2009年1月9日金曜日

TAK-491の正体(訂正・加筆版)

(TAK-491については以前にも書きましたが、フェーズIII試験では違う塩が用いられていることが明らかになりました。以下、訂正します。最後の部分に、利尿剤配合剤に関するちょっと面白い発見も加筆しました。)


武田薬品はTAK-536とTAK-491の二種類の血圧降下剤を開発していますが、その特性についてはあまり明らかではありません。分かっているのはどちらもアンジオテンシン2受容体拮抗剤であることと、インスリン抵抗性改善作用や腎臓保護作用が期待されていることくらいです。TAK-536は二型糖尿病薬Actosとのコンビ薬として06年に欧米でフェーズⅢ入りしましたが、このコンビ薬の開発は中止されました。代わりに単剤で07年に欧米でフェーズⅢ入りしたのがTAK-491です。


TAK-491って何?と思いGoogle Scholarで論文検索しましたが、ヒットしません。Yahooで検索しても武田薬品のフェーズⅢ開始時のプレスリリースだけです。


そうこうするうちに、United States Adopted Names CouncilやWHOが一般名を公表しました。前者は当初、azilsartan kamedoxomilという資料が公開されたのですが、その後、azilsartan medoxomil名でも公開されました。WHOもazilsartan medoxomilでした。悩んでいたのですが、ClinicalTrials.govにazilsartan medoxomilという記載を見つけ、やっと、決着しました。TAK-536の異なった塩のようです。


武田薬品は Atacand(プロブレス;candesartan cilexetil)を日本では自社で、海外はアストラゼネカを通じて販売しています。TAK-536とTAK-491はどちらもAtacandの改良品ということになります。


この三種類の薬の関係を整理しておきましょう。武田薬品はアンジオテンシン2受容体拮抗作用を持つCV-11974(candesartan)を創製しましたが、経口投与時のバイオアベイラビリティ(投与した量がどの程度血液中に入り込むか)が悪いので、工夫をしました。Atacandはプロドラッグで、腸で代謝されてCV-11974に変わり活性を発揮します。


もう一つの工夫の産物がTAK-536(azilsartan)で、CV-11974の一部を置換してバイオアベイラビリティーを向上しました。力価自体は低下したようです。


TAK-491(azilsartan kamedoxomil)はTAK-536にカリウム塩を結合したものです。Kamedoxomilとは何か、ネットで調べてみましたが、薬のデータベースでもGoogleでもUnited States Adopted Names Councilの資料くらいしかヒットしませんでした。画期的な塩かもしれないと思い、米国特許商標庁のデータベースでも調べたのですが、kamedoxomilではヒットしませんでした。その後、フェーズIII入りしたのはazilsartan medoxomilのほうであることが判明しました。こちらはカリウム塩は付いていません。


臨床的なプロファイルは分かりません。アンジオテンシン2受容体拮抗剤のインスリン抵抗性改善作用というと連想するのはtelmisartan(テルミサルタン)です。Benson等の論文によると、単にPPARガンマ作動力を持っているだけでなく、二型糖尿病薬として広く用いられているPPARガンマ作動剤rosiglitazoneと殆ど同じ箇所に結合するようです。AtacandもPPARガンマ作動性が指摘されていますが、Miura等の論文によれば、二型糖尿病高血圧患者を対象としたクロスオーバー試験でインスリン抵抗性に関連するバイオマーカーに変化が出たのは、Atacandではなくtelmisartanでした。Marshall等の論文によれば、telmisartanのPPARガンマに対するKiは0.29nmolで、Atacand(61)やirbesartan(6)、valsartan(12)、losartan(3)、olmesartan(12)の10~200倍以下です。Atacandの血圧治療時の用量はtelmisartanより低いので、PPARガンマ作動によるインスリン抵抗性改善が小さくても不思議はないのかもしれません。


研究者の改良努力によって、インスリン抵抗性改善力がどの程度強化されたのか、今後の臨床成績発表が期待されます。



フェーズⅢ試験の概要


ClinicalTrials.govにはTAK-491のフェーズⅢ試験が4本登録されています(2008年初の時点)。治験のデザインをチェックして、どのようなプロファイルが期待されているのか推測してみましょう。


07年9月にフェーズⅢ入りしました。全て、血圧降下作用を調べる試験で、用量は40mgまたは80mgを一日一回投与です。一本目の009試験は利尿剤(chlorthalidone 25mg)とTAK-491の併用、二本目の010試験はカルシウム拮抗剤(amlodipine 5mg)と併用する試験です。併用試験を先行させたところを見ると、武田薬品もノバルティスや第一三共と同様にコンビ薬の投入を狙っているのでしょう。011試験が興味深いのは、黒人を対象としていることです。アンジオテンシン2受容体拮抗剤は白人と比べて黒人に対する作用がやや弱いのですが、TAK-491は違うのかもしれません。


07年12月には米国でトップシェアを誇るアンジオテンシン2受容体拮抗剤valsartan(承認最大用量の320mg)とTAK-491の40mg、80mgの血圧降下作用を比較する301試験が開始されました。アンジオテンシン2受容体拮抗剤の主要製品はあと数年で特許が切れます。何れも大型薬なので、数多くのジェネリック薬会社が参入し、価格が10分の1程度に下落するでしょう。新薬が競争力を維持するためには、olmesartanと同様に、他の薬より効果が上回ることが最低限の条件です。


09年には、chlorthalidoneを配合した合剤の試験も始まる予定です。利尿剤のベストセラーはhydrochlorothiazide(HCTZ)で、米国では単剤と各種合剤の合計で処方箋数が年一億枚を超えています。これはLipitorの倍以上で、外来薬の隠れたベストセラーといえるでしょう。アストラゼネカが販売しているAtacand(プロブレス)の合剤もHCTZ配合剤です。にもかかわらず、敢えてchlorthalidoneを開発し、しかも、この試験ではTAK-491とHCTZの併用群も設けています。何か狙いがあるのでしょう。因みに、chlorthalidoneはあのALLHAT試験で、amlodipineやlisinoprilに匹敵する成績を挙げた薬です。TAK-491合剤の用量はALLHAT試験と同じ一日12.5mgと25mgです。販促時にALLHAT試験の威を借りる狙いなのかもしれません。上記のように、chlorthalidone併用試験も実施されています。


最初の3本は09年春までに結果がまとまるでしょう。Valsartan対照試験は09年冬頃でしょうが、もしかしたら、この試験の結果が出る前に承認申請に向かうかもしれません。



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