2009年8月9日日曜日

アメリカの新型H1N1感染状況

南半球はインフルエンザシーズンで、アルゼンチンやオーストラリア、ニュージーランドなど様々な地域で新型H1N1ウイルスが流行しています。どんな具合かデータが出るのを待っているのですが、中々発表されません。そうこうするうちに、アメリカのCDCがワクチンに関するFDAの諮問委員会でアメリカの年齢別の感染率などを発表しました。

季節性インフルエンザでは入院する患者の4割以上が65歳以上の高齢者なのですが、新型では4.7%と非常に少なくなっています。但し、感染者のうち5.2%は致死的な結果になりましたので、脅威であることに変わりはありません。

それ以外の人も油断はできません。0-4歳と5-24歳の人は、人口10万人当り19.5人と24人が感染し、4.4人と2.0人が入院しました。感染者の0.2%が死亡しています。

新型の特徴は10代の感染が多いことですが、オブザベーション・バイアスの影響もあるようです。子供は夏休み中にサマースクールに行ったり、イベントに参加したりするので、集団感染しやすく、それだけ目立ちます。帰宅してから他の世代にも移しているのですが、小規模な感染は世間の注目を集めません。今回のCDCの集計のような、客観的な指標を見ることが重要です。

新型は症状が軽いと言われていますが、実際には重い患者もいるため、CDCはリスク因子の解析も進めているようです。その一つが妊婦で、アメリカが(欧州も)妊婦に抗ウイルス剤の使用を認めたのはこれが背景なのでしょう。

アメリカの09/10シーズンのワクチンは、季節性ウイルス用に続いて、新型ウイルス用の生産が始まりました。フランスのサノフィ・アベンティス、スイスのノバルティス、イギリスのグラクソ・スミスクラインとアストラゼネカ、オーストラリアのCSLが受注したようです。アメリカですら供給を外国企業に頼っているんですね。各社が数千人規模の臨床試験を行う予定なので、全体では数万人の症例が集まるでしょう。ワクチンを二回接種しなければいけないのかそれとも一回で済むのか、接種できる人の数か激変しますので、関心のあるところです。

当然のことながら、安全性も重要です。1976年にアメリカでブタインフルエンザが発生した時、政府は国民にワクチン接種を推奨しましたが、結局、このウイルスは流行しませんでした。一方、ワクチンの副作用なのかギラン・バレー症候群という神経性疾患が多発しました。

日本はトリインフルエンザ用ワクチンで医療従事者に治験を行いましたが、3000人中二人が入院するという心許ないものでした。3000万人が接種したら2万人が入院するというのは乱暴な話です。対照群が設定されていないので、ワクチンが原因なのかは分かりませんが、治験に参加した医療従事者はワクチンを必要とする人たち全体と比べれば体が強いでしょうから、実際にはもっと危険である可能性も否定できません。

日本も自給体制を見直し、他の国と共同開発するようにしたほうが、治験実績の多い、その意味でより安全なワクチンを供給できるようになるのではないでしょうか。それ以前に、ワクチンに保険を付けるべきですよね。感染症のワクチンは、その人を守るだけでなく社会全体を守るという側面もあるのですから。

新型H1N1感染率・感染入院率(人口10万人当り)


0-4歳5-24歳25-49歳50-64歳65歳-不明
感染報告数4,09819,8786,7131,984439
感染率19.524.06.33.61.1
入院数7991,417906479178
入院率4.42.01.01.11.6
年齢構成比21.1%37.5%24.0%12.7%4.7%
死亡数743101662322
年齢構成比2.7%16.4%38.5%25.2%8.8%8.4%
感染者死亡率0.2%0.2%1.5%3.3%5.2%

注:アメリカのCDC調べ、n=33,112、09/7/16現在。

出所:FDA諮問委員会ブリーフィング資料(09年7月23日)(PowerPoint形式のファイルです)。



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