ヘパリンは血液が凝固するのを妨げる薬で、腎臓透析やある種の心臓手術を行う時に、あるいは深静脈血栓や肺塞栓の治療・予防に、用いられます。米国では70年の歴史があるようです。ブタの小腸から取った成分が原料です。
リンク:ヘパリン原料工場のスナップショット(WSJ紙)
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事の発端は今年1月9日に、アメリカの疾病対策予防センター(CDC)が一部の透析センターでアレルギー反応が多発したとFDAに報告したことです。1月16日にFDAがバクスター社のニュージャージー工場を立ち入り調査したところ、バクスター側から、一部ロットを自主回収するとの報告がありました。バクスターは翌日、顧客や問屋に一部製品の一部ロットのリコールを伝えるレター(pdfファイルです)を送付し、25日にはプレスリリースも出しました。2月11日には他のロットでも同様なアレルギー反応が起きていることを発表しました。その段階では、FDAの同意の下に、一部製品の生産を一時的に中止しただけで、リコールは行われず出荷も続けられたのですが、2月28日に至って、他の製品・ロットも自主回収されることになりました。
2月11日のFDAの発表によると、バクスターのヘパリンに関する有害事象報告は2007年には数十件だけだったのが昨年末以降急増し、350件に達しました。殆どは透析センターで起きていて、点滴ではなくボラス投与したケースでした。薬との因果関係は不明ですが死亡例も4例発生しました。主な症状は、悪心嘔吐、口の腫脹、呼吸困難、急速な血圧の低下など。
バクスターは米国のヘパリン市場で5割のシェアを持っています。FDAが即座に全製品リコールを求めなかった理由の一つは、供給不足懸念だったようです。シェア第二位のAPP社の製品では同様なトラブルは起きていないようです。
バクスターの生産委託先であるScientific Protein Laboratoriesは、原料を中国江蘇省にある合弁会社Changzhou SPLから調達しています。FDAはこの工場を現地調査していませんでした。輸出特区なので、中国版FDAの検査も受けていないようです。一方、APPのヘパリン原料は同じ中国企業でもShenzhen Hepalink Pharmaceuticalで、こちらはFDAの検査に合格しています。中国製品ではペットフードやおもちゃでも安全性問題が表面化したことがあります。これらのことから、マスコミは中国工場に疑いの目を向けました。
- FDAが中国の工場を実地検査していなかったことを認めた、とWSJ紙が一面トップで報道。
- FDAが中国の工場を実地検査しなかったのは検査済みの他の工場と名前を混同したことが原因、と Chicago Tribune紙が報道。
- 国家食品薬品監督管理局(中国版FDA)側は中国製医薬品原料を監督する究極的な責任は購入国にあると発言、とWSJ紙
が報道。 - 中国はヘパリン原料の供給基地で、07年上期にはドイツに13トン、フランスに11トン、米国に10トン輸出した、とNew York Times紙が報道。(New York Times紙も登録が必要だったと思います)
- 中国でブタのblue ear病が流行したことと関連性があるかもしれない、とChicago Tribune紙が報道
本当に中国工場が原因なのかはまだ分からないのですが、3月に入って二つの進展がありました。第一は、FDAがアレルギー反応の起きたロットの中からヘパリンに類似した異なる物質を発見したこと。簡単には判別できないほど似ているようです。アレルギー反応が報告されていないロットからは検出されなかったとのことなので手掛かりにはなりそうです。FDAは全メーカーに対して、この物質が混入していないかどうか検査するよう求めたようです。
更に、ドイツでも数十件、発生していることが明らかになりました。Bloombergの報道によると、Laboratoires Panpharma SA.グループのRotexmedica社の製品の一部ロットが回収され、政府が全社に調査報告を求めたそうです。この会社はバクスターとは異なる中国企業から調達しているようです。中国のヘパリン原料の輸出先上位はドイツ、フランス、アメリカの順だそうですから、次はフランスで同様な事件が起きるか注目されるでしょう。
アメリカの有害事象報告は氷山の一角で、大半は報告されずに埋もれてしまうのだそうですが、大騒ぎになると一転して、続々と報告されるようになります。ヘパリンの深刻なアレルギー反応も、とうとう、2007年以降の報告数が785件、うち死亡は19例に達したようです。ほかの国でも安閑とはできませんね。
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