクが高まる):コエンザイムQ10、セント・ジョーンズ・ワート


グランベリーは意外でしたが、04年にイギリス(イギリス人はベリーが好き)で疑惑が浮上したようです。日本人にはあまり関係なさそうですが、ベリーの載ったデザートや冷凍食品も見かけるようになりました。好きな人は注意しましょう。


MHRAの発表



  • 03年の医療従事者向けアドバイスでワーファリンとクランベリージュースの相互作用の可能性を指摘した。その後1年余の間に疑い例が12例報告された。

  • 製品毎の違いや無害量を確定することは不可能なので、ワーファリン服用者は、便益や危険を明らかに上回る場合を除いて、クランベリージュースを避けるべきである。他のクランベリー製品も注意すべきだ。



コエンザイムQ10は特に人気がありますが、健康に良いはずのサプリメントで病気になったら冒頭の女性のようになってしまいます。CoQ10を飲んでいる人が、心不全の治療薬として承認されているのだから効果があるはずと言っていましたが、大昔の話なので、今日の承認審査にも耐えうるのか分かりません。そもそも、承認されている用量は一日30mgで、30mgを一日三回という高用量は承認されていません。通常のサプリメントは処方薬の用量よりもはるかに少ない量しか配合されていないものですが、CoQ10は例外です。


この件については日本健康・栄養食品協会が有害事象の発生状況をアンケート調査しています。今年か来年には結果が公表されるのではないでしょうか。興味深いのは、この調査についてインターネットで検索しても殆ど情報がないことです。沢山ヒットするのですが、中身は殆ど同じで三種類の発表・公表資料にたどり着くだけです。新聞社のホームページで検索しても殆どヒットしません。サプリメントはマスコミにとってアンタッチャブルなのでしょうか。


本題に戻ります。冒頭のLancet誌の症例報告はエストロゲンとグレープフルーツの相互作用を疑っているようです。そこで、幾つかの製品のアメリカの添付文書を読んで見ましたが、殆ど言及されていませんでした。

相互作用の疑惑があるなら薬力学試験を行なってリスクを確認すべきだと思いますが、現実はお寒い限りです。真実が分からない以上、私たち自身が注意して、危ない橋を渡らないようにしたほうが良いのでしょう。


最後に、今回勉強させてもらったレビュー論文をもう一つ、紹介しておきましょう。


Kiani等 Nutrition Journal (2007)(オープンアクセス)







Valsartanは名古屋では引き分けに

次は、同じくACCのLate-breakerで発表されたNagoya Heart Study(NHS)です。試験の内容や結果は納得できるものですが、分からないのは、Kyoto Heart StudyやJikei Heart Studyとの関係です。この二本の試験ではvalsart...