2009年9月21日月曜日

南半球のインフルエンザ流行状況

南半球は冬のインフルエンザシーズンを終えました。現地の感染状況や症例調査は、これから冬を迎える北半球の人々にとって重要です。アメリカ政府が作成した報告書を見つけたので内容を紹介します。

Assessment of the 2009 Influenza A (H1N1) Outbreak on Selected Countries in the Southern Hemisphere
は保健社会福祉省などが09年8月26日付で作成したもので、アルゼンチン、オーストラリア、チリ、ニュージーランドとウルグアイの状況を概観しています。

アルゼンチンはアメリカ、メキシコと並んで新型インフルエンザ関連の死亡者数が突出して多い国です。何か特殊な事情があるのか、それとも単に定義や報告体制が違うのか、今回の報告書では明確ではありませんが、何れにせよ、症例数が多いことはそれ自体価値があります。


南半球の新型インフルエンザの特徴




  • 流行期間:季節性インフルエンザと大差なかった。最初の感染者が報告されたのは4-5月、インフルエンザ様疾患がピークをつけたのは6月下旬から7月上旬で、ピークまで6-7週間だった。

  • ウイルス亜型の構成:当初は季節性ウイルス感染もあったが、新型が増加した後は圧倒的多数を占めるようになった。

  • ウイルス株:南半球で流行した株はアメリカで発見されたものと類似しており、新型インフルエンザワクチンに採用された株は現在流行しているものとマッチしていることになる。ほぼ全ての株はノイラミニダーゼ阻害剤に感受する。これらの五カ国の抗ウイルス薬治療対象は、感染が確認された重症例、疑い例、感染者や疑い例と接触した合併症のリスクが高い人だ。

  • リスク因子:パターンはアメリカと類似。一般的には病状は軽い。感染者は学童と65歳未満の成人が圧倒的に多い。致死的な例はごく少数。合併症のリスクが高いのは妊婦や持病を持っている人。オーストラリアやニュージーランドでは先住民の入院率がそれ以外の人たちと比べて各5倍と3倍、高い。アメリカは死亡例の71%が25-64歳の人だが、南半球でも同様。死亡例の47-60%はインフルエンザ合併症のリスク因子、例えば慢性肺・心血管疾患を持っていた。

  • 感染予防策:学校閉鎖、大規模集会・イベントの中止、自宅静養・隔離などの手段が取られた。

  • 医療施設の負担:ヘルスケア・システムはストレスを経験したが、全般的に局地的、短期間に留まった。流行の初期段階では入院、救急科、外来が急増した。一部の国では病床数や器具、医薬品が一時的に不足した。

  • 経済影響:現時点では明確ではないが、外出自粛推奨や旅行者の減少で一時的・局地的な社会・経済影響があった。アルゼンチンは感染のピーク時に、妊婦などリスク因子を持つ職員が休暇を取る制度を導入し民間にも勧奨した。海外からの旅行者が減少し、国内の旅行や飲食、消費も影響を受けた。一方で、軽微な影響に留まった国もあった。

  • 留意点:これらの国の医療制度はアメリカとは異なっている。また、新型の登場のタイミングもアメリカはシーズン入りの前、南半球はシーズンが始まった後と異なっている。更に、冬が終わった後の流行パターンは明確ではない。

インフルエンザ関連の入院・死亡数
人口入院数死亡数
アルゼンチン4,091 万人6,346(15.66)439(1.07)
オーストラリア2,118 万人4,122(19.38)132(0.62)
チリ1,660 万人1,325(7.80)128(0.78)
ニュージーランド421 万人915(21.71)16(0.38)
ウルグアイ349 万人na(na)34(0.97)
参考:アメリカ30,726 万人7,983(2.60)522(0.17)

注:カッコ内は人口10万人当りの発生率。アルゼンチンとチリの入院数は重度急性呼吸器感染症による入院で、幼児のRSV感染も含んでいる。それ以外はH1N1によるもの。



死亡例の特性分析を国別に見ると、アルゼンチンでは50-59歳が一番多いとのことです。また、サンプル調査によると死亡例の47%がリスク因子を持っていて、肥満が18%、心疾患が8%、COPDが7%。肥満がリスク因子という話は聞いたことがありますが、トップは意外です。女性でリスク因子を持つ82例のうち、妊婦・出産後が19.5%を占めていました。

オーストラリアでは73%が65歳未満でした。入院例で一番多いのは5歳未満ですが、ICU収容例は80%が30-59歳でした。入院例の4%が妊婦で、25-35歳の女性の入院例の35%を占めました。

アルゼンチンやチリはRSV感染も含まれているのですが、それにしても、アルゼンチンの5歳未満の10万人当り入院率は39.09と国民平均の倍以上です。チリは1歳未満が62.6、1-4歳が15.9で同じく8倍と2倍です。アメリカの場合も0-4歳が6.3、5-24歳が3.0、65歳以上2.9と就学前の子供の被害が目立ちます。

アルゼンチンでは季節性インフルエンザの死亡者は年3500-4000人と推測されているので、この冬の死亡数は1割程度に留まっていることになります。同様に、ニュージーランドは年400人ですので、例年の1割以下だったことになります。


新型インフルエンザの感染者は10代の子供が多いのですが、深刻な合併症のリスクが高いのは、呼吸器官や心臓などの持病を持っている人や免疫抑制剤を使っている人、肥満、妊婦・出産直後の女性、5歳未満、50代ということになります。これらの国の十万人当り数値を日本に当てはめると、入院数が1-3万人、死亡数が500-1500人となります。近年の死亡数は年200-2000人でしたので、特に多くはありませんが、例年と異なり妊婦と50代の人は特に注意が必要かもしれません。


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