2007年11月11日日曜日

torcetrapib(トルセトラピブ)とは?

CETP(コレステロール・エステル転送蛋白)を阻害して、血液中のHDL-Cの数を増やす薬です。肝臓で生産されたコレステロールはVLDL-C/LDL-Cとして血液中を循環し、動物の細胞にとって不可欠な要素である脂肪を組織に供給します。一方、組織から脂肪を受け取って肝臓に持ち帰る回収業の役割を果たしているのがHDL-Cです。心筋梗塞や狭心症の原因になるアテローム硬化は、血管壁の内部に脂肪が蓄積することによって起きます。このため、LDL-Cは悪玉コレステロール、HDL-Cは善玉コレステロールと呼ばれています。


CETPは、西部劇で言えば鉄道車両を襲って貨物を奪い、爆薬を仕掛けて逃げ去る無法者です。HDL-C中のコレステロール・エステルをVLDL-C/LDL-Cに移送してしまうからです。HDL-Cはコレステロールの代わりにトリグリセリド(中性脂肪)を受け取り、分解されやすくなります。


CETP阻害剤の最大の効果は血液中のHDL-Cが大幅に増えることです。メルクやファイザーが開発している物質は、2倍以上に増やす効果があるようです。LDL-Cを減らす効果もありますが、少なくともtorcetrapibに関しては、LDL-Cが増加することもあった模様です。ファイザーがatorvastatinとのコンビ薬として開発していたのは、LDL-C改善作用を安定化することが主目的だったようです。


臨床検査値を改善するだけでなく、心筋梗塞予防など現実的な効用があるかどうかは、まだ分かりません。先ほどは西部劇の無法者扱いしましたが、現実の社会は映画ほど単純ではなく、悪人と善人を区分するのは容易ではないからです。


  • CETPは本当に悪者か?CETPが注目されるようになった発端は、日本の長寿村の住人を対象とした調査で、CETP遺伝子が変異している人が多かったからですが、その後に他の地域で行なわれた研究では、CETP変異=冠状心疾患のリスクが小さい、という関係は確認されませんでした。

  • HDL-Cは本当に善玉か?HDL-Cを増やせば冠状心疾患リスクが低下する、という仮説の裏付けは小規模な治験だけで、十分なエビデンスはありません。LDL-Cと同様にHDL-Cも様々なサブタイプがあり、冠状心疾患リスクに関連するのはその一部だけという説もあります。

  • CETP阻害剤で増えるHDL-Cは有益か?CETP阻害剤はHDL-Cのスクラップを遅らせるだけで、新生を促進するわけではありません。トラック輸送の能力を増強するにはトラックを買い増す方法と一台一台の稼働時間を増やす方法がありますが、最近、トラックの事故が多いことを考えれば、どちらが良いかは一目瞭然です。


ILLUMINATE試験はこれらの疑問を一刀両断するための試験だったのですが、残念なことに、ゴール直前で落馬してしまいました。


CETP阻害剤に関する文献




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