2008年3月22日土曜日

ヘパリン事件から学ぶ

ヘパリン事件の犯人探しは先週も一歩前進しました。第一に、アレルギー反応が起きたヘパリンから発見された「ヘパリン類似物質」は、過硫酸化コンドロイチン硫酸であることをFDAやバクスター社が突き止めました。コンドロイチン硫酸は生物由来の物質で、日本でもサプリメントの成分として販売されています。


参考リンク:独立行政法人国立健康・栄養研究所コンドロイチン硫酸に関する評価


一方、過硫酸化コンドロイチン硫酸は天然物質ではなく化合物です。SPL社の中国合弁工場で行われたヘパリン原料の検査では、2-50%が過硫酸化コンドロイチン硫酸でした。過硫酸化コンドロイチン硫酸はヘパリン原料よりも低コストで生産できるようです。蟹チャーハンの蟹の半分が実は蒲鉾だった、というような話ですので、おそらく、ヘパリン原料の仕入先に一杯食わされたのでしょう。


冷凍食品に農薬が混入した事件とは性格がかなり異なるようです。中国製品を巡っては、過去にも、風邪薬の中に全然違う成分が含まれていたために多数の死者を出した事件がありました。中国内でも色々な被害が出ているようです。有名ブランドの鞄の贋物だけでなく、バイアグラのような有名医薬品の贋物も見つかっています。同じ感覚で、医薬品材料の贋物で一儲けを狙う人、あるいは組織が存在するのでしょう。


このような中で朗報は、中国がヘパリン問題解決に向けてアメリカと歩調を合わせ始めたことです。New York Timesによると、政府がヘパリン原料やAPI生産の監視を強化すると発表しました。これまでは、「化学工場として登録されているのだから医薬品工場としての検査は必要ない」とか、「安全性を確認する究極の責任は輸入国にある」とか発言していたのですから、大きな転換です。政府間で協力合意が結ばれたことが大きいようです。


日本と中国の関係は米国と中国の関係より複雑ですが、例えば日本が中国の冷凍食品に文句を言うのではなく、協力を要請し、中国がそれに応えるという形にすれば、双方の顔が立つのではないでしょうか。


さて、今回はすっかり悪役のようになってしまったSPL社とは、どんな会社なのでしょうか?前から興味を持っていたのですが、バクスター社が3月5日に発表した資料(pdfファイルです)にこれまでの歩みのようなものが記されていました。両社の取引は36年の歴史を持っているようです。それにしても、バクスターがSPLの歩みを語るのは変な話ですが、実は、バクスターのヘパリン事業とSPLは、共にワイスの子会社だったことがあるのです。ワイスは2000年代に入ってフェンフェン事件の和解金を捻出するために事業売却を進めましたが、おそらくその一環で、注射用ジェネリック薬部門(ヘパリンも販売)はバクスターに売却し、APIメーカーのSPLは投資ファンドに売却したのです。


バクスターの資料によると、SPLがアメリカで中国原料を使ってAPIを作り始めたのは12年前のことです。日本のヘパリン製品メーカーがSPLの原料が中国製であることを知らなかった、という事実に改めて驚かされます。おそらく、それが商慣習であり、それで規制もクリアできるのでしょう。APIメーカーが犯罪に巻き込まれないよう、中国政府に期待しましょう。


SPL社の歩み
1972年SPLがESI Lederle社にヘパリンAPIの供給を開始
1996年SPLがウィスコンシン工場で中国製ヘパリン原料を用いたAPIの生産を開始
1999年SPLが中国で合弁会社SPL-CZを設立
2002年バクスターがESI Lederleをワイスから約3億ドルで買収
2004年SPL-CZがバクスター向けのAPI生産を開始
ワイスがSPL株式をArsenal Capitalに8100万ドルで売却
2006年Arsenal CapitalがSPL株式をAmerican Capitalに売却





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