2008年3月2日日曜日

STENO-2試験とACCORD試験の違い

ACCORD試験の論文はなかなか出ませんね。"several weeks"内ということなので、4月までには刊行されるのでしょう。これだけ大きな騒ぎになったのですから、エディトリアルも含めてオープンアクセスにしてほしいものです。3月末にはENHANCE試験や糖尿病薬Actos(アクトス;pioglitazone)の冠動脈アテローム試験の論文も刊行されるでしょうから、忙しくなります。

さて、アメリカの医療ニュースサイトに寄せられた読者のコメントを読むと、Steno-2試験とACCORD試験を混同している人もいるようなので、整理しておきましょう。Steno-2試験では強化介入が奏効して、心血管疾患のリスクが半減しました。しかし、この二つの試験はデザインがかなり異なっているので、結果が違っても辻褄は合います。

Steno-2試験はデンマークで実施された、微量アルブミン尿を合併する二型糖尿病患者160人を対象とした試験です。オリジナルの論文は2003年に刊行されましたが、ACCORD試験の血糖スタディの中断が報じられたのと前後して、長期追跡試験の結果が刊行されました。私も論文の見出しや要約を読んだ時はアレッ、と思いましたが、この試験は多元的強化介入(intensified, multifactorial intervention)と記されているように、血糖値だけでなく血圧やコレステロール、BMIなど様々な代理マーカーをアグレッシブに治療しています。伝統的介入群はこの試験が実施された90年代のガイドラインに従った治療を受けましたので、今日のスタンダードから見れば不十分です。


Steno-2試験の治療目標

多元的強化介入群伝統的介入群
HbA1c<6.5%<7.5%
収縮期血圧<130 mm Hg<160 mm Hg
拡張期血圧<85 mm Hg<95 mm Hg
総コレステロール<150mg/dL<195mg/dL

注:93-99年の目標。ガイドラインが改定されたのか、2000年以降は両群とも目標が強化された。




血圧やコレステロールを積極的に治療すれば心血管リスクが低下するのは、数々の治験から明確です。一方、血糖に関してはエビデンスは明確ではありません。影響が小さいのだとすると、もし血糖治療方針が適切でなかったとしても、血圧やコレステロールの治療効果の影に埋没するでしょう。

ACCORD試験も血糖だけでなく血圧やHDL-Cを治療する効果も調べています。しかし、2x2デザインなので夫々の因子を別々に分析することが可能です。具体的には、被験者は血糖集中治療群と標準治療群に割り付けられた上で、更に、血圧集中治療群、血圧標準治療群、fenofibrate群、偽薬群の何れかに割り付けられました。血糖集中治療群と血糖標準治療群を比較する上で、血圧などの治療方針の違いは無視することができるのです。

もうひとつの違いは、Steno-2試験では血糖値が目標ほど下がっていないことです。論文にはグラフしか出ていませんが、強化介入群の平均HbA1cは8%台から7%台に低下しただけです。ベースライン値は異なるものの、到達値ではACCORD試験やADVANCE試験の標準治療群と大差ありません。

このようなわけで、Steno-2試験が成功したからといって、HbA1cを6.5%未満に維持する治療法の有効性が支持されたとは言えません。


J-DOIT3試験について



私は海外担当なので日本の話は良く分からないのですが、ACCORD事件は日本で実施されている大規模アウトカム試験にも影響したようです。井蛙内科開業医/診療録で知ったのですが、J-DOIT3試験の組入れが一時、中断されたそうです。臨床試験を行う上で一番重要なのは被験者に不必要な不利益を与えないことですので、適切な判断でしょう(私が言うのは不遜ですが)。

J-DOIT3試験の臨床試験実施計画書を読むと、この試験も多元的強化療法試験なので、日本版STENO-2試験と呼ぶことができそうです。


J-DOIT3の治療目標

強化治療群通常治療群
HbA1c<5.8%<6.5%
収縮期血圧<120 mm Hg<130 mm Hg
拡張期血圧<75 mm Hg<80 mm Hg
LDL-C<80mg/dL<120mg/dL
(IHD既往)<70mg/dL<100mg/dL
HDL-C≧40-
TG<120mg/dL<150mg/dL
BMI≦22kg/m2≦24kg/m2

注:IHDは虚血性心疾患の略。本試験はIHD既往が7割を占めることが見込まれている。海外の試験と比べて特徴的なのは、血糖降下剤の第一選択薬がActosであること。PROActive試験で心筋梗塞再発予防効果を示したことが理由。海外では欧米の糖尿病学会が第一選択薬に指定しているmetforminをベースとすることが多い。



STENO-2試験は規模が小さいのが弱点ですが、J-DOIT3は組入れ目標が3338人と大きいので、良いエビデンスができるでしょう。私たちが注意しなければならないのは、血糖値をアグレッシブに治療する是非を調べる試験ではないということです。二型糖尿病は血糖値を下げればそれでOKではなく、心筋梗塞を予防するために様々なリスク因子を治療すべきであることを立証するための試験なのです。当然のことながら、Actosの効能を調べる試験ではありません(笑)。




0 件のコメント:

コメントを投稿

Valsartanは名古屋では引き分けに

次は、同じくACCのLate-breakerで発表されたNagoya Heart Study(NHS)です。試験の内容や結果は納得できるものですが、分からないのは、Kyoto Heart StudyやJikei Heart Studyとの関係です。この二本の試験ではvalsart...