2008年3月15日土曜日

ヘパリン事件の続報

お知らせ:BfArMがRotexmedica製品によるドイツでの重度アレルギー反応の症例は37例と発表しましたので、記述を一部変更しました(2008年3月28日)。


ヘパリンの副作用問題は、日本の複数のウェブサイトで我が国は大丈夫なのかという声が出ていました。テルモなど三社や厚生労働省が機敏に対応したのを見て、ほっとした人も多かったでしょう。バクスター社といえば薬害AIDS事件でも登場した血漿分画製剤の大手なので、どうしても薬害AIDS、薬害C型肝炎事件を連想してしまうのですが、過去の失敗の教訓は生かされている、といえるでしょう。


前回に引き続き、ニュース報道を振り返ってみましょう。最初に、厚生労働省の3月10日のリリース(pdfファイル)を読むと、当初は日本側にも油断があったようです。


「これまで、米国バクスター社製ヘパリン製剤に使用されているヘパリン原薬は、中国のChangzhou-SPL社で製造されたもののみとの報告を受けていたが、3月5日付け米国バクスター社公表資料により、米国バクスター社製ヘパリン製剤のヘパリン原薬は、中国のChangzhou-SPL社に加えて米国SPL社においても製造されていることが判明した。」


意味不明ですが、想像で補うと、以下のように考えていたのでしょう。



  1. バクスターが米国で自主回収したのは中国製APIを用いた製品だけ

  2. 日本の三社の製品は米国製APIを使用

  3. 故に、日本で同様な過敏反応が起きるリスクは小さい


しかし、バクスターのAPI調達先であるSPL(Scientific Protein Laboratories)の生産体制はもっと複雑でした。SPLのホームページにはヘパリンのサプライチェーンを示す図が掲載されていますが、中国製原料を中国で加工した「1060製品」と北米製原料をアメリカ工場で加工した「1037製品」に加えて、中国製原料をアメリカ工場で加工した「1035製品」の三種類が存在したのです。SPLは、FDAが開発した判定法で陽性を示したAPIの自主回収を3月5日決定しました。日本側は、この連絡を受けて慌てて自主回収を決めたという経緯なのではないでしょうか。但し、SPLによれば、日本の製品では今のところ、ヘパリン類似物質の混入は確認されていないようです。


FDAが開発した判定法は、キャピラリー電気泳動法と陽子核磁気共鳴法です。私自身は全く知識がないのですが、ヘパリンとヘパリン様物質のグラフがどう異なるかを示す図がFDAのウェブサイトで公開されています。FDAはこの検査が実施され合格するまでヘパリン原料・APIの輸入を認めない、という方針を打ち出しました。日本や欧州の規制局にも情報を提供した模様です。

キャピラリー電気泳動法の試験・判定方法(pdfファイル)

核磁気共鳴法の試験・判定方法(pdfファイル)


以下は、最近の主な報道です。



  • New York Times紙3月8日報道:ドイツで自主回収されたRotexmedica社の製品は、中国のChangzhou Quianhong Bio Pharma CompanyとYantai Dongcheng Biochemicals Companyから調達した原料を使用。共にヘパリン材料の輸出で中国の大手10社の一つ。欧州の薬品規制機関であるEMEAによれば、ドイツ以外の国ではアレルギー反応の多発は起きていない(米国でもAPP社製品では発生していない模様なので、やはり、同じ中国の原料でも会社によってリスクが異なるのでしょう)。

  • WSJ紙3月10日報道:SPLの中国合弁は化学品製造企業として登録されているため中国版FDAの監督を受けていないが、Changzhou Qianhong Bio-Pharma Co.とYantai Dongcheng Biochemicals Co.は受けている。問題が発生していないSchenzhen Hepalink社によれば、規制を満たすだけでなく自ら高い基準を設けて品質管理体制や社員教育、小腸仕入先の選別・監督を行うことが重要。Shenzhen Hepalinkでは既知の豚感染ウイルス全てを除去・不活性化できる工程を持っている(報道を読む度に、この会社の経営者の見識には感心させられます)。

  • 同:ある豚肉処理業者が、価格高騰で羊の内臓を使わざるを得ないケースもあると告白。ヘパリン原料製造者は、2006年以降中国で流行しているblue ear病というウイルス疾患に罹った豚を用いたこともあると語った。(WSJ紙は積極的に現地取材して、ヘパリン原料生産の実態を生々しく報告しています)。

  • WSJ紙3月13日報道:ドイツの規制局であるBFARMは、主要10社に対して、中国製ヘパリン原料の使用状況を確認して、もし使っている場合はFDA方式を用いて混入の有無を確認するよう要請。ドイツでは当初、80例のアレルギー反応発生と発表されたが、その後、30例に減少した。うちRotexmedica製品は3例で、他の症例は不明(注:ドイツの規制機関BfArMが3月10日に出したりリースによれば、Rotexmedica製品の重度アレルギー反応は37例とのことです)。

  • FDAの3月14日付発表:中国に事務所を置いて現地の規制機関や企業との連携・検査を強化する。

今回の事件に関しては、何とかして原因を発見して対策を打ち出して欲しいものです。Arixtra(fondaparinux)のような全化学合成品に切り替えれば抜本的な対策になるのでしょうが、価格がネックのようです。それでも、被害が繰り返されるようならば、例えばインスリンや第VIII因子が遺伝子組換え品にシフトしたのと同じようなことが起きるかもしれませんね。


尚、SPLは2004年にArsenal Capitalがワイスから8100万ドルで買収し、その後、2006年にAmerican Capitalという別のプライベート・エクイティ・ファンド(株式上場しているファンドでは最大規模)が買収、8割以上の株式を持つ大株主になっています。


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