2008年4月12日土曜日

ヘパリン事件備忘録

(4/12:オーストラリアでも自主回収していたことが分かりましたので、3/26の記事を加筆して差替えました)

ヘパリン関連の自主回収はアメリカや日本に留まらずにドイツ、スイス、フランスなどにも広がっています。このうち、実際に被害が報告されているのはアメリカとドイツだけで、他の国は、FDAが開発した新しい検査方法で陽性を示したことが引き金になったようです。


Wall Street Journalの報道によると、これまで安全と考えられていたShenzhen Hepalink Pharmaceuticalの製品に関しても疑念が生じたようです。この事件はまだまだ、終わりそうにありません。


これまでの流れを整理すると、



  1. アメリカで、重度アレルギー反応が多発したことからバクスターが製品を自主回収

  2. FDAが、重度アレルギー反応が発生したロットにヘパリン類似物質が存在することを発見

  3. FDAが、この混入物はキャピラリー電気泳動法と陽子核磁気共鳴法で探知できることを発見

  4. FDAは、アメリカのヘパリン及びAPIメーカーに検査を要請するとともに、他国の規制機関にも情報を提供

  5. SPLが実施した検査で、あるいは他国で他の会社が実施した検査で、一部バッチに陽性反応が出たため、当該API・製品が自主回収

  6. 日本は検査が陰性だったが回収

ということのようです。




























ヘパリン関連の自主回収

内容
1/17アメリカ バクスターが一部ロットの回収を開始
2/28 アメリカ バクスターが他の殆どの製品の回収を発表
3/5 アメリカ FDAがヘパリン様物質の発見と検査方法を発表。SPLが陽性を示したロットの回収を決定
3/5 ドイツ Rotexmedicaが全てのバッチの自主回収を決定
3/10 日本 厚生労働省と3社がSPL製APIを用いたヘパリン製品の回収を発表
3/20 フランス Rotexmedicaの親会社であるPanpharmaの製品で陽性反応、自主回収
3/20 スイス Bichsel AGとB. B. Braun Medical AGの製品で陽性反応、自主回収
3/20 オーストラリア アストラゼネカが一部ロットを回収
3/21 アメリカ、カナダ B. Braun Medicalが自主回収を発表、SPLのAPIで陽性反応が理由
不明 イタリア、デンマーク イタリアのOpocrin SpAがヘパリンAPIを回収




自主回収発表に関するリンク


オーストラリアの自主回収も、中国由来の原料を用いたヘパリン製品の一部ロットで過硫酸化硫酸が発見されたことが原因との事です。オーストラリアでは他にホスピラ、ファイザー、バクスターも販売していますが、自主回収はアストラゼネカ製品に留まっているようです。アストラゼネカの原料調達先は分かりません。

前々から不思議に思っていたのは、低分子量ヘパリンは大丈夫なのかということです。オーストラリアの規制局TGAによると、ファイザー製品は検査に合格。サノフィ・アベンティスの製品は3月20日段階で検査中とのことです。検査したくらいですから低分子量ヘパリンは大丈夫ということでもないのでしょう。価格が高い分、原料調達先も選りすぐりでババを掴まされることはない、ということなのでしょうか。


Wall Street Journal紙など複数の報道機関が、欧州の医薬品監督機関であるEMEAから入手した情報として、自主回収を行った会社のAPI・ヘパリン原料入手先を詳述しています。Opocrin社ではSchezen Hepalink Pharmaceuticalから調達した原料・APIバッチでも陽性反応が出たようで、同紙は、これまで安全と考えられていたAPP社製のヘパリンも楽観できなくなったのではないかと論じています。SPLに売却できなくなった悪徳業者が、他のAPIメーカーにアプローチしたとしても、不思議はありません。アメリカで非加熱血液製剤の販売が禁止された時、メーカーは対策として日本などへの輸出に拍車をかけた、という報道をNHKの番組で見た覚えがあります。


メディア報道によると、自主回収を行ったヘパリン・APIメーカーの中国の仕入先は以下の通りです。但し、全てのベンダーの原料・APIが陽性だったわけではないようです。


















ヘパリン・APIメーカーのチャイナ・コネクション
会社中国のベンダー
バクスターChangzhou SPL
Rotexmedica、PanpharmaChangzhou Qianhong Biopharmaceutical、Yantai Dongcheng Biopharmaceutical
OpocrinYantai Dongcheng Biopharmaceutical、 Shenzen Hepalink Pharmaceutical、Shanghai No 1 Biochemical
B. Braun MedicalChangzhou SPL
テルモ、大塚製薬、扶桑薬品Changzhou SPL


バクスターはアメリカのヘパリン製品市場で5割のシェアを持つ大手ですが、それでも、年商は1000万ドル程度だったようです。安価であるが故に広く用いられていたのでしょうが、メーカーにとっては旨味の無い製品でしょう。商取引の基本は相互繁栄だとしたら、ヘパリンは地盤が脆弱なので、今回のような事件が将来も繰り返される可能性がありそうです。

アメリカでアナフィラキシーが多発した原因が過硫酸化コンドロイチン硫酸だとしたら、キャピラリー電気泳動法・陽子核磁気共鳴法による検査で混ぜ物をブロックすれば対処できることになります。しかし、敵は、今度は別の薬や食品の模造品を作って儲けようとするでしょう。今回の事件は犯罪である可能性が高いのですから、犯人を捕まえることが不可欠です。


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