2010年2月20日土曜日

ラピアクタはタミフル耐性ウイルスに有効か?

塩野義製薬の点滴用インフルエンザ治療薬、ラピアクタ(ペラミビル)が承認されました。一足先に、非常事態法制に基づいて承認した米国ではタミフル(オセルタミビル)に感受しないH275Y変異株は禁忌とされましたが、日本では添付文書にも特には言及されていません。審査文書も読んでみましたが、結局、今後の研究課題ということのようです。また、経口投与より点滴のほうが効果が早いような気になりますが、大して変わらないようです。


今春に新型インフルエンザが流行し始めて以来、世界のインフルエンザ感染例は新型が圧倒的に多く、8割以上を占めています。最近になって中国ではB型が5割を占め、カナダでも1-2割を占めるようになってきたので、10/11年シーズンは様子が変わるかもしれません。しかし、WHOが10/11年シーズンのワクチンに新型を配合するよう推奨したように、今後も新型の流行は続くと考えられているようです。


ここで問題なのがタミフルが効きにくいH275Y変異型ウイルスの動向です。08/09年に流行した三種類のウイルスのうち、A/H1型は殆どがこのタイプでした。幸い、新型のA/H1ウイルスはタミフルが効きますが、H275Y変異型もちらほらと発見されるようになりました。今までのパターンから想像すると、2-3年のうちには新型でもこのタイプが主流になるかもしれません。


その頃には感染やワクチン接種を通じて免疫を獲得した人が増えているでしょうから、新型の脅威は緩和しているでしょう。しかし、新型ウイルスが変異して免疫で対処できなくなったり、病原性(入院・死亡率)が高まるかもしれません。過去の大流行では、第二波、第三波で死亡率が急増したこともありました。


万一に備えるにはタミフル耐性ウイルスに効く薬を一つでも多く用意する必要があります。ラピアクタの有効性も今のうちに良く調べておく必要があるでしょう。効くと思っている人が多いような印象を受けますが、もし効かなかった場合は治療が後手に回ってしまいます。点滴用なので特に状態が悪い患者に使うケースが多くなるでしょうから、時間は重要です。


残念ながら現時点では有効性はハッキリしないようです。



in vitroノイラミニダーゼ阻害試験



  • H275Y変異が蔓延した時期に行われた第3相試験の検体を用いた試験では、A/H1N1型に対するペラミビルのIC50は22.2nmol/L。

  • 蔓延する前に行われた第2相試験の検体では1.41nmol/L。

  • A/H3N2型やB型に対してはどちらの試験の検体でも大差ない。

  • 上記のA/H1N1の検体でタミフルのIC50は87.7mol/Lと2.56nmol/L。



このデータを見ると、タミフルほどではありませんが活性が低下しています。




日本の第2相試験の活性低下例



  • 約300人を偽薬、ペラミビル300mg、同じく600mgの3群に割り付けて一回投与。

  • 600mg群の97人中5人でIC50が投与前の15-20倍の水準に上昇。この5例の全てで最終分離ウイルスにH275Y変異が認められた。



急に変異したとも思えません。始めからH275Y変異株が混じっていて、ペラミビルが他の株の増殖を抑制したために勢力を増したのだとしたら、ペラミビルがこのタイプに十分な効果がないことになります。




日台韓の第3相試験のインフルエンザ罹患期間



  • 約1100人をペラミビル300mg、同じく600mg、タミフルの3群に割り付けて、ペラミビルは一回点滴、タミフルは一日二回、5日間経口投与。

  • インフルエンザ罹患期間の中央値は各78時間、81時間、81.8時間。ペラミビルの二群のハザードレシオは0.946と0.970、97.5%上限は1.129と1.157で非劣性(Cox比例ハザードモデルによる解析、非劣性マージンは1.17)。

  • 被験者の55%を占めたA/H1N1感染例では、各80.2時間、83.6時間、88.3時間。ハザードレシオは0.854と0.927、97.5%上限は1.085と1.176。



このシーズンのA/H1N1にはタミフルは効かなかったはずですから、罹患期間やハザードレシオが開いても不思議はありませんでした。タミフルは罹患期間を12時間程度短縮しますので、タミフルに偽薬並みの効果しかなく、ペラミビルが十分に有効ならば4-8時間程度の差では済まないのではないでしょうか。とはいえ、全体の解析より差が大きいので、ペラミビルが全く効かないという印象は受けません。


尚、この試験では用量反応相関が見られませんでしたが、第2相試験でも同じでした。罹患期間という評価項目は感度が低いのかもしれません。だとすると、検出力の低いサブセグメント分析には拘らないほうが良いかもしれません。


審査文書には、H275Y変異ウイルスに対する有効性は不明確、と記されています。目の前の脅威である新型に関しては今のところ重要な問題ではないので、解決を先送りして、承認することを優先したのでしょう。しかし、今となっては治験を行ってもH275Y変異株感染者はあまりいないでしょうから、真実を知るのは困難です。新型で変異株が蔓延するようになれば症例を集めることが容易になりますが、変異株対策が後手に回ってしまいます。


タミフルの異常行動問題が注目された時、残念だったのは日本の治験組入れ数が決して多くなかったことです。おそらくタミフルだけの問題ではないでしょうから、第一三共が承認申請したリレンザ改良薬にも注意が必要でしょう。しかし、タミフルの偽薬対照試験ですら十分に分析できなかったのですから、タミフル対照試験のデータをいくら検討してもリスクの有無は判断できないでしょう。ラピアクタのH275Y変異問題も同じで、偽薬対照試験を実施していればもっとはっきりしたことが分かったかもしれませんね。



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