2009年3月25日水曜日

非劣性と同様の違い

医薬経済社のRISFAXを読んでいたら、「UFT」による乳がん治療、標準療法に非劣性示す、という記事がありました。しかし、大鵬薬品のプレスリリースには非劣性という言葉は出てきません。論文刊行を宣伝した記事ですが、その論文の抄録にも非劣性検定が成功したとは記されていません。「similar(同様)」と「非劣性」を記者が混同したのでしょう。観点を変えると、書き方が紛らわしかったのでしょう。


Jounal of Clinical Oncologyに刊行されたのはN・SAS-BC 01試験の結果です(リンク:抄録)。リンパ節転移のない早期乳癌の切除を受けた患者の中から再発リスクが比較的高い約700人を組み入れて、UFTを2年間経口投与する群とCMF三剤併用療法(シクロホスファミド・メトトレキサート・フルオロウラシル)を6サイクル施行する群に割り付け、6年以上追跡しました。主目的はUFTの無再発生存率がCMFと非劣性であることを確認することでした。結果はそれぞれ87.%と88.0%、ハザード比は0.98なので確かに同様な結果です。しかし、95%信頼区間は0.66-1.45と広く、効果が3割以上低い可能性を否定できていません。抄録しか読んでいないので分かりませんが、主目的を達成できたとは記されていないので、成功しなかったのでしょう。


もし成功しなかったのだとしたら、同様と記されているのはミスリーディングなのではないでしょうか。このような言い換えは頻繁に見られることなので医学誌の常識には反していないのでしょう。しかし、医学研究の成果を社会と共有することが重要になった今日、専門家の間でしか通用しない隠語のような言い換えは回避すべきなのではないでしょうか。


おそらく、本文に正確に記されていればそれで良しという考え方なのでしょう。しかし、様々な学者が指摘しているように、普通の医療従事者は抄録しか読みません。Journal of Oncologyを購読していない臨床腫瘍学医はいないでしょうから例外扱いすべきなのかもしれませんが、臨床試験の最大の目的は主評価項目を検討することなのですから、首尾が割愛されていたら抄録としての価値がないでしょう。


RISFAXは業界紙なのですから、同様と非劣性が異なることを知っていなければならないでしょう。それはそれとして、もっと一般の人にも分かり易い書き方をしてほしいものです。










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