2008年5月4日日曜日

C型肝炎治療の新星

新しいタイプのC型肝炎治療薬が臨床開発の階段を一歩ずつ上がってきました。順調に進めば2011年にも欧米で発売されるでしょう。日本でも、それほど遅れずに発売されるのではないでしょうか。

C型慢性肝炎の現在の標準療法はPEG化インターフェロンとribavirinの併用で、過半の患者が奏効しますが、難治性のI型ウイルスに対する奏効率は4割程度です。また、奏効しなかった場合の選択肢は少なく、奏効率もあまり上がりません。そこで注目されているのが、STAT-C(Specifically Targeted Antiviral Therapy for HCV)と呼ばれる一連の薬です。

HIV/AIDS治療では、ウイルスがリンパ球に感染して内部で増殖し、リンパ球を出て次の感染先を見つけるまでの様々な過程をターゲットとする薬が実用化されています。逆転写阻害剤やプロテアーゼ阻害剤、エントリー・インヒビター、インテグラーゼ阻害剤などです。HIVというウイルスはしぶとく、直ぐに薬剤耐性を取得してしまうので、異なった過程を阻害する複数の薬を併用して強力かつ一気呵成に叩く、多剤併用療法が一般的です。これらの薬と同様に、C型肝炎ウイルス(HCV)の増殖に必要な酵素などを阻害するのがSTAT-Cで、HCVの複製・組立に必要な酵素であるNS3プロテアーゼや、RNAの転写に必要なポリメラーゼを阻害する薬が臨床開発の中期・後期に進んでいます。HCVも直ぐに変異してしまうので一剤だけではうまく行かない模様ですが、PEG化インターフェロンやribavirinと三剤併用することによって克服できそうです。

開発が最も進んでいるのはプロテアーゼ阻害剤VX-950(telaprevir)で、アメリカのバイオ企業バーテックス(ホームページ)がジョンソン・エンド・ジョンソンと提携して、昨年、フェーズⅢ試験を開始しました。日本の権利は田辺三菱製薬が持っていて、フェーズⅠ試験中です。

先日、欧州の学会で、I型ウイルスに感染して初めて治療を受ける患者を対象としたフェーズⅡb試験の途中経過が発表されました。様々な用法がテストされていますが、一番良さそうなのは三剤併用で12週間治療した後に更にPEG化インターフェロンとribavirinの二剤だけで12週間治療する『24週間コース』です。持続的ウイルス学的奏効率(SVR:治療を終えてから24週間経った時点でウイルスが検出されなかった患者の比率)はPROVE 1試験が61%、PROVE 2試験が68%でした。標準療法(48週間コース)のSVRはPROVE 1試験が41%で、PROVE 2試験は未だ結果が出ていません(コースが長いので時間がかかるのです)。一群80人程度の試験ですが、中々良い結果といえるでしょう。主な有害事象はラッシュ、掻痒、貧血、下痢、悪心など。HIV/AIDSの多剤併用療法と同様に副作用も増えますが、治療期間が半分で済むというメリットもあります。

この学会では、フェーズⅡb試験で標準療法群に組み入れられた患者のうち、奏効しなかった患者に三剤併用投与した試験の初期解析結果も発表されました。現時点では症例数が少ないのですが、治療開始後4週間経った時点で、60人中49人がウイルス検出不能になりました。

STAT-Cは標準療法と異なり作用のオンセットが早いのですが、一方で、治療を続けるうちにウイルスが再燃してしまうことがあります。このため、初期のデータが良くても楽観はできません。また、この試験はキチンとした無作為化対照試験ではなく単群試験に過ぎません。それでも、二次治療でこれだけの成果が上がったというのは驚くべきことでしょう。

標準療法が奏効しなかった患者にVX-950を単剤投与した試験ではあまり良い結果が出ませんでしたので、三剤併用しても駄目なのではないかと私は思っていました。三剤のうち二剤は効かなかったわけですから、事実上、単剤投与と同じなのです。しかし、この試験では標準療法に殆ど反応しなかった患者でも過半が探知不能になりました。STAT-Cにはインターフェロン感受性を高める作用があるらしく、シナジーが生じているのかもしれません。

シェリング・プラウもプロテアーゼ阻害剤boceprevirでフェーズⅡb試験(I型、一次治療)を実施しています。フェーズⅡb試験の途中経過データが発表されましたが、VX-950と同様に、良さそうな結果が出ています。

ポリメラーゼ阻害剤ではロシュがR1626のフェーズⅡa試験(同)の途中経過を発表しました。標準療法群は48週間の治療を終えた段階で奏効率が65%。一方、三剤併用で4週間、標準療法で更に44週間治療した群の同様な奏効率は84%でした。ここでも、20ポイント程度上乗せされています。R1626は有害事象発生率がやや高く、ラッシュや刺激過敏、疲労などに加えて、重度の血小板減少症や重篤(グレード4)の好中球減少症が見られました。ロシュはファーマセットと提携してR7128も開発しています。まだフェーズⅠのデータしかありませんが、忍容性はこちらのほうが良さそうです。

STAT-Cの第一号は、副作用が原因で開発中止になりました。第二号以下にも同じ落とし穴が待っているかもしれません。しかし、今のところは順調に進んでいるようです。




0 件のコメント:

コメントを投稿

Valsartanは名古屋では引き分けに

次は、同じくACCのLate-breakerで発表されたNagoya Heart Study(NHS)です。試験の内容や結果は納得できるものですが、分からないのは、Kyoto Heart StudyやJikei Heart Studyとの関係です。この二本の試験ではvalsart...