2009年8月1日土曜日

FDA諮問委員会のONTARGET試験の解釈

telmisartanは海外で発売後10年経ち、アウトカム試験の結果が出て真価が問われる時期になりました。シロクロ決着すれば良かったのですが、却って分からないことだらけになりました。55歳以上の心血管疾患リスクが高い患者を対象に、海外で高く評価されているACE阻害剤ramiprilとイベント発生リスクを比較したONTARGET試験と、ACE阻害剤不耐患者に偽薬と比較したTRANSCEND試験が行われ、脳卒中経験者を対象に再発予防試験PROFESSも行われたのですが...



  • ONTARGET試験:主評価項目(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、うっ血性心不全による入院の複合評価項目)の相対リスクはtelmisartan群がramipril群比1.01、95%信頼区間0.94~1.09で非劣性検定成功。両剤併用群はramipril群対比で0.99、0.92~1.07で優越性検定成功せず。併用群は有害イベントが多かった。

  • TRANSCEND試験:主評価項目(ONTARGETと同じ)のハザード比はtelmisartan対偽薬で0.92、95%信頼区間0.81~1.05で優越性検定失敗。うっ血性心不全による入院以外の三項目だけの解析では0.87、0.76~1.00でギリギリ有意差が出るが、多重性の調節を行うとp値は0.048から0.068に悪化し有意性が消失。

  • PRoFESS血圧治療サブスタディ:脳卒中再発のハザード比はtelmisartan対偽薬で0.95、95%信頼区間0.86~1.04となり有意差なし。二次的評価項目の心血管イベントもハザード比0.94、0.87~1.01で有意差なし。


リンク:循環器トライアルデータベース

ONTARGET

TRANSCEND

PRoFESS

何とも理解しがたい結果になりました。HOPE試験で一躍カリスマ降圧剤になったramiprilと非劣性なら立派な結果ですが、TRANSCEND試験もPRoFESS試験の心血管イベント解析も惜しくも有意差に達しませんでした。イベント数が予想を下回った模様なので検出力不足が原因かもしれず、現に、この二つの試験のプール分析では有意差が出たようですが、薬効のエビデンスとしては迫力がありません。


7月29日にFDAの心臓腎臓薬諮問委員会が検討したのですが、FDAの審査官も諮問委員会も困惑したようです。ブリーフィング資料によれば、FDAはONTARGETが開始される前に、非劣性マージンを1.13ではなく1.08にするよう提案したようです。FDAが効能を承認するためには、『ramiprilは偽薬より優れる』、『telmisartanはramiprilより大きく劣っていない』、『故にtelmisartanは偽薬より優れる』という三段論法を成立させなければならないのですが、ramiprilのHOPE試験が実施されたのは何年も前の話で現在とは標準医療が変わっています。スタチンや抗血小板薬の服用率を見ても一目瞭然です。このため、二つの試験のデータを連結する時の誤差を小さくするために、非劣性検定のハードルを高くするよう求めたのです。


しかし、ハードルを高くすると組入れ症例数が大幅に増えてしまいます。これらの試験(とHOPE試験)を主導したS. Yusuf博士は、25000人を5年間追跡するだけでは足りず5万人が必要となり現実的ではないと反論したようです。


となると、ONTARGET試験の結果の再現性を確認するために他の試験のデータを参照しなければなりませんが、二本とも明確な結果ではありませんでしたので、結局、曖昧なままに終わってしまいます。


諮問委員会は、5人対2人の多数がACE阻害剤不耐患者のみに心血管イベント削減効果を認めるよう勧告しましたが、それ以外の患者については全員一致で認めないよう勧告しました。治験成績とは正反対ですが、これが現実的な判定なのでしょう。


尚、今回の話はtelmisartanの心血管イベント削減効果を否定した訳ではありません。患者背景を見ると7割前後が高血圧症を併発していますが、ベースライン時点の血圧は140/80mm Hg台ですのでまあまあ良く管理されています。この試験はtelmisartanのアドオン試験なのでこのような患者が対象になったわけですが、現実の医療でもっと高い患者にtelmisartanを使うのは有益なはずです。


HOPE試験以来、血圧降下作用を超えた臓器保護作用という魅力的なキャッチフレーズが聞かれるようになりました。ARBはACE阻害剤よりも臓器保護作用が高いことが期待されましたが、アウトカム試験の結果は今ひとつでした。それでも、血圧管理が心血管イベント阻止に有用であることは自明なのですから、降圧を通じた臓器保護作用を期待する分には問題ないでしょう。


これらの試験の敗因については諸説ありますが、FDAは、標準医療が充実した結果、血圧降下剤追加による限界効用が低下したと推測しているようです。血圧降下剤の新薬は乏しく、今後アウトカム試験のデータが期待できるのはolmesartanくらいでしょう。まだ十分な答えが得られたわけではないので、政府が資金を出すなどして、メーカーに頼らずに研究を続行できるよう支援する必要がありそうです。



1 件のコメント:

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    確かにONTARGET試験は失敗に終わりましたね。
    ただ、試験自体がまじめすぎた感じもしますね。
    他のディオバンのJIKEI-HEARTなどは、かなりバイアスがかかっているから当然の結果ではあったからそれにくらべれば、かなり臨床に近い試験だとは思いますね。
    オルメテックにしても、先日糖尿病性腎症に対して行ったORIENT試験では失敗に終わったのに対して、ミカルディスはINNOVATION試験で成功しているので、やはりARBではミカルディスが降圧効果以外の+αの部分では抜け出ている感じはありますね。
    先生は、ARBはどのようにして使い分けされているんですかね?

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