2009年9月4日金曜日

Valsartanは京都で誰を倒したのか?

ARBは日本で特に人気があり、アウトカム試験も複数実施されています。8月末のESC学会では、京都府立医科大学とその関連病院で実施されたKYOTO HEART Studyの結果が発表されました。治験論文(オープンアクセス)も同時刊行されたのですが、奇妙な点を一つ見つけたので、治験概要を説明した後で書きます。



KYOTO HEART Studyのデザイン:管理不良高血圧で心血管疾患リスク因子を持つ3000人を、valsartanを追加投与する群とARB以外で治療する群に無作為化割付。降圧目標は両群とも同じ。主評価項目は脳卒中、心筋梗塞、心不全、急性心筋梗塞、狭心症の複合評価項目でPROBE法を採用。


結果:対照群のイベント発生率は解析計画の前提を下回って推移したが、valsartan群は更に低かったため、メジアン3.2年経過時点の中間解析で主目的を達成。主評価項目発生率はvalsartan群5.4%、対照群10.2%、ハザードレシオは0.55(95%信頼区間0.42、0.72)、p=0.00001。個別項目では脳卒中(ハザードレシオ0.55)と狭心症(0.51)が有意に少なかった。糖尿病の発症も有意に少なかった。急性心筋梗塞、全死亡、心血管死は夫々にハザードレシオが1を下回ったが、p値は0.3以上で有意差はない。


格好良いですね。valsartanが宮本武蔵のように一人で他の血圧降下剤に立ち向かい瞬く間に倒してしまいました。もう一つ格好が良いのが、両群の血圧平均値の推移を示したグラフです。この試験の仮説、即ち、降圧だけでなく薬の選択も重要であることを立証するためには、両群の血圧に偏りが生じないようにしなければなりません。上手く行かずに小さな差が出てしまうことが多いのですが、この試験では、二本のラインが最初から最後までキレイに重なっています。そのままでは一本に見えてしまうので、対照群のラインを少し右方向に移動させているくらいです。


奇妙なのは、他の血圧降下剤の使用状況です。両群とも、ベースライン時点の157/88 mmHgから133/76 mmHgに、24/12 mmHg低下しました。ベースライン時点の服用状況と治験論文の記述に基づいて試算すると、valsartan群の服用薬剤数は平均1.02から2.02に増えましたが、対照群は1.02から1.12程度にしか増えていないことになります。valsartanの効果が他の降圧剤の10分の1とは考えられないので、きっと、表記されている併用薬剤のデータは、対照群に追加投与された「ARB・ACE阻害剤以外の血圧降下剤」をカウントしていないのでしょう。


こんな計算をした理由は、このような試験では試験薬が特に優れているのか、対照薬が特に悪いのか、検討しなければならないからです。ベースラインではCCBの人気が高く54%が服用していたので、対照群の追加薬剤もCCBが多かったかもしれません。一方、既にCCBを服用している患者には他の薬を使うでしょうから、利尿剤やβブロッカーかもしれません。βブロッカーといえばアテノロールは単純高血圧症のアウトカム試験の成績が悪いことで有名で、近年は「咬ませ犬」状態になっています(対戦相手にアテノロールを選べば勝てる公算が大きい)。


宮本武蔵が勝ったはずなのですが、倒したのが雑魚なのか、大将なのか分からないのでは迫力に欠けます。武蔵といえば巌流島の戦いで、valsartanも、佐々木小次郎と一対一の対決をすべきだったのかもしれません。



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