この治験はS北研と呼ばれる北里薬品の製品を用いて、9月17日から国立病院機構の病院で20歳から59歳の200人を組み入れて実施しました。標準用量(15mcg/0.5mLを皮下注射)と倍量(30mcg/1mLを何故か筋肉内注射)の二群が設定され、二回接種する計画ですが、今回の中間報告は一回目の接種の3週間後、二回目の前に、ヘマグルチニン阻害抗体価を調べたものです。結果は、一回でも十分な効果があることが分かりました。
標準量 | 倍量 | |
用量 | 15mcg | 30mcg |
投与方法 | 皮下注射 | 筋肉内注射 |
n | 96 | 98 |
抗体保有率(%) | 78 | 88 |
抗体陽転率(%) | 75 | 88 |
出所:国産ワクチン臨床試験の中間報告(速報)(pdfファイルです)
数値は倍量群のほうが高いので、本当はこちらのほうが良いのかもしれません。副反応(副作用)の発生率は倍量群のほうが低いので、筋注のほうが良いのかもしれません。しかし、倍量群では高度の副反応が2例、発生しました。アナフィラキシーと皮膚の中毒疹で、何れも喘息症やアレルギーの既往歴を持つ患者で発生しました。喘息症患者は優先接種対象なので、心配になります。結局、無難なのは標準量、ということになるでしょう。但し、日本も海外と同様に筋注のほうが良いかもしれません。今後の課題です。
二回接種後のデータがまとまるのは11月中旬のようですので、現時点では有効率がどの程度向上するのか分かりません。また、優先接種対象のうち基礎疾患保有者や妊婦、高齢者、青少年に関するデータはありません。
現時点では海外のデータに頼らざるを得ません。丁度良いタイミングで、中国で行われた中国製ワクチンの試験結果がNew England Journal of Medicine誌で論文発表されたので、見てみましょう。
全部で2000例を超える、現時点では最大のデータです。日本と同じ不活化スプリットワクチンですが、三角筋に筋注したことと、11歳以下にも成人と同じ量を投与しているのが日本の標準用法と違います。61歳以上ですら一回の接種で79%が免疫を獲得できるという凄い結果になりました。季節性インフルエンザ・ワクチンのデータからは想像もできない良い数値です。
3-11歳 | 12-17歳 | 18-60歳 | 61歳以上 | ||
n | 440 | 550 | 660 | 550 | |
一回後 | 15mcg | 74.5 | 97.1 | 97.1 | 79.1 |
30mcg | 82.7 | 97.0 | 92.6 | 84.1 | |
偽薬 | - | - | 10.7 | - | |
2回後 | 15mcg | 98.1 | 100.0 | 97.1 | 93.3 |
30mcg | 98.1 | 100.0 | 98.1 | 96.3 | |
偽薬 | - | - | 11.1 | - |
出所:Zhuら、N Engl J Med 2009; 361:2414-2423
15mcgを一回接種した後の21日間の有害事象発生率は、注射箇所反応が6%、グレード3以上の重度なものは0.5%となっています。18-60歳では各9%と1.8%で、同じ世代の偽薬群は3%と0%でした。全身性有害事象は12%、グレード3以上は0%。18-60歳は15mcg群が各11%と0%、偽薬群は12%と1%となっています。因みに30mcgは注射箇所反応発生率は15mcgと大差なく、全身性は16%、グレード3以上が0.9%とやや高くなっています。
このデータはアジュバントが入っていないワクチンです。アジュバント入りは有害事象発生率がもっと高く、効果はもっと低いという変な結果になっています。
それにしても、中国は臨床試験に熱心ですね。治験を行うには社会や政府の後押しが必要です。日本はワクチン自給政策を取っているのですから、エビデンスについても自給自足できるよう取り組まなければいけません。
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