2009年2月11日水曜日

prasugrelと2C19多型

昨年12月に、Plavix(clopidogrel)は2C19酵素の機能が弱い人には効きにくい、という話を書きました。この試験は第一三共とイーライリリーがアメリカで承認申請したprasugrelとclopidogrelを比較したものですが、論文が刊行されたNew England Journal of Medicine誌にはprasugrelのデータが記されていませんでした。諮問委員会資料に出ていたので補足しておきます。


関連記事:Clopidogrelの2C19問題

prasugrelは2C19多型の影響を受けないようです。論文著者がprasugrelに言及しなかったのは、多型スタディの対象となったサブポピュレーションのclopidogrel群のイベント発生率が全clopidogrel群の発生率よりかなり低かったため、群間比較に適さないと判断したようです。

2C19多型サブスタディ

prasugrelclopidogrel
解析対象:
TRITON治験全体68136795
2C19多型サブスタディ14551459
うち、機能低下多型キャリア(%)28.027.1
       ノンキャリア(%)72.072.9
主評価項目発生率(%):
治験全体9.912.1
サブスタディ9.49.3
うち、機能低下多型キャリア(A)8.512.1
       ノンキャリア(B)9.88.0
Cox比例HR(A対B)0.891.53
95%CI0.60-1.311.07-2.19


注:主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的卒中。発生率は15ヵ月間のカプラン・メイヤー推定。HRはハザードレシオ。

出所:Cardiovascular and Renal Drugs Advisory Committee Briefing Document, Eli Lilly


この表のように、clopidogrel群に関しては2C19機能低下多型のキャリアはノンキャリアよりも心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的卒中のリスクが有意に高かったのですが、prasugrel群では有意差はありませんでした。clopidogrelは体内で複数のプロセスを経て活性化されます。prasugrelもプロドラッグですが、プロセス数が少なく、2C19が機能しない患者でも他の酵素で活性化されます。これまでに実施された薬物動態試験でも、ex vivoの血小板凝集阻害試験でも、2C19機能低下多型の影響を受けませんでした。TRITON試験のサブスタディで、臨床的にも影響されないことが確認されました。

prasugrelの弱点は、H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤を服用している胃内pH値が高い患者で、吸収が悪化・遅延することですが、TRITON試験では服用の有無に関わらずclopidogrelより効果が優れていました。TRITON試験はこの薬の薬物動態的な長所が改めて発揮された、と言えるでしょう。

ところで、冒頭に書きましたように、サブスタディ全体の主評価項目発生率はclopidogrel群もprasugrel群も大差ありませんでした。NEJM論文の付属資料にclopidogrel群の患者背景が出ていますが、サブスタディは東欧の施設で組み入れられた患者が64%と、TRITON試験全体の25%と比べてかなり多くなっています。他の点では大差ないので、この違いが何か影響したのかもしれません。両群を見比べると、キャリアはprasugrelのほうが良く、ノンキャリアはclopidogrelのほうが良い、ということになりますが、このような解釈で正しいのかどうかは良く分かりません。

clopidogrelは2C19多型の影響を受けるがprasugrelは大丈夫、という大変重要なデータなのですが、このデータではprasugrelのほうが効果が高そうには見えないので、宣伝には使いにくいのでしょう。偶々、諮問委員会の資料で見つけることができなかったら、prasugrelのデータを知る機会は永遠になかったかもしれません。






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