このような長期試験の論文を読む度に感銘するのは、試験を行った研究者、参加した患者、そしてそのスポンサーとなった製薬会社の努力です。このような貴重なデータの生みの親たちに感謝したいと思います。そして、このデータを真剣に議論することが重要だと思います。
治験の内容
WOSCOPS試験はスタチンの代表的なアウトカム試験の一つです。LDLコレステロールが155mg/dL以上で、まだ冠状心疾患(心筋梗塞など)を発症していない男性6595人を偽薬群とpravastatin(一日40mg)群に割り付け、平均4.9年間治療を行いました。
結果は、冠状心疾患が原因で死亡したり心筋梗塞を起こしたりした患者の比率が偽薬群が7.9%であったのに対して、pravastatin群は5.5%となり、統計的に有意なリスク削減効果が確認されました。
今回の試験では、その後更に10年間追跡しました。治験は既に完了しpravastatinの服用も任意でしたので、5年(治験開始からは10年)経った段階では、偽薬群のpravastatin服用者は35.2%に増えましたが、pravastatin群は38.7%に減りました。それでも、10年間の冠状心疾患・心筋梗塞発生率は各10.3%と8.6%となり、有意な差がありました。15年間の通算では、各15.5%と11.8%で、これも有意差がありました。癌の発生率やそれによる死亡には群間の偏りはありませんでした。
感想
追跡期間中の服用率は大差ないようですから、最初の5年間薬を服用した効果がその後も続いたことになります。凄いですね。15年間の発生率の差は3.7ポイントですから、27人に15年間投与すると、冠状心疾患死・心筋梗塞を一件減らすことができる計算になります。年率換算すると405人に一人です。
スタチンが登場した頃は癌などの副作用が懸念されましたが、15年追跡しても偏りが無かったのならば、リスクは小さいのでしょう。
この試験はどのように解釈したらよいのでしょうか?追跡調査期間中のpravastatinの服用率がヒントになると思います。
WOSCOPS試験は高脂血症患者の心筋梗塞一次予防におけるスタチンの効能を確立した、ランドマーク的な試験です。効能が明確になったのに、 pravastatin群の患者の過半は、その後服用を止めてしまいました。殆どのケースは、医師・患者が自主的に判断して打ち切ったのでしょう。心筋梗塞はできるだけ避けたい、だけどリスクが高くないのに薬を飲み続けるのは嫌だ、ということなのでしょう。
WOSCOPS試験の教訓は、私たちは、高リスク患者をスクリーニングするためにもっと努力しなければいけない、というなのでしょう。
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