次は、同じくACCのLate-breakerで発表されたNagoya Heart Study(NHS)です。試験の内容や結果は納得できるものですが、分からないのは、Kyoto Heart StudyやJikei Heart Studyとの関係です。この二本の試験ではvalsartanがARB/ACE阻害剤以外で治療した群より優れていたのですが、NHS試験ではamlodipineと大差ありませんでした。candesartanとamlodipineを比較した試験も大差なかったので、結局、valsartanが京都や東京で倒したのは雑魚で大将格のamlodipineとは良い勝負、ということなのでしょう。
Nagoya Heart Studyの概要
- デザイン:名古屋地域などの46施設で実施された多施設試験。PROBE法。intent-to-treat解析。
- 対象:二型糖尿病又は耐糖能異常を合併する高血圧患者。40-75歳。6ヶ月以内の心血管疾患、狭心症でCCB治療、LVEF40%未満などは除外。valsartan群575例、amlodipine群575例、計1150例。
- 患者背景:平均年齢63歳、女性34%。平均血圧145/82 mmHg。二型糖尿病82%、耐糖能異常18%。平均HbA1c7.0%。異脂血症43%、心血管疾患歴26%、脳血管疾患歴4%。ベースライン時点の服薬はARB30%、CCB45%、ベータブロッカー22%、SU剤25%、インスリン7%、その他の血糖治療薬34%、アスピリン27%、スタチン40%。
- 治療方法:valsartan(80-160mg/日)ベースの治療を行う群と、amlodipine(5-10mg/日)ベースの群に無作為化割付。降圧目標は130/80 mmHg未満。降圧不十分な場合はARB、ACE阻害剤、CCB以外の降圧剤を追加可。メジアン3.2年間追跡。
- 主評価項目:複合評価項目(急性心筋梗塞、脳卒中、PCIやCABG、心不全による入院、突然心臓死)
- 主評価項目の解析結果:valsartan群のイベント発生率は9.4%、amlodipine群は9.7%、HRは0.97(95%CI 0.66-1.40)、p=0.85で有意な差は無し。
- 個々のイベントでは、発生数が一番多かったのはPCI/CABGと脳卒中だが、どちらも群間の偏りは無し。うっ血性心不全による入院は3例対15例、HR0.20(0.06-0.69)でp=0.01。
- 副次的評価項目の全死亡は22例3.8%対16例2.8%、HR1.37で有意差は無いがやや気掛かり。
- 血圧・HbA1c:valsartan群は131/73 mmHg、amlodipine群は132/74 mmHgで有意な差は無し。HbA1cは両群とも6.7%に低下。
- 有害事象で多かったのは固形癌、眩暈、肝機能低下など。群間の偏りは無し。
心不全入院で有意差があったことはそれ自体は頷けるものですが、OSCAR試験もNHS試験もPROBE法なので治験医の主観が影響した可能性もあります。複合評価項目の個々の項目の解析は、数が多いだけに、偶然有意差が出てしまう可能性もあります。イベント数がそれほど多くないこと、p値があまり低くないこと、多重性の補正が行われていないようであることを考えれば、慎重に考えたほうが良さそうです。
JIKEI、KYOTO、そしてNAGOYAのHeart Studyは何れもvalsartanの心血管アウトカム試験で、治験名からはvalsartan三部作というイメージが湧きます。JIKEIとKYOTOはvalrartanの心血管イベント予防効果がARB/ACE阻害剤以外の降圧剤で治療した群より有意に優れていて、中でも脳卒中/TIAや狭心症入院、心不全入院などのデータが良かったのですが、何れも医師の判断が絡むソフト・エンドポイントであることが議論の的になりました。二重盲検ではなくPROBE法を採用する場合、このような議論に十分に反応できない弱みがあります。それでも、二本の試験で同じような結果が出たのですから、重視せざるを得ません。
Nagoyaは組入れ条件や対照薬が異なるので同一視できませんが、ARBとamlodipineの間に差が無かったという点では海外で行われたVALUE試験や日本で行われたcandesartanの試験と共通しています。結局、広く用いられている降圧剤同士の比較なら、臨床的転帰に大きな違いはないということなのでしょう。